第11話 悔しさの炎
夜風が、冷たく頬をなでた。
ギルドの外の石段に座り込み、俺は空を見上げる。胸の奥が、ずっとチリチリと熱かった。
痛いとか、悲しいとか、そんな単純な感情じゃない。
――悔しい。
心の底から、焼けるように。
「やっぱ村人なんて、パーティにいらねぇな」
さっきの剣士の声が、耳の奥に何度も響く。
たしかに、俺は剣を振ったわけでも、敵を倒したわけでもない。
でも――確かに“役には立った”はずだ。
俺の投げた石がなければ、あのウルフは倒せなかったかもしれない。
それでも。
「村人」という肩書き一つで、全部がなかったことになった。
「……ちくしょう……!」
握った拳が震える。
爪が掌に食い込んでも、その熱は消えなかった。
「……ここにいたか」
背後から静かな声。
振り返ると、アランがランタンを持って立っていた。
薄暗い灯りに照らされたその顔は、いつものように無表情――に見えるけど、目の奥には、ちゃんと俺を見ている光がある。
「見てたのかよ」
「当然だ。……“あの程度”の言葉で、心が折れるなら、旅なんてやめておけ」
「……うるせぇよ」
俯いたまま、俺は吐き捨てた。
アランは何も言わず、俺の隣に腰を下ろす。
夜の静寂が、ほんの少し心に刺さった。
「なあアラン……俺、そんなにダメか?」
「ダメだな」
「即答かよっ!?」
思わず声が裏返った。アランは薄く笑う。
「村人は弱い。スキルもなければ、レベルも上がらない。他の職業と比べれば、圧倒的に劣る。そして世の中はな、弱い者を“見下す”やつらで溢れてる」
「……知ってるよ、そんなの」
「だが、それを理由に立ち止まるか。それとも、立ち向かうか。ーーお前が、今まさに選ぶ時だ」
アランの声が、夜気の中で静かに響く。
それは励ましでも慰めでもない。
ただ、俺を“突き放す”ような、でも“信じている”ような、そんな声だった。
「俺は、あの時……」
ぽつりと口が勝手に動いていた。
「……あいつらを見返したいと思った。俺は村人だけど、“役立たず”じゃないって。自分の足で戦えるって、証明したいって思ったんだ」
拳を握る。その感情は、さっきよりもずっと熱かった。屈辱は、俺の中で“炎”に変わりつつある。
「いい目をしてるな」
アランが立ち上がり、杖を肩にかけた。
「じゃあ、戦える村人になるために――鍛えるぞ」
「……今から?」
「当たり前だ。悔しさは、熱いうちに叩き込む」
「鬼コーチかよ……」
小さくぼやきながらも、俺は立ち上がった。
あの剣士たちの顔が、悔しそうに歪む光景を想像する。
*
訓練場。
月明かりの下、アランとの夜の訓練が始まった。
今まで以上に厳しい。
避ける。転がる。間合いを読む。息を吸う暇もない。
「もっと速く! “当たらない”じゃなく、“当たらせるな”!」
「わかってるってぇぇ!!」
息が荒い。汗が滝のように流れる。
でも、不思議と苦しくない。
この熱は、確かに俺の中に生きている。
夜明け前。
地面に倒れ込み、空を見上げた俺の視界には、
白んだ空と、一番星が浮かんでいた。
「アラン……俺、もっと強くなる」
「……その言葉、忘れるなよ」
アランが杖を軽く鳴らす。
音が夜明けに響き、俺の胸の奥で火が燃え上がった。
いつか、あの屈辱を、笑い飛ばせる日まで。
俺は“村人”として、戦い続ける。




