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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第三章 紫の夜編
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第三話 アリスの超スパルタ魔法講座

 翌朝、起きるなり涙ながらにめちゃくちゃ謝りまくるカミラちゃんを撫で撫でして落ち着かせてから、私達はお風呂に入ることにした。いくら誰に会うでもない旅の途中とはいっても、乙女なら体を清めておきたいと思うのは当然のことだ。


 決してカミラちゃんの裸を見たいからみたいな邪な理由があるわけではないのだ。私はロリコンではないから、そこは勘違いしないで欲しいのだ。


 私は誰に向けているのかもわからない言い訳をしながら、土魔法で拠点の一部を陥没させて浴槽を作った。そしてそこにファイヤーボールをぶつけて加熱した後、浴槽がお湯で丁度いっぱいになるサイズの水球を作り出して放り込んだ。


 あとは小さなファイヤーボールを何度かぶつけてお湯の温度を調整すれば、アリス特性インスタント銭湯の完成だ。


 私達は昨日の爆発で埃まみれの服を脱ぎ捨てて湯船に浸かる。


 あぁ、温い……。


「アリス姉さんは凄いですね。まさかお風呂まで作ってしまうなんて」


「これも魔力制御の賜物だよ〜」


 旅の途中でもこうやってお風呂に浸かれるんだから、魔法って便利だよねぇ。


 それから私は、お湯に浸かってふやけながら魔力制御の授業を行った。


 まずは私がお手本として、初級魔法のファイヤーボールを発動させ、土魔法で作り出した案山子にぶつけた。この時に使った魔力量と同じ強度の魔力塊をカミラちゃんに作ってもらう。


 これが意外にも、カミラちゃんはアッサリとやってのけた。もっと時間がかかるものだと思っていたんけど、カミラちゃんは一度見たものを参考にして実践することがかなり得意らしい。


 燃焼の原理をある程度理解したこともあってか、カミラちゃんはアッサリと様々な威力のファイヤーボールを発動させることができるようになった。


 というか、7歳の女の子二人が素っ裸で案山子に火の玉をぶつけまくる光景は、さぞシュールだろうなぁ。でもお湯から出たくないので仕方ないのだ。


 こうして無事に授業を終えた私達は、名残惜しくもお風呂から上がって風魔法で身体を乾かしてから新品の服に着替えた。


 昨日来ていた服は水球でバシャバシャと洗った後にまた乾燥させて、マジックバッグに放り込み、代わりに携帯食料を取り出した。


 今日は朝のんびりし過ぎたから、全く美味しくはないけど朝ご飯はこれで我慢することにしよう。


 一口食べれば口の中に広がる、油粘土のような食感。地球のそれとは違って砂糖が貴重なこの世界の携帯食料には、甘さはない。ただただしょっぱいだけの、炭水化物の塊なのだ。


 私もカミラちゃんも揃って顔を顰めながら頑張って全部を口に放り込み、私が作った水球でなんとか全てを胃に流し込んだ。


「うえぇ、やっぱりこれ超不味い……」


「わ、私もこれは苦手です……」


 この数日間は、毎朝上手くいかない魔法の授業をしていたこともあってずっとこの携帯食料を食べていた。それでも全然慣れる気がしない圧倒的な不味さ。


 もしこの世界で美味しい携帯食料を量産できたとしたら、大儲けできると思う。サリィを見つけ出した後は本格的に取り組んでみようかな……。


 私はそんなどうでもいいことを考えながら、焚き火を消したり寝袋を仕舞ったりといった後片付けを始めた。一応案山子とかも地に返しておく。誰かがここに来た時にビックリするかもしれないしね。


「カミラちゃん、忘れ物はない?」


「大丈夫、だと思います。マジックバッグも持ちました」


 忘れ物がないことをしっかり確認した後、私はカミラちゃんをおぶって浮遊魔法で拠点から飛び立とうとした。


すふとその時、ふとカミラちゃんがこんなことを言い出したのだ。


「あの、アリス姉さん。私も、浮遊魔法に挑戦してみたいです」


 なるほどなるほど、カミラちゃんは魔法を使えるようになって少し自信が付いたのかもしれない。昨日までは自虐モードが目立っていたカミラちゃんが、目をキラキラと輝かせている。


 今のカミラちゃんは魔法を発動させる感覚を掴んでいるし、魔力制御も行えるようになっている。ここはこの感覚を失わない内に色々試してみるのもいいかもしれない。


「分かった、それじゃやってみようか。とりあえず上の草原までは乗せていくよ」


 私がそう言うと、カミラちゃんはコクリと頷いて、素直に私におぶられる。ミスってこの渓谷に落ちてしまったら危ないので、私は渓谷から遠く離れた草原のど真ん中に降り立った。


「ここなら安全そうだね。それじゃあ浮遊魔法の授業を始めるよ」


 それから私はカミラちゃんに浮遊魔法の仕組みを事細かく説明した。イメージを掴みやすくするために、時には自分で飛んで見せ、時には適当な物を浮かせて見せる。


 やはり今日のカミラちゃんは冴えているようで、それから一時間程練習しただけでアッサリと浮遊魔法を習得してしまった。


 正直、今の改良型浮遊魔法は私でもまともに使えるようになるにはかなりの時間をかけた。いくらお手本を見せてあげたとはいえ、こんなに早く習得できるのは異常と言っていい程のことだった。


 この娘、一度コツを掴むと成長速度が指数関数的に増えていくっぽい。実は魔法の天才なのかもしれないね。


「アリス姉さん、私空飛んでます! 飛んでますよ!」


「あー、うん。本当、こんなに早く飛べるようになるとは思ってなかったよ」


 こうなったら、いっそのこと今日は魔法練習に一日費やすべきかもしれない。丸一日移動できないのは確かにロスになるけど、将来的なことを考えると損はしないと思う。


 そう決めた私は、降りてきたばかりのカミラちゃんの両肩をガシッと掴んでニヤリと笑った。


「決めた。今日はここで朝から晩まで魔法の練習をしよう! カミラちゃんの適正属性の魔法、その全てを叩き込んであげる!」


 私がそう宣言すると、カミラちゃんは雷に打たれたようにピシッと身体を硬直させ、その後アワアワと慌て始めた。


「ぜ、ぜぜぜ全部ですかぁ!? しかも朝から晩までなんて魔力が保たないですよ!?」


「大丈夫、今日のカミラちゃんは冴えてるから! 浮遊魔法もこんなに簡単に出来ちゃったんだもん。なんとかなるって!」


 私が豪快に笑いながらカミラちゃんの背中をバシバシと叩くと、「調子に乗ってすみませんでしたぁ……」とか言いながら涙目になってしまった。


でも残念、私は心を鬼にしてでもカミラちゃんに魔法を叩き込むと決めてしまったんだ。こうなった私の心は、てこでも動かない。


「それじゃあコツを掴んでいる火属性魔法から始めようか!」


「だ、誰か助けてくださいぃ〜っ!」


 残念、ここには私とカミラちゃん以外誰もいない。つまり、全ての決定権は私にあり、止める人は誰もいないのである。


 こうして始まった私の超スパルタ魔法講座は、夕方になってカミラちゃんが魔力切れでぶっ倒れるまでノンストップで続けられたのだった。

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