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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第四章 王都騒乱編
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第四十二話 条件と思惑

「お三方、そろそろ陛下の準備が整うようです。なのでいい加減に帰ってきてください。……この三馬鹿が」


 冷ややかな目で私からカミラちゃんと芹奈ちゃんを引き剥がしたレイさんの声に、ハッと我に帰る。


 ……私、これから王様に謁見するのに何やってるんだろう?


 しかも既に一度苦言を呈されていたし、これはレイさんが怒るのも仕方がない。


「ご、ごめんなさいレイさん。もっと場を弁えるべきでした」


「はぁ……。それはもういいです。私もお話しするのは結構ですと言ってしまいましたし。それより芹奈様、あの事を二人に伝えておくべきなのでは?」


「あー、謁見前に伝えておかなきゃと思って忘れてたわ。ありがとうレイ」


 まるで猫みたいに首根っこを掴まれていた芹奈ちゃんは、そんなのまるで気にしていないように苦笑して頬を掻いた。


 あの事ってなんだろう? 芹奈ちゃんが私達の旅に着いてくるって話は聞いたけど、それと関係あるのかな?


 そう思って芹奈ちゃんの方を見ると、彼女はニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。ああ、もう嫌な予感がするよ。


「さっきも言ったように、わたしは有栖君の旅に着いて行くことにしたんだけど、それには条件があるのよね」


「条件、ですか。まあ貴女はこの国の勇者ですし、大方あの忌々しい王子辺りにでも何か言われたのではないですか?」


 確かに、勇者は核弾頭にも匹敵するこの国の最大戦力。それを旅に出させるなんて、国の立場からしたら許し難いのは当たり前だ。


「当たり〜。そしてその条件っていうのがね、わたしだけじゃなくて有栖君も巻き込んだものになっちゃったのよね」


「ちょっと待って、どういうこと?」


 私を巻き込むって、何で? そういえばあの腹黒王子、私に惚れたとか何とか言ってた気がするけど、まさか……!?


 あってはならない想像をしてしまいゾワゾワッと全身に鳥肌が立つ。無理、私やっぱり男の人とそういうのは絶対に無理!


「また鬱ってますね、アリス姉さん」


「あー、今回は何を考えているのかなんとなく分かったわ。でも違うから安心しなさい。というより、そんな条件わたしが許すわけないでしょ? 昨日だってあんな巫山戯たこと言うから、思わず腕を折っちゃったし」


 それなら良かった……。けど芹奈ちゃん、さり気なく物騒なこと言ってなかった? 腕を折った? 陛下達の準備が手間取ったのってそれが原因だったりするんじゃないの?


 他にも何かやってそうで怖いなと思いながらジト目で芹奈ちゃんを見るも、彼女は全く気にも止める様子はなく話を続ける。やっぱり、女の子のジト目ではパワー不足なのか……。


「出された条件は簡単なものよ。有事の際には連絡するからわたしと有栖君の二人とも出向せよ。これだけよ」


 ……成る程、そういうことね。あの王子様、ここまで考えて"契約の指輪"を私に渡したのか。


 芹奈ちゃんが言う有事の際とは、十中八九魔族との戦争の事だろう。


 彼女の話を聞く限り戦争とは言っても四六時中殺し合っている訳ではなく、数ヶ月おきくらいに戦闘が勃発するような感じの戦い方をしているらしい。


 そんな戦い方をしているのは多分、互いに人口が少ない事と情報網が脆弱なのが主な理由だろう。


 地球ではハーバー・ボッシュ法というアンモニア合成技術が開発された事で化学肥料の合成が容易になって、人口が爆発的に増えたこともあり、それに伴って軍事力も非常に強くなっていった。


 その結果戦争の規模は肥大化していくことになった。当然技術の進歩もあるけれど、先の合成法は世界人口を30億人増やしたとまで言われているのだから、その影響力の凄まじさが分かるよね。


