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小岩にて 2

「ありがとうございます、引き受けてくれますか!」


「待て待て、まだ引き受けるなんて言っていないだろう。「何を頼みたいんだい」と聞いただけだ」


「ああ、そうでしたね。早合点してすいません。依頼したいのは、「サナエ」と名乗る女、もしくは女達の調査です。予算はこれでなんとかお願いします」


そう言いつつケンジが差し出した茶封筒を受け取り中を改めると、帯の付いた万券が一本入っていた。


うまく立ち回れば、それなりに稼げそうな額ではある。


「初期費用で二十万。そこから先は応相談だけど、経費とギャラに応じて残額を返金するって感じだね。最悪、「なにもわかりませんでした」って可能性もあるけど、それも承知のうえで。それから領収証を含め、書面の類は一切発行しないから。それでよければ」


「勿論です。もしも足りなければ、場合によっては追加で五十万位までなら払えそうなので、遠慮なく言ってください」


 予め腹は決まっていたのだろう。嬉々として返事をする二人だったが、その様子を見守っていたケンジは僕と目が合い、少し顔を歪めて頭を掻く。


つまりは、もう百万程度は引っ張れそうだと言う事だ。


「そうしたら、一人ずつしっかり話を聞いていきたいんだけれども、誰からにしようか」


「それじゃあ僕から」


 気を遣ったのか、他の二人のグラスが空いていないのを確認した畑中が、率先して手を挙げる。


意外に饒舌なようで、隅に作ったボックス席に腰を据えた途端、逆に質問を投げかけてきた。


「ちなみになんですが、いつもこんな感じなんですか?」


「こんな感じって?」


「その、書面類を作らなかったり、個別に話を聞いたりするのは」


「ああ、気になります?書類に関しては依頼主を守るためで、個別に話を聞くのは、無意識に嘘をつくのを避けるためです。具体例を挙げますと、以前、浮気調査を頼まれた方が、こちらの発行した書類から調査対象に依頼内容を知られるなんて事がありましてね。勿論、こちらの不手際ではなく。でもそうなってしまうと、本人達の人間関係はもとより、依頼自体も破綻してしまいますから。だってそうでしょう?警戒されたら元も子もない無いですから。」


「なるほど、確かにそうですね」


 顔見知りのケンジが関わっているとはいえ、この手の仕事に絡んでくる連中というのは、基本的にロクデナシと相場が決まっている。


都合良く利用した挙句、ロハで済まそうと難癖をつけるなんてのはもとより、なんなら巻き上げようと目論む輩だっているくらいだ。


 だから今の話は半分以上が嘘の塊なのだけれど、畑中にとってはそれで充分であったらしく、「なるほど」などと呟いて得心している。


「それじゃあ、まずはサナエさんについて知っていることを聞かせてもらえますか」


「ああ、そうですね。ええと、まず見た目なんですが、身長は150センチ前後で、体重はちょっと検討がつきませんが、太ってはいないです。年齢は何歳位かな・・・服装がちょっと特徴的だったんで自信が無いですが、多分20歳〜30歳くらいじゃないかな」


「特徴的な服装って?」


「レトロって言うんですかね。僕も詳しくないのでわからないんですが、昔の少女のような服装をしていました」


 その身長で太って見えないのならば、体重は概ね40〜50キロって所か。服にこだわりがあるのだとしたら、もしかすると美術関係。あるいはそれらに関心がある人物だろう。


「髪型は?」


「色は黒で、一昨年の時点では肩に届くくらいの長さでした」


「では、どうして彼女はそのファンミーティングを訪れたのでしょうか。何か理由を聞きましたか?」


「それが全く見当もつかないんです。一応は告知もしているオープンなイベントなので、誰が来たっておかしくはないんですが、だからってわざわざ来るまでもない内容ですし。本当にただ、チカちゃんを好きだったファンが集まって、昔の映像なんかを見たりしながら交流するだけのイベントなんです」


「どんな様子でしたかね。何でもいいので、分かる範囲で答えてもらえますか」


「「ちょっと変な人」かなって感じたくらいで、特に変わった様子はありませんでしたよ。他の連中にも確認したんですが、全員似たような感想でした」


「どう変だったのでしょうか。それは当時そう感じたのか、それとも思い返すとそう感じたのか、どちらでしょう」


 すると畑中は、少し考えてこう答えた。


「その時には既に変な人だと感じていたのですが、思い返せばあの人、同じ話しかしていませんでしたね」

「同じ話?」


「ええ。人って大抵、同じ話はしないもんじゃないですか。特に趣味の場であれば。仕事で使う社交辞令だって、相手によって少しは変化させると思うんです。でも彼女、全員にほぼ同じ文言で同じ話をしていたんです」


「それはどんな・・・」


「「チカちゃんが死んで悲しいよね」って話です」


 何かしら核心に迫れるかと期待したが、そう上手くはいかないものだ。


そんな当たり前の話を聞いて畑中の聴取は終わった。しかし、容姿については知る事が出来たのは収穫だ。


それから残る二人の話を聞き、今後の算段について

軽く説明してから場を開いた。

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