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矛盾

紫陽花の花が昨夜からの細い雨に濡れて綺麗な花を咲かせていた。


治の住むこの島には、紫陽花が群生している所がここかしこにあり、

一面「青の世界」になる。

その頃の海は、逆に青さを失う。

どちらかと言うと「緑」に近い海の色になってしまう。


霧雨が降る、月曜の朝。

治が教室に入ると、後ろの方で数人集まり、言い合いをしている、

教室の中は騒然としている、治は別に気にもせずに自分の机に座った。


その治のすぐ横で、言い合いは続いていた。


態度が悪いとか悪くないとかで言い合いになったみたいだ。


「せからしかね、外でせんね」と治はその集まりに向かって言った。


中学までなら治のこの一言で殆どの喧嘩は収まった、しかし今は収まらなかった。

収まるどころか片方の男子生徒が「なんて」と治を巻き込む。

無視して外を見ているとその男子生徒は治の横に来て


「なんち、言うたとや」と興奮して大声で言う。


治が黙っているとその生徒は治の肩を掴んで


「こっちば向かんか」と引っ張ろうとした、


次の瞬間その男子生徒は鞄で顔を正面から嫌と言うほど打ち付けられ、

短い呻き声を上げてその場でしゃがみ込んだ。

しゃがみ込んで口と鼻を押さえてる男子生徒の頭を、

治は思いっきり横から蹴り飛ばした。

「ガシャーン」と大きな音共に男子生徒は机にぶつかり

今度は頭を押さえて呻き声を上げる。

なおも治はその男子生徒の横腹を力いっぱいに蹴り上げる。

男子生徒は完全にその場に蹲ってしまう、瞬く間の出来事。


そうしておいて「せからしかけん、外でせんねち言うたろ」と何事も無かったの如く治は言った。

男子生徒は蹲って呻き声を上げている。教室は静まり返った。


この頃の治は先生にもクラスの仲間にも、絶えず妖艶としていた。

元来明るく話す方では無かったが、ここまでひどくも無かった。


中間テスト前までは少しは話す事も有ったけど、テスト後はそれも無くなり

今は一日中黙って外を見ている。

授業中など挨拶の時に席すら立たなくなっていた。


クラスの男子生徒などは中間テストで学年一位だったから「増長している」と感じた者もいて、

今横で蹲って呻き声を上げてる男子生徒も治に対してそう感じていた一人だろう。


治自身は、自分は何も変わっていない、ただ周りが変わっただけだと思っていた。



治は自分が天才や秀才と呼ばれているのは知っていた。

そう言われ出したのは、中学3年の冬ぐらいから。

高校に入ってからも、そう言われる事はますます多くなってしまう。

だが治は自分が天才とも秀才とも思っていなかった、


確かに数学は好きで、家に帰ると数学の問題集ばかりを見ていた、


治にしてみれば、小学5年生で数学が面白くなって

帰るとすぐに問題集を眺める、毎日5時間は眺めてる、

それを小学校6年までの2年間ほぼ毎日。


最初は全く分からなくてただただ眺めていた、

そのうちパズル遊びと同じで、例問題と同じように組み合わせて解くと

答えが出た。


それが面白くてまた同じようにやる、それの繰り返しを毎日やっているうちに

気が付くと解けていた。


治自身の気持ちは、


「あれだけ毎日やれば誰でもできる」そう本心から思っていた。


だから、天才とか秀才とか言われることが嫌だった。

そう言われる度に、からかわれているような気持になる、


小学校の頃、先生からよくこう言われた




「やれば誰でもできる」




その通りだと治は小学校を卒業するころに感じて


「自分が数学が分かるのはやったからだ」としか思っていなかった。


それなのに先生達は「凄い」とか「天才」とか言う。


勿論小学校からの友達もよくそれは言っていた、それは治自身腹立たしく思わなかった。

何故なら、彼らは治が、遊ぶ時間も削って問題集を見ている姿を知っていて、

その「努力」を認めたうえで、「天才」等と言うからだ。


高校に入って自分の事をまったく知らない人に「凄い」とか「秀才」とか言われると、

無性に腹が立った。


ただ沢山の時間をかけてやっただけなのに。

これがもしも、自分より頭の良い奴がやったらもっと良くなるのに。

自分は馬鹿だからここまでしか出来なかったしあんなに時間がかかってしまった。


と本心から思っていたから、その言葉を聞くたびに馬鹿にされてる気がしたのだった。


先生などは「やれば誰でも出来る」と言いながら治を特別扱いする。


「やれば誰でも出来る」なら「出来て当たり前」と言うべきじゃないか、

それなのに、実際は違う。


だから、治は先生がそう言った言葉を吐いた瞬間に「いらいら」してしまっていた。


いつもは、偉そうに、嘘をつくなとか努力は大切だ等と言いながら、


途中に嘘が有っても、結果が良ければそれは問わない。

結果が良ければ、途中の努力は気にしない。


結局は結果しか見えてない


そんな奴らを「先生」と呼ぶ気にはなれなかった。


高校一年生の治は

周りの大人たちの「矛盾」に対して疑問を感じていた。

それはそれで良いのだが、その大人たちは、


今横で蹲って呻き声を上げてる男子生徒みたいに、自分に対してまとわり付いてくる。

自分に対して無関係ならば、何も思わないが、

自分に対して、あれこれ「言葉を投げつけてくる」


大人たちは「嘘をつき、そのまた嘘を言い訳しながら」その上「怒鳴る」

たまには「手」まで出してくる。


横の男子生徒みたいに「攻撃」しないのは、治の最低限の先生に対する「礼」であった。


初日の吉野など、その「礼」の心が無ければ、

辞書で殴られた瞬間に、躊躇なく股間を蹴りあげていただろう。


逆に横の男子生徒も吉野もそうだが、全くの無防備で「攻撃」してくる、


なんともアホな奴らだ



「やるなら、喋らずにやれよ」



攻撃しようとしている「相手の情報」をまったく知らずに

無防備に攻めてくる、「奴ら」がどうしようもなく治には愚かに思えた。


もしもその相手が、武器を持ってたらどうするんだ、喋る事無く先に仕掛けてきたらどうするんだ。

それが分かっていても、悠長に「怒鳴っているのか」


先生も全く同じで、


「相手の事を深く知ろうともしないで自分の都合のいい過去ばかりを知ろうとする」


「興味のない過去や、何故そうなったのかの過去は探ろうともしない」


それで、一人の生徒を「己」の掌に載せたと勘違いする。


「褒めて、賺して、恫喝」すれば事足りると「奴ら」は思っているらしい。




治は奴らを「軽蔑」していた。



顔を見るのも声を聞くのさえも、嫌になっていた。




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