 そしてもう一つ戦争において重要なのは情報の伝達速度だ。


 この世界に電子機器なんてないし、出来るのは魔法を信号弾のように打ち上げ、それを見た連絡担当の人が馬で本陣に伝え、そこから更に何人かが馬で近隣の街や王都に情報を持ち帰るっていう原始的な方法だけだ。


 モールス信号みたいな遠距離での伝達方法が無く、馬の速度という何とも言えない微妙な速さでの伝達方法しかないとなれば時間がかかるのは当然だよね。


 魔族が扱える『念話』も、使える範囲は限られてるしね。この王都内くらいなら問題ないけど、例えばフォルトまで届くかと言われると絶対にノーだ。


 だから何をするにもワンクッション置く必要がある。


 そして極め付けにはこの世界、余りにも広大なんだよ。だって【カルムの街】と【要塞都市フォルト】って同じ【ハノーヴァー領】なのにあんなに遠かったんだよ?


 それが魔族領と王都の間には三つも領地があるというんだから、普通に走っていたらどれだけ時間がかかることか……。


 街の無い森、草原、荒野、山々が領土の大半を占めているのが原因だね。人口密度計算したら恐ろしく低そうだ。


 でもそれ故に戦闘が始まってから連絡を受けたのでは到底間に合わないと思うんだけど、一体どうする気なんだろう?


「それは心配ないわよ。有栖君の『転移門(ゲート)』があればね」


 ……成る程、セウェルス王子には既に伝えてあったのね。確かに『転移門(ゲート)』があれば王宮に瞬時に帰ってくる事が出来るし、元いた場所に戻るのも容易いから旅の妨げにもなりにくい。


 そして戦場の場所を知っている人の記憶を『サイコメトリー』で覗けば、そこに向かうのにも苦労はない。


 つまり、私と芹奈ちゃんが一緒にいれば何処にいてもすぐに勇者を戦場に送る事が出来るんだ。


「でもどうやって情報を得るつもりなんですか? 私達の『念話』にも距離制限はありますし」


「それも大丈夫。王宮から支援要請が来たら、わたしの"世界眼"でそれを知れるのよね。有栖君に分かるように言うと、テレビで上の方に出るテロップみたいな感じで」


 あー、あの地震速報とか出るやつね。本当に"世界眼"って不思議な能力だよ。勇者からしてみれば、本当にVRゲームの世界に紛れ込んだように感じるだろうね。


 ……それにしてもあの腹黒王子、上手いこと考えたものだよ。


 芹奈ちゃんは私と一緒に旅に出たい、だけど国としては勇者を手放すわけにはいかない。だから条件を提示した、一見すれば当たり前の事でしかない。


 だけどそこに私を巻き込んだ事の意味は大きい。何故なら私が戦場に赴く時には、必ずカミラちゃんも着いてくるからだ。


 そして"契約の指輪"により私が人側の味方をする以上、カミラちゃんが敵対することはあり得ない。つまり【ノルトハイム王国】は勇者を都合良く召喚できるだけでなく、最強種である吸血鬼二人をも戦力として獲得することが出来ることになる。


 敵対されて芹奈ちゃんと離れ離れになるよりは全然良いんだけどさ、なんか掌の上で踊らされているようであんまり気分の良い話では無いよね。


「分かったよ。芹奈ちゃんと一緒にいられるなら、それでいい」


「ありがとう、有栖君! これでずっと一緒にいられるね!」


 ……でも、この笑顔を守れるならいくらでも踊ってあげる。私にとって大切なのは王子様の思惑なんかじゃなくて、彼女の笑顔なのだから。


 こうして芹奈ちゃんが私達の旅へ正式に加わる事が決まったその時、まるで見計らったかのようなタイミングで客間の戸が叩かれた。


 どうやら王様達の準備が整ったらしい。人生二度目の謁見、果たしてどんな波乱が待っているのやら。


 それは、神のみぞ知るってね。

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