第二十四話 死闘
「ふむ、能力と魔法を全て奪われて尚あれだけの波状攻撃を全て防ぐとは想定外です。流石は魔剣と言ったところでしょうか」
あれだけ猛烈な攻撃を仕掛けた上で全て躱されたというのに、フランツ侯爵は事も無げに小さく頷いている。
「相手は混血の転生者だからな。やはり、一筋縄ではいかないということだ。だが、これならどうかな?」
セウェルス王子がそう言うと同時に、全身を危険信号が駆け巡った。
私は勘を頼りにその場から全力で飛び退く。その瞬間、眩い光と共に私が元いた場所が空間ごと斬り裂かれた。
もし私があの場所に立っていたら、為すすべもなく首と胴体は泣き別れをする羽目になっていたと思う。
しかも王子様とは十メートル以上離れているんだよ? あの人もまたとんでもない魔剣を持っているらしい。
「ふむ、これを避けるとはやはり相当な手練れのようだ。作戦を変更する。アリスへは精鋭のみが攻撃を行え。魔法隊および弓隊はカミラを警戒しろ」
セウェルスの指示によって、兵士達のフォーメーションが瞬時に変化していく。この適応能力の高さは、流石王都の騎士団ってだけはあるね。
「いいんですか? 私にぶつける戦力は多い方が良いのではないですか?」
「ふん、下手な魔法は君の戦力増強になるからなっ!」
セウェルス王子は言葉と共にまたしても魔剣を一閃する。そして私が飛び退くと同時に背中に差していたもう一本の剣を抜いて突っ込んでくる。
私は慌ててそれに対処しようとして、背後に突然現れた女性に背中を斬りつけられる。
私は無理矢理身を捻ってその攻撃を回避して、地面を転がって距離を取る。
しかしそこにまた別の大男がいて。巨大なメイスを振り上げていた。
「危ないなもう!」
私はそれを"紫炎"で斬り裂き、大男の腹を蹴り上げてから瞬時に飛び上がって強烈な回し蹴りを叩き込んだ。
サッカーボールのように吹き飛んだ大男は先程現れた女性に向かって飛んでいき、彼女を巻き込んで地面を転がり意識を失った。
しかしホッとしたのも束の間、すぐ目の前には既に剣を振り抜いている最中のセウェルス王子の姿があり、私はすぐに"紫炎"でその剣を受けた。
「ほう、この連撃でさえも対処するのか。彼らは一応Aランクの冒険者なのだが」
「王子殿下こそ、この"紫炎"の刃を受けて尚無傷の剣をお持ちとは、恐れ入りましたよ」
私はセウェルス王子と鍔迫り合いしながら周りの様子を伺う。倒れている冒険者が二人、少し離れた位置にフランツ侯爵、こちらへ向かってくる騎士が数人。
……冒険者は確か三人いたはず。数が合わない。
「おや、余所見している余裕があるのかい? それならば、これはどうかな?」
私が目を離した一瞬の隙を突き、セウェルス王子は鍔迫り合いの状態から脱して剣を振り抜いた。
私は慌ててその剣筋の延長戦から逃げ、ふわりと浮いて取り残された髪の一部が消滅した。
やっぱりあの剣、斬った空間の物質を消滅させる能力があるみたいだね。折角の綺麗な髪が短くなっちゃったよ。
しかしやっぱり、もう一人の冒険者の姿が全く見えない。何処かに隠れているんだとしたら、かなり厄介だ。障壁系魔法も使えない状態で不意打ちは勘弁してもらいたいんだけどな。
そう思った直後、背中に気配を感じて振り向きざまに"紫炎"を振るう。その一撃で相手の剣は真っ二つに切れ、しかし相手は構わずに短くなったそれで斬りかかってくる。
私はすかさず二太刀目を振るって剣の鍔から先を全て切り落とした。そして剣が突然軽くなったことでバランスを崩した相手に渾身のパンチをお見舞いする。
彼は籠手でガードを試みるも、全力の身体強化を乗せた一撃はそれを容易く砕き、彼の腕を吹き飛ばした。
私は返り血を浴びながらも追撃で彼をセウェルス王子に向けて蹴り飛ばした。
私へ二太刀目を浴びせようとしていた王子様は慌ててその動きを止めて、冒険者を受け止める。
流石に自国民を自ら殺めるわけにはいかないもんね。
というか、王都のAランク冒険者弱くない? 使ってる武器も普通だし、確かに隠密性は優れてるかもしれないけど打たれ弱いし、ギルマスの方がよっぽど強かったと思う。
それとも、魔力量が上がったことで身体強化が飛躍的に強くなってるのかな?
「……魔力量Aの者が施した物理障壁を容易く貫通し、強力な付与がされた籠手をも粉砕ですか。その上伝説級の剣を除いた全ての武器は斬り伏せられてしまうと。なるほどなるほど、冒険者如きでは歯が立たないのは当然と言えましょう」
私達の様子を遠目に見ていたフランツ侯爵はパチパチと手を叩く。
「フランツ、君にも少しは加勢してもらいたいのだがね」
「それは申し訳ありませんセウェルス王子殿下。ですが、戦闘において最も重要なのは相手を知ること、つまり情報なのです。そして今、知りたい情報は全て手に入りました」
侯爵はそう言うと、見たことがない不気味な人形を取り出した。人間の顔くらいのサイズがあるその人形は、身体も精巧に作られており、まるで小人のようだ。
嫌な予感が電流のように脳を刺激する。何をしようとしているのかは分からないけど、あの人形だけはダメだ!
私は脚に身体強化を施し、フランツ侯爵の元へ駆け出す。
「時既に遅しですよ、お嬢さん」
私は音速に届こうかという速度で必死に手を伸ばし、しかし間に合わなかった。
フランツ侯爵は人形の手足をあらぬ方向へと折り曲げた。その瞬間、私の手足に施した身体強化が切れる。
高速で駆けていた身体から、力が抜けていく。
ヤバいと思った時には手遅れだった。
私は勢いを殺しきれず、侯爵の後ろに控えていた騎士団へとノーガードで突っ込んだ。
何人もの騎士を薙ぎ倒しながらも十メートル以上は転がっただろうか。その間全身の骨が折れる嫌な音が響き、力が抜けた手から"紫炎"が離れる。吸血鬼の特性からか痛みはそれ程感じないけれど、最早動くことは叶わない。
「フランツ侯爵……、ゴフッ……一体、何をしたんですか……っ!?」
折れた肋が肺に突き刺さり、溜まった血が口から溢れ出すのも構わずに私は声を張る。
「クッフフフ、無様ですね吸血鬼のお嬢さん。残念ですが、態々敵に自らの切り札のタネを明かす訳には参りません。貴女は何が起きたのかも分からないまま、この世に生を受けたことを呪いながら死ねばよいのです」
フランツ侯爵は、そう言って笑いながら私の両手両足を切り飛ばした。吸血鬼の身体とは言え許容できない程の猛烈な痛みが襲う。
でも、ドラゴンにボコボコにされた時よりは全然マシだ。私は顔を歪めながらも、必死に痛みに抗って意識を保つ。
「ふむ、やはり吸血鬼というのは想像以上に頑丈なようです。ですが貴女は既に詰んでいます。今楽にしてあげますよ」
狂気的に嗤う侯爵は私の胸に剣を突き立てる。遠くに見えるセウェルス王子は余りにも痛ましい光景故にか目を背けている。
私が踏みつけにしている騎士達からも、震えが伝わってくる。それでも、ここに私の味方はいなかった。
「さようなら、吸血鬼のお嬢さん」




