春乃坂ゴルフ部メンバーの帰宅と、優勝の報告
東海地区大会を終えた春乃坂学園ゴルフ部一行は、その日のうちに地元静岡へと戻ってきた。
乗っているマイクロバスの中では、生徒たちが皆熟睡中だ。
元気なのは、競技に参加しなかった早嶋優良と西原紗英の二人だけ。
保護者として同行した詩穂も、いろいろと神経を使ったらしく、妹のカエデと一緒に仲良く眠っている。
そんな中、顧問の東矢章乃は全国大会のスケジュールについて、考えを巡らせていた。
というのも、今回利用しているマイクロバスは学園所有のものだ。
運転手とセットで貸し出してくれるので重宝するが、全国大会の予定は団体戦と個人戦が別であることに問題がある。
今年の団体戦の日程は8月22日と23日。
そして個人戦は中日を挟んだ25日26日。
会場となるのは新潟県S市にあるミサキの森ゴルフクラブ。
日本海に面したシーサイドコースで比較的平坦な反面、冬場であれば強風が吹き荒れる難易度の高いコースだ。
ただ、今は夏場。
風も穏やかで、コースも海岸線に面しているので暑さも少しは和らぎ、この時期であってもプレーはしやすい。
では、何が問題であるかというと、その日程である。
東海大会は練習ラウンドを含めて三日間であったが、今度は丸一週間という長丁場だ。
長期間のバスの貸し出しに加え、費用もいくらかかるか想像できない。
もちろん部費はあるが、これまでが弱小部だっただけに、予算はあまり割り当てられていないのだ。
現状で補えるのは交通費とプレー代だけ。
冬の大会用の費用を切り崩すわけにもいかず、残りは個人負担となってしまうため、それは避けたかった。
「これは上に相談してみるしかないわね」
そう頭を悩ます東矢章乃だったが、学園側の反応は全く違っていたりする。
というのも、昨日から学園の電話は鳴りっぱなしであり、神川ゴルフ練習場と同様、対応に追われていたのだ。
学園側としても名を売ってくれるのであれば問題なく、早急に臨時の予算を検討すると決まったのである。
そうして、東矢章乃の心配は無駄に終わるのだが、まずは帰宅。
いつのまにかバスは学園に到着し、それに合わせるかのように生徒たちが目を覚ます。
「あれ、もう着いたの?」
「あっ、カエデ先輩が起きたみたい」
「眠い、まだ寝るzzz」
「ダメです、りん先輩。起きてください」
そうして、また寝ようとするリンを紗英が揺すって起こし、優良はまだ寝ぼけている瑠利に悪戯を決行。
「ルリちゃ~ん。起きないと擽りの刑だぞ~」
「クッ、ウッハハハァツ、もうやめて、くすぐったいよ……」
脇腹をコチョコチョされて、涙目でそう訴える瑠利。
それに味を占めたのか、優良は更に萌花、陽菜乃と刑に処す。
「むぅ……、優良、許すまじ」
「それは陽菜乃が起きないからいけないんだよ」
そう騒ぐ一年生たちであるが、もちろん咲緒里と佳奈美はとっくに起きていた。
「ほらほら、もう迎えの人たちが来ているんだ。早いとこ降りて、解散するぞ」
「「「「「は~い」」」」」
咲緒里の言葉でおとなしくなり、荷物を手にする一年生たち。
というのも、駐車場にはそれぞれの家族が迎えに来ており、子供たちが降りてくるのを待っていたのだ。
「はいは~い。みなさん聞いてくださいね。とにかく今日は早く帰って休むこと。明日は練習をお休みにするから、また明後日から頑張りましょう。あと、合宿の予定については芳尾プロと神川先生に相談して決めますから、もう少し待て下さいね。では、皆さんお疲れさまでした。全国大会も頑張りましょう」
最後は東矢章乃がそう絞めて、解散。
それぞれが家族と帰宅する中、カエデと瑠利、咲緒里の三人は、詩穂の運転で家に戻ることに。
「サオリも、うちでいいんだよね」
「はい、佳斗おじさんにも話したいことがあるから、お願いします」
そう理由を告げた咲緒里の言葉に、やっぱりと頷く詩穂と瑠利。
だが、カエデだけは一人蚊帳の外で「あれ、サオリ姉もうちに来るの?」と、疑問符を浮かべている。
ただ、そうしているうちに、車は神川ゴルフ練習場へ到着。
四人は練習場に入らず、母屋へと向かった。
