第51回 「悪目立ち」
「あっははははははは!何それウブ過ぎんでしょキミら!」
「そう笑わないでくださいよ。俺だって全部気づいた時の"やっちまった感"ときたら……」
時間は過ぎて、翌日土曜の朝。
アーヴァインショップにて。
アーヴァインは腹を抱えて笑っているが、やれやれこっちの身にもなってくれってんだ。
マナは……ええと、なんだっけ? アルバイト……みたいなもの?
とやらで、土曜日の午前中はTWOに居ないので、今は俺一人、店頭の椅子でぼやいている。
考えてみれば、この生活は異常だ。いや俺たちゲーマーなら普通に"あり"なケースではあるが。特に寝食を忘れてとかのレベルではないし、お互いリアル都合があるときはそちらを優先している。しかしながらそれ以外の時間はほぼ必ずと言っていいほど一緒に過ごしていた様に思う。
俺たちがTWOを始めて、早一ヶ月が経過しようとしている。
その間中、ずっと。
ずっとだ。
俺も勢いで誘っちゃったけど、よくついて来てくれてるよな。
この"ゲーム内旅行"に誘った時、マナは"嬉しかった"と言ってくれた。
どうしてそこまで信用してくれるんだろう。
約ひと月前、あのヴァルハラの運河に架かる橋の上で、俯く少女に声をかけた。あれが初対面だったのだ。
結果的に"彼女"は実は"彼"だったわけだが。
安易にこんな2人きりの旅に付き合ってくれるのは、同性の安心感だろうか。でもマナを見ていると、本当に女の子みたいで。自分でいうのもなんだけど、こんな男の後をホイホイついて来て、なんだか危うい感じがしてならない。
俺という存在が、そんなにも貴重か。
本当に。
本当の本当に、他に誰もいないんだろうか。
独りぼっちの寂しさの、その拠り所なら親とかでもいいんじゃないか。
そもそもあれほど献身的な人物が、交友関係でそこまで孤立するだろうか。
俺がここまで見てきたマナは、冷静になって、男だと思いなおしてみてもやはり良い奴だ。ちょっとめんどくさいとこもあるけど大体素直で、変なくらい純粋で、漠然とした感想しか出せない自分の表現力が悔しいが、とにかく"良い奴"なんだ。
いったい何の事情があって、マナは"一人きり"なのか。
出会ってから。
度々。
そう、折に触れて何度も。
何度も考えてきた。
だが、それを俺が詮索することは"ルール違反"だ。
オンライン上で俺たちプレイヤーが、すべからく順守すべき"マナー"と言い換えようか。
でも。
それでも。
何かしてやりたい。
と、何度も思う。
でも、最近"それ"すらも傲慢であるかとも思う。
してやりたいだ等と。
それは完全な一方通行。俺側からだけの独りよがり。
いつ彼女が求めた? 彼女が求めているように見えたとして、その瞳の奥の"彼"がそう思っていると、どうして断言できる?
だから、これは俺のわがまま。
"マナに笑っていてほしい"っていうわがまま。
くそ。くやしい……なぁ。
「黄昏てるねぇー」
ふと、アーヴァインの声で我に返る。
「ああ、すいません。つい考え事を」
「あー、いやいや、いいんだけど。どうせあの子のこと考えてたんダロ? ずいぶんお熱なんだな」
ふと気になって、俺は聞いてみた。
「あの」
「うん?」
「俺とあいつって、どんな関係に見えます?」
「へ? ……え、恋人同士……じゃないの?」
「……デスヨネェェェェェェ」
俺が遠い目をして長い息を吐くと、アーヴァインは困惑したように首をかしげている。
「なんかややこしい事情がありそうだな。いや、ま、聞かないけど」
「聞いてくれないんですか?」
「話してくれんの?」
「いや、言えないんですけどネ」
「ダロ?」
「デスヨネー」
口から魂を漏らしそうな勢いで、俺はテーブルにべしゃっと伏せる。
アーヴァインはそんな俺を生暖かい目で見つつ
「オレ、加工やってるからさ、用事あったら声かけてくれ」
そんなことを言いながら、店の奥へ引っ込んでいく。
その時ふと、店先に並べてある商品が目に入るのだが、昨日のボスドロップの大羽根を加工したと思しき大型の装飾品が目に飛び込む。
値札に1800シルバーもの高額が張られたそのアクセサリに目をやると、手前に置かれたポップの文字が飛び込んでくる。所謂煽り文句というか宣伝文句と言うか。
"シンデレラ・フェザー"
なんと今をときめく前夜祭の歌姫が命を懸けて採取に成功した、激レアな羽根を加工した一品! 現品限り! お早めに!
