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『四十一』

『41』

 「あれが、デルソフィア・デフィーキル。フガーリオの息子。神皇帝第四皇子」

 「そう。我らがフルナブルの大願にとって最大の障壁になり得る可能性を秘めた者」

 「まだ子供じゃない」

 「その見た目の裡に眠る力を、お前も感じ取っただろう」

 「まあね。あの歳で既に星紋を二つ発現させている。しかも、左とはね」

 「ふん。バルマドリー・デフィーキルの再来などと、笑えぬ話だ。ただ、永らく近くにいたあの御方も認めざるを得ない力を宿し、それがいつか覚醒めるとなれば、放擲しておくわけにもいかぬ」

 「だから、常に誰かが同道、もしくは力の及ぶ範囲にいるわけね」

 「そういうことだ。島牢獄にて生涯管理下に置かれる筈だった。その造られた運命を、デルソフィアは自らの星紋の力で覆した。それに付随したあの大惨劇でも海の藻屑と化さぬ強運は、人外のものと戦慄せざるを得ない。

 そんなデルソフィアを筆頭にして、そこにジェレンティーナ、ウィジュリナ、クリスタナ、ハーネス、さらにはミーシャルール、タクーヌやルネルが加わる陣容は容易く捨ておけぬものと言えよう」

 「ジェレンティーナもウィジュリナもデルソフィアも、皆、フガーリオから注がれたフルナブルの血が流れてるじゃない。こちら側にって話にはならないの?」

 「可能性は零……とは言わぬが、そこへ希望を紡ぐほど、あの御方も我らも魯鈍ではあるまい。そして何よりも、奴等にはカノンシュの血が流れている。あの女がミーシャルールの許にあることを知った。そこにオッゾントールが絡めば厄介なことになるのは明白だったが故に、あの御方が自ら動かれたのだろう」

 「オッゾントール……天才の名をほしいままにしていた男も、フルナブルの業の前には無力だったわけね」

 「当然だ。あの御方はフルナブル史上最高の才を持つ化物。それに比べれば、オッゾントールの天才など路傍の塵芥のごときに過ぎぬ」

 「その御方がデルソフィアには一目置いている…。オッゾントールを超えているとは、とても思えないけれど」

 「さあな。あの御方の心中は計り知れないものがある。だが、フルナブルの大願こそが何よりも優先されるという考えの下で動かれている」

 「フルナブルの大願ね。その業を、その力を利用するだけ利用し、都合が悪くなれば消しにかかる。悪名を着せ、その歴史を、その存在を偽り歪め、汚す。そんな世界すべてを復讐の焔で焼き尽くす」

 「人を崩し、街を、宮を崩し、やがては国そのものも崩壊させる。四つの王国、皇国さえも例外ではない。無へと還った世界に残るのはフルナブルのみとなり、そこから世界は新たに創られていくのだ」

 「それはまさに大願だけど、その一翼、あなたのエイブベティス崩しの進捗は芳しくないようだけど」

 「そう言うな。尤物の現王君に取って代わる者達を仕立ててみたが、王太子とその取り巻きによって封じ込められた。取り巻きには多少なりとも有能な者がいたが、王太子そのものは無能で、崩しは首尾よく進むとみていたのだがな。取り巻きとは別に王太子に助力する者たちがいた」

 「デルソフィアたち」

 「そうだ。ミーシャルールの知は言わずもがなだったが、タクーヌやルネルの武があれ程とは思わなかった。見誤ったのは私の瑕疵だ。

 そしてやはりデルソフィア。神皇帝皇子という素性を明かさずとも不思議と人を惹きつけた。さらに素性を明かした後は、その地位に導かれるように、無能だったシザサーが覚醒した。これも想定外だった。

 まったくもって煩わせる。だが、大丈夫だ。既に次なる手が進んでいる。お前の方はどうなんだ?」

 「あなたも、この街の惨状を見たでしょ。街も宮も、もうまもなく崩れ落ちるわ。

 王国街の権力者たちへの占術を、敢えて違和感のあるものにして誰かが気付くよう仕向けた。その誰かさんが会いに来るのと、あなたがこの街に入る時期を合わせるのは多少苦労したけど、あなたとの面会のおかげで、それらは奏功した。疑わせるだけ疑わせた上で、その疑いを晴らす。疑義を抱くことこそが正解なのに、もうそこに疑義を挟む者はいないでしょうね。

 民の希望たる王女は病に倒れ、王君も病床にある。残った王太子には凡庸な手しか打てない。まあ、先日から姿が見えないという第二王女に関しては多少気掛かりだけどあの程度の者に適うことなど高が知れている。

 エイブベティス崩しの障害となり得た者たちが、またここにもいるのは面妖と言わざるを得ないけど、ルネルはあなたに心酔し始めてるからどうとでもなりそうだし、ミーシャルールやタクーヌといえども、この病が自然発症だと考えているうちは見当違いの方へ進んでいる。あとはデルソフィアの人徳とやらだけど、惹きつけられる者たちが無力、無能では意味を成さないんじゃないかしら」

 「ふん。どうやら王国崩しは、お前に先を越されそうだな」

 「こちらの目処がついたら、今度は私がそっちに力を貸すわ」

 「そうしてくれ。皇国で待つあの御方の気も、どれほど長いか定かではないからな」

 「そう。まだ皇国にいるのね。ジェレンティーナたちに見破られたんじゃなかった?」

 「見破られた。だが、奴等は口外していない」

 「何故かしら?」

 「知らん。だが、フガーリオや異母兄弟とは異なり、ジェレンティーナ達はデルソフィアの死について、公に言及したことは一度も無い。生きていると信じているのか、或いは認めたくないだけなのか。実は私はそのような凡庸な帰結ではなく、何らかの意図を持った上での行動ではないかと思っている。口外しない理由も、そこら辺と連動している気がする。

 皇国には、オッゾントールを殺害した罪人デルソフィアに怨みを抱く者もいる。特に、オッゾントールに教えを受けていた者に多い。生きているという事実を知る者は少ない。皇国では我ら以外にはいないだろう。罪人として海中に沈んだのは報いだと、弔いの動きすらなかった。そうした中で、生きているという事実、罪人ではなく濡れ衣であるという事実が明らかになれば、否が応でもデルソフィアを取り巻く連中達の勢いは増す」

 「ジェレンティーナ達は、デルソフィア生存の事実を知っていると?」

 「分からん。だが、カノンシュはその事実を知った。カノンシュとその実子達の繋がりは現状では千切れたままとされてきたが、果たしてそれが真実かどうか」

 「私達の目を欺いている?」

 「その可能性は否定できないだろう。それにオッゾントールの兄、ミーシャルール。奴がデルソフィアと共にある。我らに及ばなくとも、何をしてくるか、油断できぬ男だ」

 「消す?」

 「いずれな」

 「デルソフィアそのものが消えてしまえば、話は早いんじゃない?」

 「まったくもって不思議だな……。その命は出ていない」

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