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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第四章 王都騒乱編
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第六話 謁見

 玉座の間に通された私は、そのあまりにも場違いで非現実的な光景に圧倒されていた。


 入り口から玉座へ敷かれたレッドカーペットに跪く私とカミラちゃん。そしてその両側には、何十人というお貴族様が参列していて、私達を珍獣を見るような目で眺めている。


 王様のお姿は、顔を上げることが許されていない私にはまだ見ることが出来ていない。それでも、肌に感じるプレッシャーだけで押し潰されそうになるのは、流石は本物の王様といったところか。


 というか、さっきまで王宮内は全然人の気配無かったのに、人口密度高くなりすぎじゃない!? ハノーヴァー伯爵一人にビビっていた小心者の身には辛すぎるんだけど!


「失礼いたします、レイでございます。アリス様、カミラ様両名をお連れしました」


「お初にお目にかかります、アリスと申します。平民の身でありながら、恐れ多くも御身の御前に参上します機会を設けて頂いたこと、深く感謝いたします」


「右に同じく参上いたしました、カミラと申します。若輩者でありますが、どうぞお見知り置きいただけますと幸いです」


 ガチガチに震えたけど、考えておいた口上をなんとか噛まずに最後まで言えてホッとした。しかしあがり症だったはずのカミラちゃんは、全く緊張している様子がなかった。


 この娘、記憶を取り戻してからは人が変わったようにしっかり者になったんだよね。時々どもる癖は残ってるみたいだけど、精神的には凄く大人びたというか。


「ほう、分別といい、物腰といい、平民の出とは思えぬな。流石だ、気に入ったぞ。面を上げよ」


 私達は声に従って、顔を上げて玉座を見据える。そこには、深く刻まれた皺を持ってしても隠すことのできない勇猛さ溢れる御方が座っていた。


 頭にはダイヤモンドがたっぷりと散りばめられた黄金の王冠を乗せており、長い白髪とのコントラストは、まるで王様という概念そのものを表しているかのようだ。こういうのを形式美というのだろうか。


 鎖骨のあたりまで伸びた白い髭は綺麗に整えられており、これまた彼の"王様"としての威厳を向上させている。


 彼の姿を見れば自ずと平伏してしまう。そんな迫力のあるご尊顔だった。


 そしてその隣には宰相様と思われる分厚い本を手に持った怖い顔をしたおじ様が立っており、私とカミラちゃんに訝し気な視線を送っている。あんまりこの人とは仲良くなれなさそうだなぁ。


 反対隣には王様よりも二回り程若い、おそらく20代であろう綺麗な金髪の男性が立っており、私達をニヤついた目で楽しそうに見ていた。


 その視線で確信する。この人が第一王子、セウェルス様で間違いない。腰には彼が纏う尊い身であろうことがすぐに分かる高貴な衣装とは余りにも似合わない、傷だらけで使い込まれた剣の鞘が差さっている。それだけで彼がどれだけの実践を経験しているのかを入念に物語っていた。


 そしてそのセウェルス様のすぐ隣には、目深にフードを被った怪し気な人物が立っていた。フードのせいで顔も見れなければ体格も分からないので物凄く不気味だ。分かるのは背丈が160cmかそれに満たないくらいってことくらいかな。


 王様のすぐ側に仕えているのだから信用に足る人物なんだろうけど、それでも思わず身構えてしまいそうになる。


「此度は【要塞都市フォルト】における魔物災害"紫の夜"において、我が国の民、そして大切な領地を救ってくれたこと、深く感謝する。君らの活躍が無ければ、あの地は既に魔境の森の一部となっていたであろう」


 王様はそう言って、玉座に座ったまま深く頭を下げた。その瞬間、両サイドに立っていたお貴族様達がざわつき始め、玉座の間は喧騒に包まれた。


 まさか王様が平民に頭を下げるだなんて全く思ってもみなかった私は、どうすればいいのか分からずオロオロした挙句何故か土下座してしまった。


 だって、こんな時どうすればいいのかなんて全く分からないんだもん!


 対してカミラちゃんは冷静で、「どうぞ頭を上げてくださいませ。私達は持てる力で出来る限り、当然のことをしたに過ぎません」とか嘯いていた。


 いや、まあ嘘は言ってないんだけどさ、冷静過ぎないですかねカミラちゃん? お姉ちゃんは妹の成長スピードに着いて行けませんよ。こっちが素のは分かってるんだけど、凄く差をつけられてしまったように感じる。


 周りのざわざわ騒いでいるお貴族様達も、面を上げるよう口々に言っていた。私はそれを当然の事だと思ったんだけど、王様は違ったらしく。


「それではカミラ殿がそう言うのであれば、私も顔を上げるとしよう。だが、君達にそれを言われる筋合いはないのだがね。私は私の考えを元に行動する。君達に指図される筋合いは無いと思うのだが?」


 王様がそう言うと、騒いでいたお貴族様達は一様に口を閉し、玉座の間に静寂が訪れた。この空気は、それはそれで辛いので怒気を静めてもらえると助かります……。


 私はこの状況でいつまでも土下座してるのも空気読めてないなと思ったので、再び顔を上げる。


 すると私と目が合った王様は小さく笑って、何でもない風にとんでもないことを言ってのけた。


「それに、このアリス殿は転(・)生(・)者(・)だ(・)。勇者と同様、我が国では本来国賓として扱うべき存在なのだぞ。君達にもそれは事前に伝えていたはずだが?」


 私は、既に無い心臓が止まってしまうんじゃないかという程の衝撃を受けて息を呑んだ。


 一体、どこからそんな情報が……?


