第十一話 作戦会議
もう二度とその姿見せんな、この虫野郎!!
と、一も二もなくアレを焼き殺した私は全身を『浄化』で清める。ついでに、焼けるように痛む喉と失神してしまったカミラちゃんを『ヒール』で治療しておいた。
それでもまだ、あの気持ち悪い感触が脚に残っていてああもう無理無理無理っ!
正直言って泣きたいくらいだけど、今はそんな場合じゃない。運良く看守が気を失ってくれたから、今のうちに作戦を練らないと。
「カミラちゃん、大丈夫?」
「……うう、頭がクラクラします」
よかった、カミラちゃんは『ヒール』のお陰でなんとか動けそうだ。
それから少ししてカミラちゃんが完全に立ち直った後、私達は早速作戦会議を行った。
私達はここに運ばれてくる時、麻袋みたいなものを被せられていたせいでこの牢屋の所在を把握できていない。
大した距離歩かなかったから、多分王宮かそのすぐ側だろうってことは分かるんだけどね。気絶させられた訳ではなかったし。
とりあえず脱獄するのは確定として、その後のプランをどうするか考えておく必要がある。
その上で重要な情報を整理してみよう。
1. 罪状は国家反逆罪
2. 芹奈ちゃんは味方で間違いなさそう
3. レイさんは敵か味方かハッキリしない
4. 謁見の時にはまだ、私達を罪に問う動きは無かった
5. マジックバッグとドレスが没収されたのは、この牢屋に連れてこられた後
6. 誰が私達が反逆したと嘘をついたのかは不明
「今の状況を考えると、癪ですけど芹奈さんに協力を仰いだ方が懸命に思えますね」
カミラちゃんはそう言って、苦虫を噛み潰したような顔をする。そこまで嫌わなくても……。
「私もそう思ったんだけど、正直厳しいと思う。芹奈ちゃんが私に、その、好意を持ってくれているのは伝わっているだろうから、その動きは読まれちゃうんじゃないかな?」
私がちょっと照れて頬を掻くと、カミラちゃんにギロリと睨まれた。怖いって。
「それなら問題ありません。闇魔法に『念話』というものがあるので、これを使えば距離が離れていても意思疎通ができます。直接会わなくても、協力してもらう事は可能かと」
「そういえば、カミラちゃんが過去のお話してくれた時に言ってたね。でもあれ、芹奈ちゃんにも使えるの?」
「いえ、使えません。ですが私達が彼女の思考を読む事はできます。これで擬似的に会話が成立するはずです」
なるほど、こちらが言いたい事は『念話』で伝えて、芹奈ちゃんが言いたい事は思考を読む事で知る事ができると。
「でもそれ、芹奈ちゃんのプライバシーが無くなるんじゃ……」
「知ったこっちゃないです。それよりもこの状況の打開の方が大事です」
相変わらず辛辣だけど、言ってることは間違ってない。私達の旅の目的は、あくまで魔族領に行くこと。こんなところで立ち止まってる時間もないし、それこそ処刑されるなんて以ての外だ。
とはいえ、王都から逃げ出してしまったら謂れのない罪で一生指名手配犯になってしまうことになるし、放っておく訳にもいかない。
「分かった。でも私、『念話』の使い方分からないんだけど……」
「少し待っていてください。(聞こえますか?)」
突然頭の中にカミラちゃんの声が聞こえて、思わず変な声が出そうになる。でもその声は酷く無機質で感情のない、まるで彼女の声を機械が発しているみたい。
話には聞いていたけど、凄い不思議な感覚だ。
「聞こえるよ。なんか、頭の中がむずむずして変な感じ」
「(そのうち慣れますよ。まずは『念話』を含めた闇魔法、そして吸血鬼のスキルの使い方を渡しますね)」
カミラちゃんがそう伝えてきたその刹那、私の頭に膨大な情報が流れ込んできた。そしてそれは、パソコンのデータをUSBメモリにコピーするかのように、直接記憶に刻み込まれていく。
「(『念話』はこんなこともできるんだね。びっくりしたよ)」
「(無事使えるようになったみたいで良かったです。では、早速芹奈さんと連絡をとりましょうか)」
私は頷いて、自分とカミラちゃんを繋げて『念話』を発動する。そこに芹奈ちゃんの思考を闇魔法『読心術』でリンクさせる。こうすることで、闇魔法が使えない人とも擬似的に『念話』が出来るのだ。
「(もしもし芹奈ちゃん? 聞こえる?)」
「(わわっ、何これ何これ!? 頭の中に直接声が……? っていうか今の声女の子バージョンの有栖君? 何処にいるの!? 無事なの!?)」
『念話』と違って『読心術』は感情がダイレクトに伝わってくるのがちょっと面白いね。
「(今のところ無事だよ。ただ目隠しされていたせいで、何処に連れてこられたのかはよく分からない。一応、王宮からそう遠くない地下牢に閉じ込められてるってことだけは分かってるんだけどね。今は闇魔法を使って遠隔で話してる。だから外の状況を教えてもらえると助かる。ちなみに声を出さなくても頭の中で話してくれれば聞こえるから、周りの人にバレないように気を付けてね)」
「(わ、分かった。それじゃあ取り急ぎ私が聞いた話を伝えるね)」
芹奈ちゃんはあの後、王様の前に連れて行かれて私達が何で逮捕されたのかを伝えられたらしい。
曰く、私とカミラちゃんは吸血鬼、つまり魔族であるということがバレていたというのだ。そしてそれを隠して王様に謁見し、反逆を企てていたということになっている。
更には吸血鬼の特性"魅了"を使って勇者である芹奈ちゃんを誑かし、味方に付けようとしたと……。
いや、まあ確かに魔族は人間と敵対してるからそうだとバレたら不味いことになるとは思ってたけど。
でも、いつバレた?
あの圧倒的情報収集能力を持つレイさんかその仲間が、私達が擬態を解いた姿を見ていたのか?
いや、それなら王宮に招き入れるなんて危険な真似はしないと思う。逮捕されたタイミング的には、あの謁見が一時中断されている間に何か情報が齎されたとしか思えない。
でも、一体誰が?
いや、そんなことよりこれはかなり不味い状況と言える。なにせ、私とカミラちゃんが吸血鬼なのは紛れもない事実だからだ。
これじゃあ、100パーセント冤罪とは言い切れなくなってしまった。
この状況を打破するには、脱獄した上で私達が人間だということを証明する必要がある。でも、そんな方法あるのかな? そもそも人間じゃない訳だし。
思わずカミラちゃんに視線を送るも、彼女は力無く首を横に振る。これはちょっと、万事休すってやつかもしれない。そんな諦めムードが漂い始めてきたその時。
「(えっと、有栖君。それなら普通に告げ口した犯人捕まえればいいだけじゃないの? そいつが虚言吐いてたってことにすればいいと思うんだけど)」
芹奈ちゃんから、単純かつ明解でいて超困難な解決策が提示されたのだった。




