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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第四章 王都騒乱編
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第四十話 そして少女は恋に落ちる

 言ってやったぜと言わんばかりのドヤ顔でピースサインまで繰り出す芹奈ちゃん。それ対してカミラちゃんの反応は予想通りというか、過去一嫌そうな表情で首をブンブン横な振っていた。


「あ、有り得ないです……。勇者が一緒に旅に出る? そんなの私耐えられません!」


 カミラちゃんもそこまで言うの? と思うけど、好きな人との二人旅に突然強力なライバルが参入してくるとなれば、必死になるのも頷ける。問題はその三角関係の中心にいるのが私だってことなんだけど……。


 そんな私が今変に口を出すのは意気揚々と地雷原に向かって歩き出すようなものなので、暫し様子を伺うことにする。


「カミラさん、何度でもいいます。有栖君はあなたのものではないし、この世界で唯一の日本人仲間として一緒にいるべきだと思うのよ」


「アリス姉さんはこの世界で生まれ変わったんです。今更前世の話を持ち出さず、今を見据えましょう。それに私はアリス姉さんの契約主です。"血の契約"の元に私とアリス姉さんは一心同体なんですよ」


 カミラちゃんは勝ち誇ったように無い胸を張って"血の契約"の条文を読み上げている。その度に顔色が青くなっていく芹奈ちゃんを見て、カミラちゃんはニヤリと口の端を吊り上げる。


 この展開、この後何度見ることになるんだろう……?


「ち、"血の契約"がそんなに重大なものだったなんて……。それだと、カミラさんが有栖君の命の恩人だったってことに……」


「私は当たり前のことをしたまでです。アリス姉さんがいない世界を生きるくらいなら、死んだ方がマシなので」


「それはわたしだって……。ねえカミラさん、あなたはどうしてそこまで有栖君のことを……」


 カミラちゃんが私の命を救ってくれたことを知った芹奈ちゃんは、さっきまでの勢いを無くして問いかける。


 それは、私も正直気になっていた。カミラちゃんと私が"血の契約"を結んだのは【要塞都市フォルト】だ。あの時はまだ、出会ってから二週間と少しくらいしか経っていなかったはずだ。


 その間二人きり……、途中でレオに出会ったけど旅をして、自分でもカミラちゃんに特別好きになってもらえるようなことをした記憶がない。


「……そうですね。私もまだアリス姉さんにこの話はしていませんでしたし、丁度いい機会です。お伝えしましょう。残酷な運命を背負った幼い吸血鬼の、淡い恋の物語を」


◇


 私はアリス姉さんに一度説明したように、吸血鬼の村を魔人族に襲撃されて人間の街へ亡命しました。


 その後は孤児院で人間の幼子として日々を過ごしました。しかしこの孤児院での暮らしは、私にとってはとても辛いものだったのです。


 だからといって私が虐げられていたとか、そんなことはありませんでした。孤児院の方々はとても良くしてくれましたし、他の孤児達とも確執は何も無く、仲良くしていました。


 ……でも、夜な夜な夢に見るのです。憎しみに身を焦がした私自身が施した暗示によって、あの日の光景を、感情を、本当に夢なのかと疑う程に生々しく。


 当然記憶を消していた当時の私には、それが何なのかさっぱり分からなかったんです。それ故に、とても、とても怖かった。


 私は当時5歳の子供として孤児院に入りましたので、適性検査を受けるまでの二年間、毎日その夢を見続けていました。


 アリス姉さんは知らないかもしれないですけど、あの日まで私は眠るのが怖くて毎日睡眠不足だったんです。


 でも私は人間ではなくて吸血鬼です。その程度の睡眠不足では病気にはならないですし、死ぬこともありません。


 ですが長い間吸血しなかったこともあり、当時の私は毎日体調を崩しているような病弱な子供になっていました。


 そんな苦しみの中にいた私に光が差したのは、忘れもしないあの適正検査の日でした。


 隣の席にアリス姉さんが座った時、突然身体がフッと軽くなったんです。あの時はびっくりしましたよ。しかも何が起きたのか分からなくて困惑していたら、アリス姉さんが話しかけてきたんですから。