 私のことを転生者だと知っているのは、カミラちゃんと、後は私が戦ったドラゴンだけだ。


 カミラちゃんは当然密告なんてしないだろうし、あのドラゴンが人間に情報を齎すとは考えにくい。しかもあのドラゴンは、私が転生者だからって理由だけで始末しようとしたんだ。いくらなんでもそこから情報が漏れたとは思えない。


 ……そうだとしたら、彼女か?


 横で頭を下に向けたまま跪いている王宮直属のメイド長、レイさん。彼女は私とカミラちゃんが名乗る前からその名前を言い当てていた。


 まさか彼女、或いはその部下がフォルトに潜伏していて、情報を流していたのか?


 もしそうなら、"紫の夜"の後に召喚状が異様に早く届いたことにも説明がつく。そしてその場合に重要なのは、私とカミラちゃんが人間ではないってことを知られているのかどうかだ。


 でも、それはおいそれとここで聞いていいことじゃない。もし「私達の正体を知っているんですか?」などと言ってしまえば、私達が人間ではないと自白するのも同じなのだから。


 さっきまでとはまるで違う緊張感に、冷や汗が流れる。


「ど、どうして私が転生者だと分かったのですか?」


「私が持つ情報網はとても優秀でな。それだけ言えば十分であろう?」


 ……やっぱり、そういうことなんだね。ただ吸血鬼だとバレている様子は無さそうだ。


 もしそうなら、私達は今いつ串刺しにされてもおかしくない状況にあるはず。魔族は、人類の敵として認識されているのだから。


 だというのに、周囲からは殺意を感じられない。


 さっきまで騒ついていたお貴族様の反応を見るに、王様はともかくこの人達が殺意を隠すなんて器用なことが出来るとはとても思えない。


 まあ、王様がその情報を伏せている可能性もあるんだけど、さ。


「……はい。確かに私は転生者です。地球という星の、日本という国で成人として生きていた記憶が残っています」


 私がそう言うと、再び玉座の間は喧騒に包まれる。因みに成人していたというのは、この国基準での話だ。【ノルトハイム王国】では16歳を成人としているからね。


 そしてよく耳を澄ましてみると、喧しいお貴族様達の話している内容に、凄く気になるものがあった。


「ニホン、それでは勇者様と同じ出自ということか」


「巫山戯るな、そのような偶然あるはずがなかろう」


「しかし、勇者様の情報は徹底して封じていたはずだ。漏れることはない」


「では誠だと言うのか。しかし一体どれ程の確率だと言うのだ」


 この反応、今代の勇者はまさかの日本人なのかもしれない。もしそうなのだとしたら、私やカミラちゃんが魔族だと知っても敵にならなくて済むかもしれない。


 それなら、勇者が先走って変なことを言う前になんとかして会って話をしておいた方がいいかもしれない。事前に釘を刺しておけるチャンスがあるなら、活用しない手はないからね。


 ……あ、でももし勇者がヤンキーみたいな人だったらどうしよう。日本人だからって、誰もが話通じる良い人ってわけじゃ無いからね。


 私がそんな思考の渦に囚われていた時。


「そんな、まさか……。あり得ない……」


 まるで鈴の音を鳴らしたように澄んだ、聴いたものの心を浄化するような綺麗な声が玉座の間に響き渡り、それまで小学校の朝礼並みに騒いでいたお貴族様達もしんと静まり返る。


 その声の主は、王様の隣に立っていた怪しいフードを被った人だった。その美しい高音から女性だと思われるその人は、ゆっくりとした足取りで私の前までやってきた。


 そして私の頬に手を当て、それから逆の手で被っていたフードを取り払う。その一瞬だけ、静まっていたお貴族様達が小さく声を上げた。


「嘘……、そんなことって……」


 私は彼女の顔を見て、数奇な運命の悪戯に翻弄されることとなった。


 私はあの森で、有栖としての自分を思い出してから一度も彼女を忘れたことはなかった。


 この胸に秘めた想いを、一度たりとも失くしたことはない。


 今でも彼女と初めて会った時の心のトキメキを、ハッキリと思い出せる。


「紺野……、芹奈」


 彼女は紺野芹奈。有栖が告白して、そしてフラれた相手その人だった。

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