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集落(隠れキリシタン)

約3時間かけて目的の村に着いた。


山道を出ると、道の向こう側はすぐ海。

左側を見ると右側に曲がっていてそれに合わせるように海が広がっている。

二人は左側に歩いて行った。


カーブを曲がると目的地の集落が有った、二人の村と、さほど変わらない村である。


峠から見えた玉石の浜の周りに古い民家が数十件程寄り添うように建っていて、

家と家の間には小さな畑が有り、それぞれの家が小さい道で繋がっている。

その小さな道は迷路のように曲がりくねり、最後は海岸沿いの大きな道に出る。

その大きな道の向こうは、玉石の浜だ。


浜には小さな小舟が陸揚げされていて、その小舟の日陰で大人たちが座り込み網の修理をしている。



この島のどこにでもある風景。



村の入り口で小さな子供3人を発見。

ヒロちんが「木下んがえ、やどこかー」と聞くと。

「うんや、だっね?」と逆に聞いてくる、ヒロちんが

「友達ばい」とそれに答える


「まさ兄ちゃんがえ?」と言ってくる


木下の名前は「雅史」であるから、子供たちの認識は間違っていない。


「うんそうばい、知っちょっね」

「知っとーよ」

「どこね」


結局その3人に家まで案内してもらう事になった。


木下の家は、二人の家と大差ない「家」だった、2階建てで横が畑、

玄関先には、網だとか鍬や肥料の袋などが無造作に置かれてその先に細い土間が有り、

土間のすぐ左横の部屋には仏壇が見える。

土間の正面には暗い台所が有り、その右横に2階に上がる階段が有った。


「まさ兄ちゃーん、だっかきちょっよーー」と子供たちが階段の所まで入って行って2階に向かって叫んでくれた。


「おお」と言いながら木下が下がって来て、子供たちに「ありがとな」と言うと、

子供たちは元気に外に出て走り去ってしまった。


「遅かったとね、上がれよ」と二人を2階の自分の部屋に案内した。


部屋に上がると、治もヒロちんもすぐにタバコに火を点けて横になってしまう、

「きつかったろう」

自分もタバコを吸いながら、木下は言う。


結局3人共そのまま寝てしまった。


「まさ、飯ばい」と言う声で目が覚めると、階段の所に木下の母親が立っていた。


「よーきたねー何んも無かばってん、食べんね」と言いながら。畳の上にお盆を置いた。

お盆の上には、沢山のご馳走が所狭しと並んでいた。


木下の村は「隠れキリシタン」の村だった。


「天草の乱」の後長崎ではいよいよキリスト教徒の弾圧が激しくなっていく、

中心人物などは激しい弾圧を受け数多くの尊い命が奪われてた。

その中で、信者たちは弾圧や、信者狩りから逃れる為に、本土の山岳地や人気のない海岸部に移り住んで行く、

その中にあって、多くの信者たちは海の向こうの小さな離島を選んで移り住む。

離島であっても、先住民は居た、

その先住民たちは比較的、波、風の穏やかな本土側の内海に住んでいたと思われる、

その先住民の目を逃れるように逃げてきた彼らは、波も風も強い外海に住み着いたみたいだ。


だから、今でも隠れキリシタンの末裔の集落は外海が多い、外海独特の「紺碧の海」厳しい環境が彼らの住まいとなったのだった。

治たちの村は明るいが、彼らの村にはどこかしら「影」がある、それは苦しい隠匿生活の歴史そのものかもしれない。



これもこの地方の歴史だが、キリスト教の弾圧が厳しい中でこの地方に流れ着いた彼らが

密告による「断罪」を受けた、等と言う事は一度として誰にも聞いた事がない。

と言う事は、おそらく先住民と隠れキリシタンの両者はお互い仲良く共存していたと思う。


だから木下の村の様な「外海」の人達は、治たちみたいな「内海」からの来訪者をとても歓迎する。

それはおそらく、先祖代々語り継がれている「感謝」の表れかもしれない。


治はそんな事を考えながら木下の母親を見る


そこには、真っ黒に日焼けした皺だらけの笑顔があった。


「かぁちゃん、もうよかけん。はよ行かんね」と少し恥ずかしのか、木下は目の前に座り込んでしまった母親に言う。


「良かたいね、かぁちゃんも少しおったって」と母親は少し話させろと言う。


ご飯を食べながら、学校の事や、双方の村の事など、たわいのない話をした。


結局木下の母親は3人が食事をする間傍で話をしていた。


「ご馳走様でした」とヒロちんと治が言うと。

「足りたね、足りんやったら台所にあるけん、しいたごと食べんねね」と言ってお盆を持って下がって行った。


食事が終わったのが夕方近く、3人は海岸に出掛けた。


西日を浴びた海が輝いている。陸揚げされている船の上に乗り座り込んでタバコを吸った。

海からの風が心地良い。


巨大な太陽が西の水平線に沈もうとしていた。


オレンジ色の光が村中に広がり、3人の座っている船を包む。


木下は見慣れた景色だが、2人には珍しい。


逆に木下は水平線から登ってくる、小さなそれでいて白く輝く朝日は珍しい。


しばらくして木下が


「おなごば、よぼか」とニヤニヤしながら言う。

それに素早く反応したのはヒロちんだった。


「誰っか、おっとね」と食いつく。

「3組ん、和子がおっよ、2年生も2人おっし」


ヒロちんと木下の話し合いで男女6人でここで飲もう、と言う事で話はまとまったみたいだ。


早速木下を先頭に女の子の家に向かった。


一件の家の前まで来ると木下は開けっぱなしの玄関に顔だけ突っ込んだ感じで


「和子、和子」と二回叫んだ。

二階の窓が開く音がして、「なんね」と二階から声がする、木下は玄関を出て狭い道路の向こうに行き、声の方を見上げて。

「ちょっこ、出てこんね」と声をかけた。


治は和子と言う1年3組の女子生徒の顔はなんとなく見覚えある程度だったが、

和子は治を知っていたらしくて。

「伊藤君やね、どがんしてここにおっと」と聞いてくる。

「木下んがえ、遊び来たったい」とだけ治は答えた。


木下が後二人の2年生の女子生徒の名前を言って、これから海で遊ぼうと誘う。

和子は快諾して先輩二人は私が連れてくる、そう言って村の奥の方に一人で歩いて行った。


治、ヒロちん、木下の3人の男たちは、木下の家に行って「焼酎」をこっそり持ち出し。


海岸で待つことにした。


5分ほどして村の向こうから、3人の女が歩いてくるのが見えた。


手には同じように、こっそり持ち出しただろう、焼酎と他の何かを持っている。


「こっちこっち」と木下が3人を呼んだ。

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