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ThebesWorldOnline  作者: 海村
51/137

第50回 「枕『ちょ、痛っ!八つ当たりはやめてくださいよ!痛ぁ!?』」


「ごめん」

「なんで謝るの?」



 そんなやり取りから始まる夜の客室。


 俺たちは一つのベッドに、背中合わせに座っている。


 先ほどのアーヴァインショップでのやり取りの、何かが気に入らなくて、マナは機嫌が悪いようだが。

 やれやれ、俺が鈍いのは俺自身自覚があるほどだが、マナが怒っている理由がさっぱりわからない。

 マナはどうやら、その事もひっくるめて機嫌が悪いようだが、さて何をやらかしてしまったのか。


 今夜も長期戦だろうか。


 しかしホントめんどくさい奴だ。


 ──でも、可愛くて、良い奴で、一緒に居ると楽しくて、とっても大事で。こいつと一緒に居るために、そろそろリアルが蔑ろにされつつある現状があるくらい、大切な相棒で。


 お互い涙も見せ合ったような間柄で。


 でもめんどくさい奴だ。


 ホント、"女の子をこじらせた"ような。はぁ。


 なんで謝るかって?そりゃ──


「そりゃお前が怒ってるからだよ」

「そんなことない」


 意を決して切り込むも、取りつく島がない。

 嗚呼もうまどろっこしい。


 嗚呼。嗚呼そうだな。

 もともと自負するほど馬鹿な俺が、変に熟考したところで妙案なんぞ思いつく筈がないんだ。


 俺は一度大きく深呼吸すると、がばっと振り返ってベッドを横断し、後ろに居たマナの隣に座る。


 突然の俺の行動に、一瞬怒りを忘れて呆けたような顔になっている。

 再びそっぽを向かれる前に、俺はマナの肩を掴んで、ちょっと強引かなとも思いつつ、こちらを向かせる。


 つまり。


「ごめん!わからない!怒ってんのはわかるけど、何で怒ってんのか、俺、バカだからわからない!でもこのままは嫌だ!おしえてくれ、マナ!」


 俺にできる最大限の努力ってのはつまり、わからないなりに、マナに対して誠実であるという事。それだけしかない。


 マナは最初、勢いに圧倒されるように驚愕の表情で、次いで、事ここに至ってまだわからんちんな俺を責めるような目をして、それからなんだか苦々しい顔をして視線を逸らす。


 で、最後には。


「それ、聞いちゃう・・?」


 どういうわけか赤面して、少し伏せた目線を、やはり合わせない。

 その反応に俺はやはり首をかしげるばかりなのだが、なんにしろ


「だって、お手上げなんだ。マナ、怒ってるだろ? 俺には理由が思い当たらないんだけど、このままは嫌なんだ。お前とわだかまりを残したままなんて嫌だ。教えてくれ、マナ」


 俺が肩を掴んだまま、覆いかぶさるような勢いで重ねて言うと、マナは慌てた様子で俺を押しとどめる。


「ちょ、ちょ、ユージン!わ、わかったよ!怒ってない!もう怒ってないから!」

「ほ、本当か!?」


 ようやく迫るのを止めた俺からそそくさと距離を置きつつ、一つ咳払い。


「も、もう・・ユージンらしいと言えばそうだけど・・・そういうの・・ずるい」


 呟くように小さな声で、それだけ洩らす。


 今度は聞こえた。

 聞こえたが、やはり何のことかよくわからない。


 が。


 一先ず許されたと、俺は安堵の息を吐きながら座りなおす。


 ふたり、仕切り直す様に長く息を吸って、吐いた。


 で。


「──それで結局、何で怒ってたんだ?」

「ぴゃ!?」


 俺が改めてそういうと、マナはまた爆発するみたいな勢いで顔を赤くし、責めるような、拗ねるような視線で俺を見つめてくる。

 そしてまるで羞恥に耐えかねた様に両手で顔を覆うと、短く呻く。


「け、結局聞くのぉぉぉ?」


 泣きそうな声でそんなことを言うが、事情が呑み込めてない俺は困惑するばかりだ。ここまで来たら納得のいくとこまで解決しておきたい。


 ので。


「え、ええと。繰り返さないためにも、是非」


 戸惑いながらも俺がそう答えると、マナは顔を覆っていた手を下ろして、キッと鋭く睨みつけるような目で俺の顔を覗き込む。その顔はいまだ紅潮し、地の可愛さもあって、俺はやはり思わずドキリとするのだが。


「あーもう!あーもう! 僕は! "ユージンだから"一緒に居たいの! それなのにキミは"お友達いっぱいできるかも"だなんて」


「え゛」


 なんだかやけっぱちな感じに、マナはまくし立てる。


「そんな軽薄な関係、僕はいらない。ちゃんと自分で認めた、信頼できるお友達が欲しいの! だけどキミがあんなこと言うから、僕は"別に俺じゃなくてもいいでしょ"って言われたみたいで」


「いやあの」


「突き放されたみたいで寂しくて。お互いのことちょっとは分かり合えてるつもりだったのに、ユージンはそうでもなかったのかな。僕の勘違いだったのかなって。僕にはユージンしかいないのに、ユージンは・・・」


 とまらない。タガが外れた様に、ずっとしゃべり続けている。


「それがなんだか悲しくて。でもそんなこと言ったってきっとユージンを困らせるだけだし。それになりより・・そんなこと・・・わざわざ口に出して言うのは・・・」


 そこまで言われて俺はようやくピンときた。


 なるほど、俺はつまり、例えて言うなら"自分に片思いしてる女の子に別の男を薦める"みたいなことを、やらかしていたわけか。


 さりげなく女の子役になってるとこまでマナらしいっちゅうか、なんというか。そして、マナもそれを意識していたからこそ、恥ずかしいんだろう。


 そして、だからこそ。


「えー・・ということは。今回のこれって、一言で言うと」


「もうっ"言わせんナ、恥ずかしい"ってやつだよ!ユージンのバカ!」


 そう言うや、逃げる様にベッドの、俺とは反対側にボフっと倒れ込む。


「うにゅぅぅぅぅぅんっ」


 そんな悩まし気?な声を漏らしながら、ボスボスと枕に八つ当たりを始めた。


 ヤベェ超可愛い。


 とか他人事のように、それこそ微笑ましくそれを眺めていた俺だが、此処で唐突に先程のマナの言葉がよみがえる。


 "ユージンだから一緒に居たいの!"

 "僕にはユージンしかいないのに"



 ・・・・。


 えっと。


 ・・・・。



 ばすん。


 俺の頭の中で。


 何か変な音が鳴って。


 ああ多分俺今顔真っ赤にしてる。

 なんてとこだけは変に自覚が有って。


 ああ、やべ。これ、うれし・・いや、素直に喜んでいいのかコレ。


 い、いやおち・・おち・・おちけつ。


 これは男から言われてるんだ。

 つまり友情? そう、フレンドリー。


 いやいやそう割り切れるものか。

 マナなんだぞ。美少女なんだぞ。あの顔で言ってんだぞ。


 ああ、この苦悩が。その、つまり。なんだ。



「正直スマンかった・・」

「謝んなぁっ!!」



 俺たちの悶えるような夜は、それでも更けていく。




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