というのも、相変わらず練習場の方は騒がしいので、それを避けるためだ。
そこへ、娘たちの帰宅を知った美里と、弟子からの報告を聞くために佳斗も合流。
場所を座敷に移して、さっそく報告会が始まった。
「まずは、私からだな。東海地区大会で我が春乃坂学園ゴルフ部は準優勝できました。これも佳斗先生たちから受けた指導のお陰です。ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
そうして頭を下げる咲緒里とカエデ、瑠利の三人。
もちろん芳尾プロの指導の賜物でもあるが、彼女には会場でお礼を済ませているので、ここでは佳斗にである。
「ははは、聞いているよ。みんな、よく頑張ったね。次の大会も間近に控えているので、体調管理には気をつけるんだよ」
「「「はい!」」」
三人揃って元気よく返事をし、次が本題。
瑠利が口を開く。
「師匠のお言葉通り、個人戦で優勝できました。ありがとうございます」
そう報告したのには訳がある。
というのも、瑠利は大会へ出かける前に師匠から、ある言葉を掛けられていたのだ。
『優勝してきなさい。キミにはその資格がある』
『はい、優勝してきます』
それに素直に頷く瑠利も流石だが、佳斗は弟子の力量をよく見抜いていた。
現在の東海地区に弟子を上回るような選手はいないと、知っていたのである。
その結果がこれなのだが、驚いたのは咲緒里の三位タイという最終順位だ。
実力をつけていることはわかっていたが、そこまでだとは想像していなかった。
「ルリくん、優勝おめでとう。実力はあっても本番で力を出せない選手は多いからね。期待通りの結果で嬉しいよ」
「はい!」
「それから、サオリも三位タイ、おめでとう」
「ありがとうございます」
「うん、その雰囲気といい、どうやら吹っ切れたようだね」
「はい、もうブランクは感じていません」
「そうか、もともとブランクなんて、キミの思い込みのようなものだからね。中学生の頃の実力はとっくに追い越していたんだけど、気持ちが追い付いたんならそれでいい。次も頑張りなさい」
「はい! ありがとうございます」
そうして深々と頭を下げる咲緒里。
ただ、その彼女にはもう一つ佳斗に伝えたいことがあった。
「それで、私もルリと同じように、先生の弟子にしていただけませんか?」
その申し出に佳斗は疑問符を浮かべるが、咲緒里にはなりたい理由があった。
「弟子に?」
「はい、私もプロになりたい。そして、アズサおばさんの夢を叶えたいと思います」
姪から聞いた言葉に、心当たりのない佳斗。
そこへ理由を知る詩穂が、話に加わる。
「あ、佳斗おじさん、ちょっといい?」
「なんだい? シホ」
「サオリの言うアズサおばさんの夢ってのはね、プロになったこの子の試合をリクと一緒に見に行くことだったんだって。だから、サオリは昔からプロを目指していたの」
ただ、そう聞いても、佳斗はピンときていない様子。
「そうなのか?」
「はい!」
とはいえ、それが亡き妻・杏沙の願いと言うのなら、叶えないわけにはいかない。
「そうか、杏沙が……。わかった、サオリ。本気でプロを目指す気があるなら、弟子と認めよう」
「本当ですか?」
「ああ、もちろんだ。そして、私が叶えられなかった妻の夢を、叶えて欲しい」
「ありがとうございます!」
こうして咲緒里の夢だったプロへの道が開けた。
佳斗としても吉瀬家からの反対はあるかもしれないと思っていたが、プロ志望の陸斗にも協力すると答えた義理の父なら問題ないだろうと考えている。
だが、誰もがなれるような生易しい世界ではないことも十分承知しており、それでも杏沙の願いを叶えたいという言葉に、佳斗は引き受けることを決めたのだ。
そして、話を聞いていた美里の瞳からは、涙があふれていた。
昨日の陸斗に続き、咲緒里までもが兄や義姉の夢を叶えたいと思っていたことに、ただただ感動しているのである。
ただ、唯一カエデだけは話しについて行けず、ポカーンとしていた。
とまあ、そんなことになったが、目指すべきは全国大会。
まずは、それに集中する彼女たちであった。




