第十話 豚箱へようこそ
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ありがとうございます!
そして遂に今日から大きく話が動き始めます。
Welcome to the shit○y room!
「ちょ、ちょっと待ってください! アリス姉さんを失った悲しみについては心中お察しします。私だって、アリス姉さんがいなくなったらと思うだけで気が狂いそうになりますから。ですが、ぽっと出の勇者がアリス姉さんとお付き合いするなんて許せません!」
私が返事するよりも先に、カミラちゃんによる机をバンバン叩いての猛抗議が始まった。
それに対して芹奈ちゃんは表情を変えずにただ小首を傾げる。
「あら、わたしからしたら貴女の方がぽっと出だけど? わたしは高校三年間ずっと同じクラスだったのよ?」
「それを言ったら私はアリス姉さんの契約」
「うわああああ!?」
私は頭に血が上ってとんでもないことを言いかけたカミラちゃんの口を全力で塞ぐ。
こ、この娘思ってたより油断できない! 成人した記憶を取り戻したんだし、もうちょっと冷静でいられるものだと思ってたんだけど。
……まあ、何百何千年と生きる吸血鬼という種族だってことを考えると、まだまだ子供なんだろうけど。
芹奈ちゃんは慌てる私の様子を見て、拗ねたように口を尖らせる。
「なるほどねー、その特性はそういうことだったのね。ふーん」
こっちはこっちで在らぬ勘違いをしていそうな気がするし、実に面倒な状況になってきた気がするよ。
「とりあえず、二人ともストップで! 王様達も待たせてるし、詳しい話はまた今度ということで、ね?」
「それなら今夜、私の部屋でということで」
「えっ、早くない?」
「というかわたし、もう有栖君から目を離す気ないから」
「そんなの許しませんから。アリス姉さんのプライバシーは私が守ります」
重い! そしてカミラちゃんから放たれる殺気も重い!
完璧に頭に血が上ってしまった二人は、私を置いてけぼりにしてどんどんヒートアップしていく。
私は溜息を吐いて、二人の顔面に水球をぶっかけた。
「はいそこまで。二人とも頭冷やしなさい」
0度ギリギリまでキンキンに冷えた水を被った二人はカタカタと震えて、小さなくしゃみをする。
恨みがましく私を睨んでくる二人だったけど、お陰で静かになった。やっぱり熱くなった頭には水だよね。
「な、何するのよ……」
「寒いです……」
「さっきも言ったように、人を待たせてるんだから喧嘩はダメ。続きを話すのは今夜、芹奈ちゃんの部屋でいいからさ。ただし、カミラちゃんも同席する。これでいい?」
私が腰に手を当ててお説教すると、二人はしゅんとした表情でコクリと頷いた。素直でよろしい。
「それじゃあ、王様のところに戻ろうか。レイさん、案内お願いできますか?」
無事喧嘩を仲裁し終えた私がそう、レイさんに問いかけた時。
「その必要はない。お前らはもう、我が君と顔を合わせることなどないのだから」
そのような言葉と共に部屋の扉が勢いよく開かれ、剣を持った十人以上の兵士達がゾロゾロと駆けてきた。
そしてその剣先は、私とカミラちゃんに向けられていた。
意味の分からない状況に言葉が出ない私とカミラちゃんを、リーダー格のちょび髭を生やした男は一瞥して嫌悪感丸出しで鼻を鳴らす。
その様子に芹奈ちゃんが激昂しかけるけど、突然彼女の背後に現れたレイさんに羽交い締めにされて動く事ができないでいる。
そして部屋の中に一時の静寂が訪れる。
あまりにも突然のことすぎて頭が真っ白になる。どうして私とカミラちゃんが剣を向けられているの? 何も悪いことなんてしてないはずなのに……。
困惑でぐるぐると目が回る。そんな私に向かって、彼はこう言い放った。
「アリス、そしてカミラ両名を国家反逆罪の疑いで逮捕する。……連れて行け」
◇
「どうしてこうなった〜♪ どおしてこうなった〜♪」
「アリス姉さん、音痴です……」
布切れ一枚無い薄暗くてジメジメした牢屋の中で、私は焦点の合わない目を格子に向けながらゆらゆらと揺れていた。
もう、情報量が多すぎて私の小さな頭はパンク寸前ですよ。
王都に来たらいきなり王様と謁見することになるし、かと思ったら告白して撃沈した意中の女の子と再開するし、しかも彼女は勇者になってるし、更に本当は私の事が好きだったって言うし、カミラちゃんとは喧嘩するし、挙げ句の果てには何故か私タイーホされちゃったんですけど?
しかも国家反逆罪って、何の心当たりもないんだけど。王様やお貴族様への対応を間違えた訳でもないし、というかそれなら不敬罪だろうし。
芹奈ちゃんがいた手前、変に暴れて迷惑をかける訳にはいかなかったし、そんなことしちゃったら冤罪じゃなくて本当の罪になってしまうから我慢したんだけど、今はかなり後悔してる。
だってさ、この牢屋汚過ぎるんだもん。
刑務所のことをよく豚箱とか言うけど、ここは豚でも住めない酷すぎる空間だった。
まず二人で閉じ込められてるのに、広さが六畳もない。感覚としては三畳くらいの狭さ。そして地下ということもあって日の光とも無縁だったりする。唯一の光源は、看守のいる机に置いてある燭台一本だ。
内装も酷いものだ。内装といっても、仕切りすらないボットン便所が設置されているだけなので、内装と呼ぶのもおこがましいんだけど。椅子も机も棚もベッドも布団も一切無いんだよ? 酷くない?
そしてこの便所がまた超臭かった。一度の掃除もしていないんだろうなってことが分かる程の強烈な悪臭が、狭い牢内に充満していたのだ。すぐに『浄化』で綺麗にしたから、今はもう無臭だけど。
床は冷たい石材を適当に敷き詰めただけの簡素なもので、当然凸凹だらけ。座っているだけでもお尻が痛くなってくるし、砂だらけで足の裏も超不快。
というのも、私のお気に入りドレスは剥がされ、マジックバッグと一緒に没収されてしまっているのだ。今は下着姿である。女の子にこんな酷い仕打ちありますか?
私は前世が男だったこともあって羞恥心はそんなにないからいいけど、カミラちゃんはそうもいかない。
私は、ずっと格子の向こうから下品な目で見てくる看守から、背中でカミラちゃんを隠していた。
あの人の目、絶対私達がトイレを使う瞬間を狙ってるな。何であんな変態ロリコン野郎が王宮で働いていられるのか、甚だ疑問だよ。
尤も、吸血鬼である私達は排泄しないから使うことはないんだけどね。残念でした。
私が変態看守に舌を出していた時、突然足に違和感が走った。さわさわと何かが登ってくる不快な感触に、全身が総毛立つ。
恐る恐るそちらに目を向けると、名前を口にしてはいけないアレがいた。黒光りするその体は、そのメタリックな輝きとは反対にフニャフニャと柔らかい。
二本のやたらと長い触覚を左右にフラフラと揺らしながら小馬鹿にするように私を見たソイツは、更にカサカサと私の脚を駆け回り、遂にはパンツの中に侵入しようとして。
その瞬間、近くにいたカミラちゃんと看守が失神する程の大絶叫が地下空間に響き渡ったのだった。




