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ThebesWorldOnline  作者: 海村
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第31回 「失われた晩御飯」


 で、ハンターズギルドです。


 俺たち。俺、マナ、マリーの三人はテーブルを囲って、所謂打ち上げのようなことをしていた。


「いやー、めっちゃ怖かった!見てるだけなのに震えそうでしたよ」

「ははは、しっかし気絶するまで行っちゃうとはなぁ」

「笑い事じゃないですよっ。危うく服の上にじゃばーって吐くところだったんですから!」


 マリーはあくまで笑い事だが、マナは流石に不機嫌面だ。

 そういえば、さっきの疲れた様な目とか、寝起きみたいな髪までボサボサになる表現は、やはりオートエモーショナルコントロールによるものらしく、今は不機嫌そうながらも髪とかは戻っている。


「にししし、ごめん、ごめんて。でも二人にも旨味は有ったろ?」

「んーまぁ、確かに楽して大量・・・ってことになるけど」


 実はマリーはレベルが高すぎて経験値を取得できなかったが、あの場でマリーの撃破したゾンビの経験値はその3分の1が、俺たちに割り当てられていたのだ。


 結果俺は11→13、マナは7→10と、見ているだけなのに相当レベルアップしてしまった。まぁ確かに内面的には成長したといえば成長したか・・・慣れたっていうか。


「犠牲は大きかったョ!」


 本気で糾弾するつもりはないようで、その声は拗ねるような其れだが、マナは手をふりふり抗議する。


「犠牲って、何か失ったわけでもなしに」


 俺があきれ顔でいうと、マナは拗ね顔のままそっぽを向く。

 心のピュアさを失ったとか言わないだろうな、オイ。

 確かに衝撃的だったので、新たなトラウマになりましたとか言われたらどうしようかと、一寸ヒヤッとしていたところへ。


「御夕飯のほとんどが、私の体内から失われたっ」


 あら具体的!


「ああもう、わかった。わかったよ。"埋め合わせ"な?」


 ホラーが苦手なのをわかってて、俺が強引に誘った負い目、ってことで何かいい目を見させてやろう。ということなのだが。

 俺がそういうと、途端にドキッとした表情になり、何やらバタバタと手を振って否定する。


「えっ?あ、あ、だいじょぶ。さっきはちょっと気分メッタメタだったから、ついオボエテローみたいなこと言っちゃったけど」

「え、いや、普通に悪いことしたなって思うし、いいぞ?」


 本心からそういうが、マナは自分の指にある赤い石のリングを指さして


「こ、これ。これ貰ったからあいこだよ」

「別にモノ買うに限らず、さ。なんかしてほしーこととか無いの?」


 なんとなく食い下がってみる。

 そういうとマナはまたドキッとした顔になり、少し考え込むようなそぶりを見せ、それからなんだか顔を赤くして・・?


「や、やっぱり、いい」


 そんなことを言って、下を向いてしまう。


 ちょっと!


 今何考えたの!


 すげー気になるんですけどォォ!?



「おれっち、置いてけぼりィ」



 突然横からそんな声が上がり、俺もマナもびっくーって感じで飛び上がる。

 そういえば、3人で打ち上げしてたんだった。

 ごめんおやっさん、わすれてたわけじゃ・・・わけだけど、ごめん。


 見ると、マリーがテーブルに頬杖をついて、口をとがらせている。


「やっぱりおれっち、おじゃまさま?」

「うわぁすいません!」

「だいじょうぶです!だいじょうぶですから!」


 何が大丈夫なの、マナ。


 マリーはあきれた様に、溜息をつくと、手に持っていた依頼報酬の袋をテーブルに乗せる。


「ったく、初々しいっていうか微笑ましいっていうか。やっぱりお似合いだよ、御両人」

「だからっ」

「私たちそんなんじゃっ」


「にしし、わーかってるよォ」


 わかってねーだろォォォって感じのセリフを吐きながら。


 マリーは悪戯っぽい笑みを浮かべると、席を立って、スカートのほこりを払うような仕草をする。

 俺たちが訝しむ間にも、くるっと向きを変え


「そんじゃ、二人ともレベルも心も"進展"があったようで何よりだゼ!おれっちも楽しめたから今日はこの辺で退散するよ!暑苦しくてそろそろおっさんかなしくなっちゃうかんな!ソレはご祝儀だ、二人で分けてくれヨー!」


