5章 決めたこと
「ほらほら、どうした」
毒の爪の斬撃が次々に来る。
「この程度か。早くしないと彼女が死ぬぞ」
受けるのが精一杯でディミを見れない。
「おっとそろそろかな」
急に腹部に重い一撃を受けて僕は吹っ飛んだ。なんとか受け身を取って、立ち上がることができたが、もう立つ事がやっとだ。
「おぉ、この蹴りで立ち上がるか」
ダルクさんは、ケラケラと笑う。ダルクさんの爪は所々白くなっていたが、すぐに紫になっていく。
「君の炎はすごいね。この爪の毒がすぐに剥げ落ちてしまう」
どうやら僕の火の剣で受けることで、徐々に毒が削られるようだ。しかしすぐにそれも戻るようだった。
「ジクハもよく持つよな」
ダルクさんの後方で、ジクハさんが片方の盾で防御してもう一方の盾で叩きつけ、左右の役割を入れ替えながら戦っていた。しかし狼の数は減っている様子はなかった。
「あいつ、あんな戦い方もするんだな。面白いよなぁ」
ダルクさんは、見下している笑みを浮かべる。
「面白い戦い方しても、死んだらおしまいなのにな」
ダルクさんは紫色に戻った爪を確認して、ゆっくりと近づき出した。
「こっちは終わりにしよう」
ぬるりと動いたと思ったら、一瞬にして目の前に現れた。防御が間に合わない。ダルクさんの爪が僕の首に迫る。
「フレイムアロー」
目の前に赤い何かが通り過ぎていった。
「クソ」
ダルクさんは後ろに飛んだ。
「なんとか間に合いましたね」
尊敬する声が聞こえてきた。
「先生!」
「行きなさい。私が援護します」
先生が続けて数発、火の矢を打つ。ダルクさんに二本は命中するが、表面が焦げるくらいであまり効いていないようだ。
「ヴィンセントも相手だと面倒になってきたな。また今度にしよう」
ダルクさんは逃げようと後ろに下がろうとするが、火の矢がそれを逃さない。僕は一気に間合いを詰める。
しかし彼が攻撃した時、火の剣で受けると一歩遅れてしまう。受ける。受ける。そうか!ジクハさんみたいな小さい盾を作ればいいんだ。自身を守るくらいでいい。
「我より生まれし炎は我を守らん」
ジクハさんが今使っている盾を、左手にイメージする。手に火は生まれ、その火は小さい円を形作っていく。
「ファイアシールド」
「小型の盾だと!」
ダルクさんは毒の爪で攻撃をしてくるが、火の盾でなんとか止める事ができた。爪が焼け異臭がする。
「くそ厄介だな」
ダルクさんは体を曲げ距離をとろうとしたが、僕は続けざまに攻撃を繰り出す。
「片手だと攻撃力は弱いな」
ダルクさんは蛇の鱗をまとった片腕で、火の剣を防いだ。
「ここからだ」
僕はふっと盾を消し、両腕で力を込めた。
「何だと」
僕はイメージする。何でもこの火は何でも切れると。
「フレイムソード!」
彼の腕は宙を舞い、火の刃はそのまま蛇の体を切り裂いた。
「ゴメンなユーク、俺が側にいたら・・・」
ダルクさんはその場に力なく倒れた。
「やれたのか?」
足が力に入らない。あ、これやばい。
「よく、やりました」
すっと肩を支えてくれた人がいた。
「先生」
彼は優しく笑った
「ディミさんも仲間が来たので大丈夫です。盾使いの方にはグロスが行ったので、もう終わるでしょう」
「良かった」
僕の視界から光が消えた。
ゆっくりと目を開くと、目の前にディミがいた。
「オルが起きた〜」
僕はゆっくりと体を起こした。
「体は大丈夫?まる二日寝てたんだよ」
そんなに寝てたのか。通りで体が重いわけだ。
「ちょっと動かせづらいかな?」
ディミがウンウンと頷く。
「ヴィンセントさんが言った通りだ。魔法の使いすぎみたいだよ」
魔法の使いすぎなのか?始めてこんな事になった。今なんて言った?