 あの時のアリス姉さん、可笑しかったなぁ……。


 アリス姉さんは確かこう言ったんです。


「あのー、すみません。私何か変なところあるでしょうか? 例えばゴミが付いてるとか、服が変だとか……」


 色々いっぱいいっぱいだった私にそんなトンチンカンなことを聞いてくるものですから、思わず変な声が出てしまいましたよ。


 適性検査を終えて領主様のお屋敷に招待された時も、私の身体はずっと羽のように軽くて、生まれて初めて甘い焼き菓子を食べて、本当に幸せな時間でした。


 そしてその日、私はアリス姉さんと同じベッドで眠りにつきました。……って勇者、その剣をしまって下さい! わ、私は何も疾しいことはしてませんのでっ!


 ……コホン。その夜なんですけど、私はあの夢を見なかったんです。人間として暮らしてからは、初めてのことでした。


 赤く淀んだ空、血に塗れた中庭、串刺しにされた両親と仲間達。声を上げることも許されず、ただ彼らが殺されていくのを見ているだけだった無力感。


 その地獄を見なかった、初めての夜。その眠りはとても心地良くて、そのまま溺れていたいと思う程でした。


 あの苦しみから、やっと解放された。どうしてかは分からないけれど、やっと解放されたんだ。そう思って、翌日はちょっぴりテンションが上がってしまっていました。今でもちょっと恥ずかしいです。


 でも、私はその悪夢から逃れられてはいませんでした。


 その日の夜、孤児院で一人眠りについた私は、再びあの夢を見ました。その日の夢見は特に悪くて、朝起きた時には枕がズタズタに裂かれてしまっていた程です。


 指がヒリヒリと痛くて、それをやったのは私自身なんだと気付いたときには再び恐怖に怯えました。


 そして分かったんです。あの日、私があの悪夢を見なかった理由が。


 それはアリス姉さん、貴女のおかげだったんです。今なら断言できます。


 アリス姉さんは当時、闇属性を除いた五属性全てに適性がある魔力量Sの化けも……、天才でした。


 その身体から溢れる魔力には当然癒しの力を持つ光属性の魔力も含まれています。そしてアリス姉さんから溢れた余りにも強力なその魔力は、私に施されていた闇魔法による暗示を和らげてくれたのでしょう。


 当然、当時の私にはそんなことが起きていたなんて知る由もありません。ですが実際に旅に出た後の私は、あの夢を一度も見ることはありませんでした。


 そして思ったんです。アリス姉さんこそが、私の運命の人だったのだと。側にいるだけで私を苦しみから救ってくれる、唯一無二の人なのだと。


 それからの私は、アリス姉さんに夢中でした。一度火がついた恋心は止まるところ知りません。当時自分を人間だと思い込んでいた私も、本質は同性愛に寛容な魔族ですので、自分の恋愛感情を自然に受け入れられたんですね。


 そしてスパルタではありましたけど魔法を教わったり、一緒にご飯を作ったり、他愛もない話をしたりする内に、アリス姉さんの内面をも好きになっていました。


 しかもアリス姉さん、とっても可愛いですし。全身どこを取っても非の打ち所がないです。私が一緒にお風呂に入る時、一体どれだけドキドキしたと思ってるんですか?


 何度心臓が破裂しそうになったか分かりませんよ。しかも魔法を教えてくれる時も距離が近いし、ボディタッチが多いしで本当に大変だったんですから。


 今の歳相応の記憶を取り戻している私だったら襲ってたかもしれないんですよ? ちょっとは手加減してほしかったですよ全く。


 ……勇者、羨ましいからってアリス姉さんにちょっかい出そうとするのやめてください。顔が真っ赤になってるじゃないですか。


 え? 私のせいですか? それなら本望です。


 話を戻しますけど、そうして【要塞都市フォルト】に着いた頃には、私はもうアリス姉さんの事しか考えられない程には貴女の虜になっていました。


 ドラゴンに殺されてしまったアリス姉さんを見て記憶を取り戻した時、悪魔を見なくなったのはアリス姉さんの魔力が原因だったのだと理解しました。


 ですがもう、そんな事はどうでも良くなるくらいにはアリス姉さんのことが好きになっていたんです。なので"血の契約"を行うのに迷いはありませんでした。


 私を苦しみの淵から救ってくれたのは、間違いなくアリス姉さんなのですから。

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