 そんなことをまくし立てながら、とっとと立ち去ってしまう。


「え、いや、ちょ」

「ちがいますからーっ」


 抗議の言葉を追ってかけるも、その姿はとうにギルドの入口の向こう。


「ほんじゃーなー!  あ、ロイ。いいとこ来た。遊べ」

「え、ちょ、おやっさ・・・へぶ!」


 偶然ギルドを訪れたロイのベルトを掴むと、ずるずると引きずって何処かへ行ってしまう。

 俺とマナは唖然として、ただ見送る事しかできなかった。

 やれやれ、"嵐のように"ってのはああいう事だな。


 ・・・・・。


 そして、ようやく立ち直った俺たちは、どちらからともなしに、報酬袋に視線を向ける。


「置いてっちゃったね」


 あげると言われたところで気負うやつだ。マナはそのずっしり重そうな報酬袋を眺めて困ったような顔。


「まぁ確かに、まるっとおやっさんにやらせといて、お金も経験値も丸取りってのは抵抗あるなぁ」

「これに手を付けたら、認めることになるの・・?」


 ごくりと唾をのんで、じーっと袋を眺めるマナに、なんだか自分とは違う感想を感じて聞き返す。


「何を・・?」

「ご祝儀袋」


 マリーは報酬袋をまるで、俺とマナの結婚祝いのように冗談めかして置いていったのだが、どうやらそのことを言っているようだ。


「ならーん!!」


 すぱーん、と。とりあえずそこだけは明確に突っ込んでおかなきゃいけない気がした。


「さ、さすがに冗談だよぅ」


 マナは突込みを受けた部分を仰々しくさすりながら。

 なんにしても、丸々と粒銀を抱え込んだ布袋はいかにもずっしりと重そうだ。


「いくら入ってんだ、これ」


 マナもそこは気になっていたようで、二人でほぼ同時に袋をタップする。

 袋全体をアイテムとした、アイテム名が表示され、そこには──



→クエスト報酬B:粒銀塊入り布袋:8320シルバー相当



「!?」

「ファッ!?」


 自分たちの分を超えた大金に、俺もマナも驚愕の声を上げる。


 しかしあれだ、たしかにB報酬は歩合制で、マリーはそれこそ"無双"していたわけだが、ゾンビ1体当たりの報酬がいくらかわからないが、いったいどれだけ破壊したというのか。

 改めて、マリーシアというプレイヤーの戦闘力に驚愕する。

 あの強さの半分でもあれば、俺たちとて、もう悪漢の脅威に震えることもないだろう。そもそもが、マリーがあの強さになるに至る理由だって、もとは悪漢に襲われたトラウマからだ。


 俺がそんな物思いにふけっていると、マナが俺の手をつんつんする。

 はたと気が付いて、目線だけでマナに先を促す。


「ね、これどうしよう」


 こんな大金。無条件に貰ってしまっては申し訳ない。とその顔が語る。

 ああ、たしかにそんなこと俺も考えてた。

 だがしかし。


「しかたねぇよ。おやっさん素ッ飛んでっちゃったし。仲良く半分コだ」

「いいのかなぁ?」


「いいんだよ。てか何かカドが立つようなら俺が埋め合わせておくよ。黙ってもらっとけ」

「うーん」


 マナはまだ唸っていたが、俺はとっとと報酬アイテムの選択項目にある「隣接するパーティメンバーと均等に分配する」を選んで、押してしまう。


──報酬分配:4160シルバー獲得。


 おそらくマナの方にも同じシステム表示が出ていることだろう。

 しかし、4000シルバーか。

 ほんの1週前までは、200シルバーを稼ぐのに死闘を繰り広げていたのに、ずいぶん金回りが良くなった。あ、いや半分は運もあるんだけど。


 何にしろ二人とも高額を手に入れたし、俺に至ってはロイとのクエストで手に入れた分配報酬もあって、ここ数日だいぶホクホクだ。


 うーん。


 俺はしばらく考えた後、ふと思いつき、マナに声をかける。


「なぁ」

「う、うん?」


 向こうも、いまだに悪びれていたのか、何か思うところでもあったのか、俺の声に思考から引き戻されて、歯切れの悪い返事。


 俺は金銭的に余裕であると示す様に懐をたたいて


「やっぱ、埋め合わせ・・・する?」

「え、え。それはわるいよ」


 マナはやはり、どこまでも遠慮するのだが、向こうもふと思いついたような顔で切り返してくる。


「あ、それじゃあさ、明日は二人で買い物に行こうよ。埋め合わせとかじゃなくて。ウィンドウショッピング。楽しそうじゃない?」

「ふむ」


 俺はしばし思案する。

 そうだな、ここんところ急いでレベル上げをしていて、幸か不幸か、周りの助力もあり急激にレベルは上がった。と言ってもようやく2桁といったところだが。まぁゲーム開始1週間しか経過していないところを考えれば、ずいぶんな成長だろう。


「そうだな、折角週末は時間が合うんだし、馬鹿の一つ覚えみたいにレベル上げーってのより、そっちのが楽しいかもな」

「じゃあ決まりっ。待ち合わせは──・・・」


 そうだ。

 そうだよ。


 なんだかんだ「悪漢怖い」で、レベル上げを"させられて"いたな。


 楽しもう。

 ゲームなんだから。


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