とか書いてあるんですよ。奥さん聞きまして?
俺はなんというか、自分でわかるほど「あちゃー」って顔してたと思う。
マナは昨日「悪目立ちしちゃった?」とか言っていたが、あながち間違っていないのかもしれない。
旅費を稼いだら早いとこコーレルを離れた方がいいかもしれないなァ。
と。
そんなことを考えていると、ふと視界の端で明滅するアイコンに気が付く。
んー? なんだっけこれ。
まるで便箋の様な形のアイコン。明滅するそれを見て、ハッとして身を起こす。
「メールか」
どうやらメールが来ているらしい。
そういえばヴァルハラを出てから、世話になった彼らに近況報告など一度もしていないことに気が付いて、今更ながらに申し訳ない気持ちでフレンドリストを開く。
マナ以外のフレンドリストに、全てメールマークが点灯していて、俺は思わず目を覆う。
とりあえずもとりあえず。俺はフレンドリストの上から順に、片っ端からメールに目を通していく。
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From:ヴィアーネ・サルタリク
To :ユージン
件名 :おばかーっ!(ノД`)・゜・。
本文 :ナイトフェスの映像見たわよ!
気をつけなさいって言ったじゃないの!
動画は宇宙部にアップされてて、再生数もそれなりよ?
あんなの見せられたら、ずぇーったい誰かちょっかいかけてくるに決
まってるんだから。
いいこと? 変なのに絡まれたくなかったら、2、3日中はなるべく
プレイヤーの前に顔出さない方がいいわよ!
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From:ケンちゃん
To :ユージン
件名 :やれやれ
本文 :歌姫動画見たよ。
とりあえず今のところ元気でやってるようで安心した。
はじめてのVRMMOだろうし、いろいろ楽しみたいだろうから
我慢しろ、とは言いづらいんだが、今回はちょっと迂闊だったな。
姐さんからも似たようなこと言われてると思うけど、今回の件でお前
たちは"一躍有名人"ってやつだ。
ナイトフェスの本番は気になるかもしれないが、大事をとるならなる
べく早くコーレル市を離れた方がいいかもしれないな。
"不特定多数の人間"なんて"悪魔"とそう変わんないぞ。
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二人のメールを読んだ処で、俺はやはり「あちゃー」って顔して眼を瞑った。
マナとのいざこざを経て、一昨日の歌姫騒動が相当な"やらかし"だったと自覚した今、二人の言葉がぐさりと突き刺さる。
しかし……
こうして迂闊さの抜けない俺たちにアドバイスをくれる。いつもバカやってるようで、ちゃんと二人とも大人だったわけだ。
対して、俺はと言えば
"もしかしたら友達いっぱいできるかもしれないぞ"
ときたもんだ。そりゃマナも怒るよ。別の意味でも。
俺は2日前の能天気な自分をぶん殴りたい衝動にかられながら、残りのメールに目を通していく。
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From:マリーシア
To :ユージン
件名 :楽しそう
本文 :いいな! いいな!
動画見たよ! マナちゃん可愛い!
コーレル・ナイトフェスティバルってやつだな!
二人だけで楽しいことして羨ましい~(>_<)
おれっちも行っちゃおうかな~
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………………
あるぇー?
この人が一番大人だったはず……なんだが。
ううむ。
しかしあれだ。
何にせよ、旅費の工面を急がなきゃいけなくなったな。
この土曜の昼間に、コーレルバードの羽根集めがどのくらいできるかわからないが、なるべく急いでコーレルを離れようと思ったらそちらも大急ぎだ。
午後になってマナがログインしてきたら。
昨日のことをもう一回謝って。
それから、これからの事、話し合おう。
なんだか不穏なものが広がる胸の内とは裏腹な、よく晴れた土曜の空を仰いで、俺はもう一度深いため息をついた。




