閑話 高校生ナンバー1の実力
先週の北海道でツアー通算5勝目を飾った城野真理香は、その調子を維持したまま長野県での競技に参加。
初日を2アンダーの70スコアーとし、順位を十二位タイとマズマズなスタートを切った。
そして迎えた二日目。
同組でプレーするのは、彼女を慕う後輩の桃川涼花と高校生でアマチュアの瀬田清華。
現役高校生女子ナンバー1の実力者である瀬田は、これまでにも主催者推薦などでツアー競技へ参加して何度となく予選を通過しており、今年のプロテストでも一発合格を期待される有力な選手だ。
身長が170センチと大きく、その身体から繰り出されるショットはプロと比べても飛ばし屋の部類。
おまけに小技も得意となれば、上位争いは必至であろう。
昨日も城野真理香と同じ2アンダーでプレーを終え、首位と4打差の十二位タイと好発進だ。
このまま上位を維持し、明日は優勝を狙える位置で終わりたい。
と、そう考えていることだろうが、そんな瀬田との組み合わせを、城野真理香は楽しみにしていた。
現役高校生女子ナンバー1などという肩書は、かつての彼女自身も味わったことのない輝かしい称号だ。
世間的には同世代の顔であり、こうしてプロのレギュラーツアーにも招待され、活躍するチャンスを与えられるのだ。
けれど、城野はこれまでにも瀬田のプレーを何度か見たことはあるが、一緒に周るのは初めてだった。
「楽しみね」
「はい、現役高校生女子ナンバー1の実力、見定めてやりましょう」
「フフフ、あまり気負うと、置いてかれるわよ」
「……そうですね。では、瀬田さんの見極めは真理香さんに任せます」
「ええ、あなたも遅れずについてきなさい」
「はい!」
そう意気込んで返事をする後輩を諭し、スタートホールへ向かう城野真理香と桃川涼花。
普段から仲のいいこともあって、彼女たちに試合前の緊張感は感じられないが、一番ホールで待つ瀬田の様子を見ると、少し状況が変わる。
「城野真理香プロ、桃川涼花プロ、今日はよろしくお願いします」
二人を見るなり、そう挨拶してきた瀬田はとてもリラックスした様子であり、ツアー通算5勝をあげている城野真理香を前にしても気負いは感じられなかった。
「参ったわ、これはホンモノね」
「えっと、どうかしました?」
「いえ、こちらこそよろしく」
「はい、お願いします」
そう言葉を交わす二人であったが、やはり意識はしているらしい。
ただ、それを表に出すようなことは無く、一緒にいた桃川涼花だけが空気の変化を感じ取っていた。
「なに? 急に寒気が……」
「あら、風邪? 気をつけなさいよ」
「はい……」
こうして始まった第二ラウンドであるが、ムービングサタデーと呼ばれるように、上位の入れ替わりは激しかった。
この日はコース設定の影響もあり、スコアーを伸ばす者が続出したのだ。
そんな中、城野真理香と瀬田清華は、互いに譲らずの5アンダー。
トータル7アンダーとスコアーを伸ばし、五位タイにつけた。
けれど、桃川涼花は二人について行けず、イーブンパーの72。
通算でも2アンダーのままで、順位は二十五位タイへと後退。
城野との約束通りとはいかなかったようだ。
「申し訳ありません」
「まあ、こればっかりは仕方ないわね。今日はあなたの日じゃなかった。それだけよ」
「はい……、またお願いします」
「ええ、頑張ってね」
こうして二日目を終えたわけだが、城野と瀬田は最終日も同組でプレー。
結果は、スコアーを3つ伸ばし、10アンダーとした城野真理香が単独の二位。
そして、出入りの激しいゴルフとなってしまい、本日のプレーをイーブンパーとした瀬田清華が7アンダーの八位で競技を終えた。
プレー終了後、二人は言葉を交わす。
「瀬田さん、楽しかったわ。またお願いね」
「はい、次はもう少しいい勝負ができるように努力します」
「ええ、待っているわ」
そうして別れた瀬田清華と城野真理香。
この後、瀬田は全日本ジュニアと、高校生女子の全国大会が控えるという過密スケジュールであるため、次にプロの競技に参加できるのは九月に入ってからであろう。
ただ、それ以降もプロテストの二次試験があって、11月の頭にはプロテスト最終試験が待っている。
再戦を希望するには、ずいぶんと先になりそうだ。
クラブハウスへ戻り、帰宅の準備を始めた城野真理香のもとへ、すでに準備を終えていた桃川涼花が近づく。
「あら、スズカ」
「マリカさん、お疲れ様です。それで、瀬田はどうでした?」
「ふふふ、そうね……ちょっと、ルリには厳しそうな感じだわ」
「やっぱり」
「ええ、経験値が違うもの」
「ですよね……」
どうやら、一緒にプレーしたことで同じ結論に行き着いた二人。
「ただ……」
「ただ?」
「あの子は化けるから……」
そう言った城野真理香の瞳は、何やら期待の眼差しに溢れていた。




