第一部最終話 だったら、勝負だね!
翌朝、普段通りの日常に戻った瑠利は、朝早くから起き出し、練習場のボール拾いへ向かった。
時刻は朝の五時。
そこでは佳斗がすでにボール拾いを始めていて……。
「師匠、おはようございます!」
「おはよう、ルリくん。今日は無理せず休んでくれても良かったのに」
そう言ってくれるが、だからといって休みたい気分でもない。
「いえ、これは私の仕事ですから、できる時はやらせてください」
「ははは、そうかい。なら、お願いしようかな」
今日は土曜日ということもあり、営業開始時刻は六時。
最近では森沢彩夏や佐々野明日花が夜の練習後にボール拾いをしているため、落ちている数もそれほど多く無く、師匠と二人で黙々とボール拾いに精を出す。
そこへ遅ればせながら、陸斗も顔を出した。
「おはよう、お父さん。それにルリ姉ちゃんも」
「ああ、おはよう」
「おはよう、リクくん」
そうして三人でボール拾いをすれば、流石に早く終わる。
五時三十分頃にはほとんど拾い終え、佳斗は営業開始の準備、瑠利と陸斗は朝食へと向かった。
場所は母屋の食堂。
女子寮にも食堂はあるけれど、朝はいつもここだ。
というのも、朝食は相変わらず焼いたトーストとハム、目玉焼きにサラダと牛乳の組み合わせである。
これにチーズを乗せたり、ヨーグルトが加わるなど多少トッピングに変化はあるものの、基本は変わらず。
だが、この後すぐに身体を動かすのだから、これくらいで丁度いい。
二人の息も合ったもので、素早く準備をして「「いただきま~す」」と早速食事を開始。
瑠利がモグモグとパンを頬張っていると、陸斗が待ちきれずに話しかけた。
「ルリ姉ちゃん、優勝したんでしょう。おめでとう」
「ゴクン、うん、ありがとう」
「僕、詳しくは聞いてないんだけど、どんな感じだったの?」
そう尋ねる陸斗は、昨日練習のし過ぎで疲れていて、早めに寝てしまったのだ。
本人は待っているつもりだったが、眠気には勝てなかった。
「そうだね……。うん、楽しかったかな。同じコースを毎日周るのも新鮮だったし、知らない相手と一緒にプレーするのも楽しかった。もっと競技に参加したいとも思ったかな」
「ふ~ん、そうなんだ」
「うん、あと友達もできたよ。愛知と岐阜県の子だけど、同い年だからまた会えると思う」
「ええ~、いいなあ。僕も出てみたくなっちゃった」
「ほんと? じゃあ、出たらいいよ。ジュニアの大会も結構あるみたいだよ」
「そうなの? じゃあ、お父さんに聞いてみようかな」
どうやら陸斗、瑠利の話を聞いて、本格的な競技に興味を持った様子。
それを瑠利は楽しそうに眺め、だったらと話を続ける。
「だったら、これからはもっと本格的に勝負だね。実戦で鍛えられた私の新必殺技を見せてあげるよ」
「なにを、じゃあ僕はお父さんに協力してもらって、もっとすごい技を開発しちゃうもんね」
「ああ、それはズルい。私だって教えて欲しいのに……」
「「プッ……、アハハッ!」」
普段通りの何気ない会話が戻り、二人して大きな声で笑う。
だが、時計の針はすでに六時を過ぎており、営業の始まっている時刻だ。
「あっ、もう時間が過ぎてる。ルリ姉ちゃん、急がないと」
「あ、うん。片付けは私がしとくから、リクくんは先に行って」
「わかった」
そうして慌ただしく出ていく陸斗と、あと片付けをする瑠利。
練習場からはお客さんのボールを打つ軽快な音が響いてきて、今日も一日が始まったことを感じさせる。
「よしっ、がんばろ!」
瑠利はそう小さく呟くと、使った食器類を流し台に置き、早足で練習場へ向かうのだった。




