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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第四章 王都騒乱編
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第二十三話 開戦

「まさかあの時の侯爵が偽物だとは思いませんでしたよ。あれもまた、()()()ですか?」


「ふむ、半分正解で半分不正解といったところでしょうか、美しいお嬢さん。アレは紛れもなく本物の私ですよ。ただ少し細工をしただけです。魔族を確実に仕留めるためには、数多の策を練り、備えをしておく必要がありますので」


 そう言って朗らかな笑みを崩さないフランツ侯爵。この余裕そうな態度、やはりこの場にいるのも偽物……。


 いや、もしかして。


「その身体、人形ですね?」


 私がそう言うと、侯爵は目を見開いて驚嘆し、そしてパチパチと手を叩く。


「お見事、正解でございます。如何様にして気付いたのでしょうか」


「貴方は提供品というところに関しては否定しなかったでしょう? そしてさっき殺した侯爵のポケットからは、吸血鬼が魔法を使えなくなる力が込められた人形が出てきました。提供者が同じ人物なのだとしたら、その可能性もあると思ったんですよ」


 日本でも藁人形は呪いの道具として使われていたし、怪談話でも人形に意識を乗っ取られる、或いは逆に人形の中に意識が移ってしまうといったものがある。


 有栖が見ていたアニメの中では、自身と寸分違わない人形を作り出して意識を移し、その個体が死んだら次の人形に意識を移すを繰り返す事で実質的な不老不死を成し遂げた人物もいた。


「なるほどなるほど、よく分かりました。その通りでこざいます。彼の作る人形は素晴らしいものばかりです。正に、魔族を討つためだけに生まれてきた()()と言えるでしょう」


「……は? 人間?」


 私は思わずポカンと口を開けて阿呆面をしてしまう。いやいや、そんな人形が作れるのが人間な訳ないし、というかカミラちゃんの事例から犯人は魔人族だし、そもそも封魔の杖で無力化出来る時点で『アジ・ダハーカ』の加護を行使している訳だし。


 そうか、フランツ侯爵も騙されて、というか利用されているんだ。もしかしたら、洗脳の魔法まで使われているかもしれない。いや、確実にそうなのだろう。もしかしたら、王子様達でさえも。


「どうしたのですか? 吸血鬼のお嬢さん。何を焦っているのですか?」


 私の様子を見て愉しげに笑みを浮かべる侯爵を睨みつけ、それから私はこの場に似つかわしくない御仁、セウェルス王子殿下に向かって恭しくお辞儀した。


「ご機嫌麗しゅうセウェルス王子殿下。失礼を承知でお尋ねしたいのですが、貴方様もフランツ侯爵と同じお考えなのでしょうか?」


 私は完璧なまでの営業スマイルを浮かべながら、セウェルス王子に問いかける。すると彼は、フンと鼻を鳴らしてやれやれと首を振った。


「同じ考えというのが何を指すのかは分からぬが、私はただ国を脅かす吸血鬼が脱走したと聞かされたから出向いたまでのこと。フランツが誰と手を組んだかなど知ったことではない。今最も重視すべきは目の前の脅威を討つことだと思うのだが、これは可笑しな考えだと思うかい?」


「……なるほど、合理的な考えだと思います。ですが私は最初からこの国に害を為すつもりはないのです。どうかご容赦願いたいのですが」


 私がそう言うと、セウェルス王子は小さく溜息を吐いて首を横に振った。


「私も見目麗しい女性を手にかけたくはない。だが、君は身分を隠して父上に謁見した。そんな君の言葉は、信用に足ると思うのかい?」


 だって身分隠さなきゃ王都に入れる訳ないじゃん、とは言えない程の猛烈な殺気を放ちながら嗤う彼の姿は、とても温室育ちの王子様とは思えない程の重圧を放っている。


 ……なるほど、騎士団長を務めているのは完全にセウェルス王子の実力がトップだからなのか。ちょっとは王族ってことで忖度されているかと思ったけど、そんなことは一切無さそうだ。


「結局こうなるのか……。正直王子殿下に剣を向けたくはないんですけどね」


 私は彼から目を離さずに、腰に差していた"紫炎"の鍔を親指で押し上げる。


「戦う前に一つだけ聞いておきます、セウェルス王子殿下。貴方は私の友人、紺野芹奈の証言を信じていますか? 私が彼女と同じ世界出身の転生者であることについて」


 私がそう言うと、王子様は頷いた。


「無論、勇者様の有する"世界眼"に狂いはないであろう。だがそれ故に始末せねばならないのだ。『アジ・ダハーカ』の元に与した転生者など、未曾有の危険分子だろう?」


「……私はその邪神がどう言う存在かすら知らないんですけどね。混血吸血鬼ですし」


 私がそう言うと、これにはフランツ侯爵や王子様も驚いたようで両目を見開き私の刀を凝視した。


「そういうことですか。道理で剣を扱える訳です。ふむ、ということはもうお一方、あのカミラという少女が契約主ですね?」


「……だったらどうするというのですか?」


 契約主という言葉、フランツ侯爵は"血の契約"のことを知っている!


「無論、君を始末するさ。確かに君自身は邪神への信仰も無く、それどころか元々は我が国の国民、庇護すべき対象なのかもしれない」


 王子様から溢れる殺気が鋭さを増し、私の肌に突き刺さる。その隣に立つフランツ侯爵もまた、腰に差した長剣を抜いた。


「だが契約を交わしたということは、君とカミラは一心同体の身。つまり君を殺せば、間接的に純血の吸血鬼を葬ることが出来るということなのだろう? 当然カミラ本人を殺しても同じことだが、今彼女は行方が知れていない上、君が必ず阻止しようとするだろう? 吸血鬼二体を相手にするのは不利、更に奇しくも我々に有利な条件が揃っている。ならば今ここで君を斬るのが最も合理的という訳さ」


「交渉の余地は……、無さそうですね」


「無論だ。覚悟はいいな?」


 セウェルス王子はそう言って、右手に持つ剣を天に掲げる。そして、私に向かって振り下ろした。


 それが、開戦の合図となった。


 私に向けて、五属性色取り取りの魔法が騎士たちから放たれ、同時に雨のように矢が降ってくる。


 更には強力な魔法付与がされている剣を持った騎士達やセウェルス王子、フランツ侯爵が斬りかかる。


 剣を避ければ矢が、矢を避ければ魔法が襲いかかってくる波状攻撃は、一見すると逃げ道が無いように見える。いや、実際回避は不可能だと思う。


 でもね、私の"紫炎"の前には無意味なんだよ。


 まずは襲い掛かってくる剣を身体強化を駆使して躱していく。それでも避けられない斬撃は全て"紫炎"で受け流して退路を切り拓く。


 そして剣士達が引くと同時に襲い来る矢は、刀を薙いで斬り落とす。何本かは腕を掠めたけど、なんとか弓矢の射程外まで逃れて、しかしそこに魔法が襲い掛かる。


「でも、これを待ってたんだよ!」


 私は体勢を崩しながらも襲い来る魔法を()()()()()。まったく、フランツ侯爵は馬鹿なのだろうか?


 いや、まさか私があれだけの数の魔法を全て斬るなんて思わなかったのだろう。彼らは皆、私の師匠が誰なのかを知らないのだから。


「お父さんありがとう。貴方の剣と剣技のお陰で、私は戦える」


 私は、猛烈な熱量を持った紫色の炎を纏う''紫炎"を正眼に構えて騎士達を一瞥する。


 さあ、ここからが本番だ。


「こうなった"紫炎"は鉄の鎧をも容易く斬ることができるそうです。皆さん、どうか死なないでくださいね?」

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