第九話 美女とコンプレックス
タールは約束通り、俺に飯を作ってくれた。相変わらず、それが何なのかは分からなかったが、凄く旨かった。
「ごちそう様でした。」
「うむ。良い食べっぷりだ。そして、よく死ななかったな。カネナリの進路に出た時には恐怖でおかしくなったのかと思ったぞ。」
「うん、死ぬかもと思ったタイミングがあったけど、儲かったからいいや。もうやりたくないけど。」
人が減っていくのに耐えられなかったのもある。何より傍観していられなかった。
「そうか。お疲れだったな。」
「で、俺は3階に行けるのか?」
「ああ、3階に行ってもらう。」
「よっしゃ!命張った甲斐があるぜ!」
「3階はもっと危険度が高くなる。気をつけろよ。」
そういって3階の階段のある扉の前に連れて行かれる。1階から2階に来たときと同じ場所だ。
「念のため聞いておくが、今なら、階段を1階に繋げて、塔を降りる事ができる。このフロアの難易度から、次のフロアの難易度を考
えて、命を捨てても難しいと思った場合は塔を降りろ。」
「大丈夫だ。上に繋げてくれ。」
「お前ならそう言うと思ったよ。じゃあ繋げるぞ。」
暫く経って、扉が開く。
「レオ、なぜ勇者になりたい?」
「じゃあタールさんはなんで公務員やってんの?」
「俺も昔はハンターをしていた。公務員になった理由は子供が出来て死ぬことが怖くなったからだ。」
「そうなんだ。俺は一人だからな。お金とロマンだ。受付票にも書いたぜ。」
「嘘だな。金に汚いやつなら、カネナリの金をもっと取ってたはずだ。」
「100万でも大金じゃねえか。」
「そうか、じゃあそういうことにしておこう。」
タールさんが顎で扉の先に進むよう促す。
「じゃあな、飯旨かったぜ。」
「あっはっは。また機会があれば、くれてやろう。」
別れを済ませ、成金階段を登る。
そういえばアレンは大丈夫だったかな?死んでないよね?
アレンの事を考えながら階段を登っていると、3階の扉の前についた。
もう慣れた自動扉が開く。
「3階へようこそ。」
扉が開いた瞬間、時間が止まる。
もういろんな意味で耐性がついたと思っていたが、甘かったようだ。
そこにいた受付の女性は、綺麗な茶色のショートヘアをしていた。そして隙のない整った眉に溢れそうな黒い大きな目、細い鼻筋が通ってからの、プルっとしたピンクの唇!それらが、小さな輪郭に黄金比で収まっている。(要約:超好み)
一瞬、記憶が飛んで、直前まで何を考えていたか忘れてしまった。忘れる位なので、大した事ではないだろう。
そんなことより、俺は君に逢うために勇者の塔に来ましたと伝えてもいいだろうか?いや、早い。
「どうしました?」
テンパってしまった俺はとりあえず、自己紹介をして時間を稼ぐ手法に出た。
「レオ=ドクトルです。」
「リリ=スイートです。」
「・・・・・・・・」
だめだ、言葉が出ない。
「ようこそ、3階へ。このフロアの事を説明しますので、ソファーに掛けて貰えますか?」
そういってニコリと微笑む。
ぐはっ!いい!
勝手にダメージを受けている俺に横から声がかかる。
「はやく、座れ。」
声のした方を見ると、男が3人ソファーに座っている。
話しかけてきたのは背の低い男だ。厳つい装備をしているので力がありそうだ。
もう一人は太っている。黒いローブのようなものを着ている。
最後の一人は禿げだ。意思が強そうな目だ。なびくものがない。風にも。
「お前らは敵だ。」
「何言ってんだお前?」
そんな会話をした後、ソファーの空いている所に座る。
リリさんの方を見ると困った顔でこちらを伺っている。
「喧嘩は止めてくださいね?皆さん同じパーティーですから。」
パーティー?パーティー試練か!そんなのもあるって言ってたな。敵どころか味方だったよ。
「では4名揃いましたので、3階の説明をさせて貰いますね。」
「宜しくお願いします!」
「はい。」
「おう。」
「ああ。」
4人分の返事が出そろった後、3階の説明が開始された。
試練の説明になり、脳内ラブソングが停止する。
「3階は迷宮探索になります。ご案内する迷宮で目的のアイテムを持ち帰っていただきます。」
そういって、リリさんは緑の腕輪を見せる。
「これが目的のアイテムです。アテストリングといいます。このアイテムはダンジョンのどこかに隠されています。尚、迷宮の中のような暗い所で光る仕様になっていますので、間違えたりする事はないと思います。」
「ちょっと見せてもらっていいか?」
「どうぞ」
受け取ったリングを手で覆って暗くしてみる。すると緑色に発光しているのがわかる。
強く発光している訳ではないが、注意してみれば、遠くからでもわかりそうだ。
「ありがとう。」
そういって腕輪を返す。リリさんが腕輪を受け取って言葉を続ける。
「今回は、迷宮からアテストリングを持ち帰った方が合格になります。」