並んで打つ
その日の午後。
瑠利と詩穂、カエデの三人は、打席に並びボールを打っていた。
今日は土曜日でありながら、打席には彼女たち以外に客は誰もいない。
お昼くらいまでは常連のお爺ちゃんたちがいて、いつもの親睦会を開いていたが、もう帰ってしまったのだ。
あとは、コースでプレーした人たちが帰りに何人立ち寄ってくれるかだけであり、いつもなら二十人くらいであろうか。
そんな状況では売り上げどころではなく、厳しい現実が待っている。
練習だけをしに来てくれるようなお客さんが増えなければお話にならず、料金設定を考えれば、それも難しい。
ただ、もちろん値段を下げればお客さんは来る。
けれど、常に打席が埋まるような状況となれば、今の人数では仕事を回せないのだ。
では、従業員を雇えばいいのではと思うもしれないが、それだと給料という固定費がかかる。
どの程度お客の増加が見込めるか。
それ次第では、自らの首を締めることに繋がるのである。
こればっかりは、どうにもならない現状があった。
☆ ☆ ☆
「やっぱ、ルリって上手だね」
「そうですか? カエデさんも良い球打っていると思いますよ」
「ひゃー、受験生は辛いよ。最近練習してなかったから、二人と違って全然上手く打てない」
そんな風に、ワイワイと騒ぎながらボールを打つ彼女たち。
瑠利は変わらず鋭い球を打っており、カエデも負けずに飛距離を出していた。
けれど、詩穂だけは受験勉強の影響か、若干のブランクもあって球が乱れている。
「ふふふ、いまならお姉に勝てるかも」
「いやいや、アンタにはまだ負けないよ。感覚さえ取り戻せば、すぐだからね」
その言葉通り、詩穂の打球は徐々に鋭さを増していった。
それを見たカエデも「やばいやばい」と焦ってボールを打ち、その結果シャンクを連発。
「ああ、もう。またシャンク。佳斗おじさん、どうしたらシャンク治るの?」
「ははは、それはね。いくつか理由はあるけど、カエデの場合は打つ時に右膝が前に出ているからね。焦るとなるみたいだから、意識した方がいいと思うよ」
「わかった、やってみる」
そう、シャンクとは打つ時にクラブのフェース面ではなくてネックの部分に当たり、斜めに飛んでいくボールのことだ。
スイング中に右肩(左打ちの場合は左肩)が前に出たり、右膝(左打ちの場合は左膝)が前に出たりすることでクラブの軌道が逸れ、ネックにあたってしまうのである。
緊張で身体が硬くなった時に起きやすく、治すにはリラックスすることであるが、これが意外と難しい。
下手にイップス(今まで出来たことが出来なくなる症状)ともなると目も充てられない状況となるので、一旦練習をやめるとかの対策も有効だったりする。
まあ、実際はもっと複雑なメカニズムなのだろうが、今回は非常にわかり易かった。
そうして、暫くボールを打ってみたカエデは、無事にシャンク病から脱出。
「ふ~ん。やっぱ、お姉ちゃんを意識したからなのね」
「そうそう、カエデが私に勝とうなって、まだまだ早いわ」
「むう」
「だから、それだって」
姉妹仲良く漫才……ではなく、競い合う姿を瑠利は少しばかり羨ましそうに眺めていた。
「いいなぁ」
「何が?」
「カエデさんと詩穂さんって、すごく仲がいいなって思って」
「そう?」
「あ、それはカエデが手を焼かせるから」
「もう、またそういうこと言う」
「ははは、そういうところです」
普段ならシーンと静まり返った、この時間。
珍しく練習場では軽快なボールを打つ音と共に、彼女たちの楽しそうな笑い声が響いていた。