「先生がいるの?」
「うん。街の復旧を手伝ってるって」
そうだ。僕が戦ったあと街はどうなったんだ。僕の表情を読み取ったのか、ディミが落ち着くよう仕草をする。
「私も詳しい事は知らないんだけどね。ダルクさんをオルが倒した後、すぐに鎮圧されたみたい。私も一日寝てたんだ〜」
ディミが下をむいて頭をかいた。そうだ、ディミもダルクさんの毒で倒れていたはずだ。
「ディミは大丈夫なのか?」
「私は全然大丈夫」
ほっと胸を撫で下ろした時、ディミの後ろから、コンコンとノックする音が、聞こえてきて扉が開いた。
「オル、起きたみたいですね」
僕は扉から入ってきた人物を見て、心の底から安心した。
「先生」
「無事で何よりです」
先生はいつもの優しい表情で、ディミの横に座った。
「今回の一件ですが、全てダルクが裏で糸を引いていたようです」
「ダルクさんがどうして?」
ディミが拳を握りしめる。先生がそっと彼女を落ち着かせようと拳に手をおいた。
「彼は死にたくなかったんだと思います。親友のように魔物に殺されたくなかったんだと思います。だから力を求めたと私は思っています」
自分が死にたくなかったなら、人がどうなってもいいものなのか?
「そしたらなぜこの街にまたきたんです?」
そこが腑に落ちない。
「それはこの街が、魔力を集めやすい場所なのだそうです。ダルクの事を調べて分かったことですが、彼はこの街に隠し部屋を作って密かに魔力を集めていたんです」
先生の拳に力が入る。
「その事をギルドは気づいていなかったんです」
ディミが不意に手を上げた。
「だったらなんで街を壊したんですか?」
ディミが悲痛な声をだす。
「これも私の憶測ですが、今回の出来事は復讐だったのではないかと思います」
「復讐ですか?」
僕は言葉の意味が分からなかった。
「ギルドの力不足で自分の大切な物を失ったから、ギルドの大切な街を破壊したのだと思います」
「そんな!」
ディミが悲痛な声を上げる
「彼は死んだので、心のうちは分かりませんが」
そうかダルクさんは死んだのか。僕が殺したのか。
「オル、君はよくやりました。あなたが殺さなければ被害がもっとでていたことでしょう」
先生は言ってくれたが、人を殺した事には変わりない。僕はダルクさんを切った手を見つめた。
「オル」
ディミの心配してくれている声が聞こえる。僕は弱い。もっと魔法を使えていたら、ダルクさんを殺さずに捕まえられたかもしれない。
それに僕は世の中を知らない。この街に来て、たくさんの人にあったり知ったこともあった。もっと知りたい。僕は一つ決めた事を、先生に伝える為に顔上げた。
「先生、僕は冒険者になろうと思います。冒険者になっていろんな所に旅をしたい」
先生はまっすぐに僕を見ている。
「オルが決めたことに何も言いません」
僕はディミの方を見ると、ディミは満面の笑顔でこちらを見ていた。
「私も、私もいろんな所に旅をしたいと思っていたの。いろんな所の薬を知りたい。私も冒険者になる」
思いがけない言葉に僕は言葉に詰まった。
「オルが言いたい事は分るよ。危険なことも分かっている」
ディミが僕の手を掴んだ。
「でも、オルと一緒に新しいことを知りたいんだ」
コツコツ、扉がノックされてきれいな声が聞こえてきた。
「オルさん。こちらにヴィンセントは来ていませんか?」
「シルフィさん。えぇ、いますよ」
ディミが答える。扉が開きシルフィさんが入ってきた。
「ヴィンやっといましたね。私に挨拶もなしなの?」
彼女はふてくされている様に見える。
「ヴィンをお借りしていいですか?」
「いいですよ〜」
ディミは子供が、悪戯しているような笑顔をしている。
「私は特に用事はないのですが」
珍しく先生は少し逃げ気味の様子だ。
「ヴィンセントさん、行ったほうがいいですよ」
ディミが後押しをして、先生はシルフィさんと部屋を後にした。
僕は窓から空を見上げる。
「これからどこ行こうか」
「そうだね」
空は雲一つないきれいな青色が広がっていた。
〜終わり〜
読んでいただきありがとうございます。
オルが辿り着いた「自分だけの盾」。そしてディミと歩き出す新たな道。
二人は新しい未来へと進んでいきます。
最後まで楽しんでくださりありがとうございます。
二人の続きが読みたい。ヴィンセントの話が読みたいなど、ご意見・ご感想お待ちしています。




