第十話 天然
「迷宮からアテストリングを持ち帰った方が合格になります。」
「持ち帰った奴だけなのか?!」
背の低い男がソファーから立ち上がる。
「はい。そうです。ただ、ご安心ください。アテストリングは複数隠されています。」
「なるほど・・・・。一応一つじゃねえって事なんだな。どういう分配にするか、難しそうだな。」
厳つい装備で威圧しながら、こちらに話かけないで欲しい。
威圧に耐えかねた黒い太った男がリリさんに質問した。
「人数分あるのでしょうか?」
「それはお答えできません。」
がっくりする太った男。嘘でも人数分あるって言って欲しかったな。
何人合格できるか分からない中で協力プレイとか、この即興のパーティーで出来るのだろうか?
「迷宮探索の制限時間は24時間です。時間を知るためにこの光時計をお渡しします。」
光時計を背の低い男が受け取る。
「その光時計は24時間経つと光が完全に消えます。この中には特殊な水が入っており、その水が光を発しています。その水は時間と共に無くなって行き、結果光が弱くなっていきます。横についている水目盛で、残りの正確な時間を知る事ができます。光が消えたら不合格ですので、消える前にリングを持って、入口に戻ってきてください。」
髪の無い男が、ちょっと小さい声でリリに訪ねた。
「個別行動は可能なのか?」
「可能です。個別行動したからといって、不合格にはなりません。ですが、」
唾を飲み込む音がする。
「あくまでもパーティーで受けて頂く試験なので、光時計は一つしか渡せません。それに、皆さんの総合、個人戦闘力は把握しておりますが、一人では攻略できないレベルの迷宮へのご案内になります。」
「・・・・・・」
それぞれが思案に耽っている。
俺も考えては見たが、なかなかイヤらしい試練になっている。
先に見つけることができたものは、安全を確保して帰りたくなるだろうし、後まで見つからないものは、皆の協力を仰がなければ攻略できない。パーティーの中で利害関係が対立するタイミングがある。
「では、皆様、運命を共にする各々の方に自己紹介をどうぞ。」
リリが自己紹介を促す。
「じゃあ俺からいこう。俺はクロック(ちび)だ。前衛職なら担える。魔法は苦手だ。」
「次は私ですか。ルート(でぶ)です。魔法使いです。氷系と土系の魔法を使う事ができます。前衛は期待しないでください。」
「俺はエルビー(はげ)だ。斥候だ。道の安全を保障しよう。一般的な罠から専門的な罠まで、引っかからない自信があるぜ。体力はあるが、攻撃力は低めだ。攻撃系魔法は使えない。」
「俺はレオ。斥候以外は一応どこでも担えるが、このパーティーなら前衛に回ったほうが、安定するだろう。」
クロックが戦士、ルートが魔法使い、エルビーが斥候、俺がオールラウンダー。
なかなかバランスは取れているな。下手を打たなければ、いきなり全滅ってことは無さそうだ。
「では、迷宮にご案内します。準備は宜しいですか?」
俺は頷く。栄養補給は2階でしてきたので問題ない。
各反応をリリさんが確認し、準備OKと判断したのだろう。
試験会場へ続くと思われる扉に向かっていき、身分証を扉にかざして、小声で呟く。
そして、扉が開く。
「どこだここは?」
思わず口にしてしまう。
鬱蒼と生い茂る木々の奥に迷宮の入口と思しき階段が見える。のはいいのだが、とにかく暑い。じめじめしている。
「ここは南フィリップ国ダイエン地方にある迷宮です。」
ダイエン地方といえば、南国リゾートアイランドとして有名だ。そんな所にあるのか。
場所を聞いて、少し考えた後、クロックが叫ぶ。
「魔王の迷宮じゃないか!」
聞いたことないな。田舎出身でごめんなさい。
その叫びにはリリさんが淡々と回答する。
「過去、そう呼ばれていたときもありました。」
「ありましたじゃねえよ!下手したら喰われるだろ!」
「制限時間内に到達できる所は知れてますから大丈夫です。では頑張ってください。」
とりあえず、知ってそうなクロックに聞いてみよう。
「魔王の迷宮って?」
「知らねえのか?神話の舞台だぞ!」
「知らないな。よっぽど危険なのか?」
「モンスターも強いが、罠が酷いと聞いている。迷宮は自己修復するから、行きに安全だったからといって、帰りも大丈夫という保証はない。」
「罠か。俺素直だから、ちょっと苦手だな。」
「・・・・俺はお前のような奴が一番苦手だ。」
もう途中退場は効かないのだろう、そういって俺達は迷宮に放り込まれた。




