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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第三章 紫の夜編
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第二話 アリスの魔法講座

 私はカミラちゃんに、物が燃える原理について説明をした。


 物を燃やすには燃焼の三要素と呼ばれるものが絶対に必要になる。


 その三要素とは可燃性物質、酸素、発火点以上の温度を指す。これらが一つでも欠けると、物を燃やすことはできない。


 例えば木を燃やすことを考えると、まず木は可燃性物質なので条件一つクリア。そして酸素は空気中に沢山あるので、これもクリア。そして最後の発火点だけど、乾燥した木の場合だと大体400から470度くらいだったかな。


 実際には一定の温度で木が熱分解して可燃性ガスになってそれに引火してとかあるけど、魔法を発動させるのにそのイメージは全く必要ないので特に言わないでおく。


 この燃焼反応の原理を魔法発動のイメージに置き換えていく。まずは魔力を天然ガスみたいな可燃性物質に置き換えるイメージをすることで、一つ目の条件をクリアさせる。そこに酸素を大量に送り込んでから高温の火花を散らす、そんなイメージをすることで火属性魔法は簡単に発動させることができるのだ。


 そしてその可燃性物質の種類や形、規模などを変化させることで魔法の種類を変えることができる。威力、というより熱量は加える酸素の量で調節する。


 と、ここまで説明したところでカミラちゃんの頭の上には沢山の?マークが浮かんでいた。


 ……これは私の説明が悪かったと言わざるをえない。まず酸素って言っても絶対に通じないし、高温の火花とか言ってもどんなものかイメージできないだろう。


 可燃性物質って言っても、天然ガスみたいな可燃性ガスの存在を知っている私なら様々な形に変換するのは簡単だけど、木とか服とか形のしっかりしたものしか燃えやすい物を知らないカミラちゃんにとって、形を変えるってイメージは難しいかもしれない。


 さて、どう説明したものか。


「よし、それじゃあ今から薪に火をつけるからよーく見ててね」


 とりあえず、イメージを掴むには見てみるのが一番だと思い、私は実際に火起こしをすることにした。


 まずは火口を作る。事前にマジックバッグに入れておいた薪を取り出し、その内の一つを手に取る。そして土魔法で作った鉈である程度細くなるまで割った後、今度はナイフを作って薪の側面を薄く20cmくらい削っていく。


 一つの薪をこうやって何度も削って、薪の先端に羽毛のようにクルクルとした薄い木の繊維を集めていく。削り終わると、薪は彼岸花のような形に変貌した。これはフェザースティックって言って、着火剤の代わりになるんだよね。


 それから、今度は土魔法で火打ち石と打ち金を作って手に取った。


「火を起こそうと思った時に重要なのは、火がつきやすい火口を用意すること。例えばこの火打ち石を使って、直接薪に火をつけようとすると」


 私はそう言いながら、マジックバッグから新たに取り出した太い薪の上で火打ち石に打ち金を何度も打ちつける。しかし当然、こんな太い薪に火がつくわけがなく、火種はあっさりと鎮火してしまう。


「こんな感じで、全く火がつかない。これは細い薪でも同じこと。火打ち石で作ったような僅かな火種だと、大きなものは燃やせないんだよ」


 私は更に細めの薪にも火種を落としていくけど、やっぱり火がつくことはなかった。カミラちゃんはその様子を見て、驚いたように目を見開いている。


「そうだったんですね。私てっきり、薪なら簡単に火がつくと思ってました」


「私も昔はそう思ってたんだけど、違ったみたい。だから火起こしって結構大変なんだよね」


 次に私は、さっき作った彼岸花もどきを手に取った。カミラちゃんは私がフェザースティックを作っているのを見ていた時はただ薪で遊んでいたのだと思っていたようで、「あ、それ道具だったんですね」とか言っている。失礼な。


「これは細い薪を更に細く、薄くすることで火がつきやすくしたものなんだよ。基本的に薄くて細いものの方が空気と触れる面積が大きくなる分、簡単に火がつくからね」


 私は更にマジックバッグから麻紐を取り出してそれをほぐしていく。ほぐし終わったら毛玉のような形にして、フェザースティックの上に置いた。


「だからこういう毛玉が一番火がつきやすい。でも、一瞬で燃え尽きちゃうから段々と燃やす薪の太さを太くしていくんだよ。太いものほど燃えにくいけど、一回燃やしてしまえば長持ちするからね」


 私は火打ち石に打ち金を何度か打ちつけて、麻紐で作った毛玉に火種を落とした。毛玉から煙が出たのを確認したら、ゆっくりと息を吹きかける。


 すると、毛玉からボッと勢いよく火の手が上がった。火起こし成功だ。


「毛玉の下に削って薄くした薪を置いているから、この火はその薪に移る。でもそれだけだとやっぱりすぐに鎮火しちゃうから、今度は細い薪から順番に乗せていけば……」


 私は言いながら、火の上に薪を星形に並べていく。すると火はゆっくりと乗せた薪の方へと移っていき、やがて安定した。拠点の中を、オレンジ色の優しい光が照らし出した。焚き火って、やっぱり綺麗だなぁ。


「凄いです! 魔法も魔道具も使わないで、こんな簡単に火をつけるなんて!」


 カミラちゃんは、まるで手品を見た子供のように大はしゃぎしている。そういえば、この世界の火起こしは基本的に魔道具を使うから、意外にもこういった原始的な火の起こし方を知らない人も多いみたい。そこは日本と同じかもね。


 そして私はさり気なく、風魔法で拠点内から外に向かって緩やかな風の流れを作り出した。換気しないと一酸化炭素中毒で死んじゃうからね。


「どうだった、カミラちゃん? ちょっとでもイメージの参考になればいいんだけど……」


「とっても参考になりました! ちょっとやってみますね!」


 カミラちゃんはそう言うと、私に飛び付かんばかりに爆上がりしたテンションで魔力操作を始めた。


 カミラちゃんの眼前、つまりは私の目の前に濃密な魔力の塊が出来上がっていく。それはもう、お母さんが『紫炎』とかいうチート級に強力な超級魔法を使って見せた時のような、とてつもない密度の魔力塊が。


「えっ、ちょっ!? それはやりすぎっ!?」


「あとは火打ち石で火をつける感じで……、えいっ!」


 カミラちゃんは私が止める間も無く、可愛らしい掛け声と共に魔法を発動させた。その瞬間、掛け声とは打って変わって全く可愛くない威力の盛大な爆発が拠点内に巻き起こった。


 私は咄嗟に自分とカミラちゃんに『魔法(マジック)障壁(プロテクション)』と『物理障壁(プロテクション)』を付与しつつ、頭を抱えた。そういえば、魔力制御についての授業をするの忘れてたよ。


 怪我は負っていないながらも、その爆発の激しさに驚いたのか、カミラちゃんはカエルのようにひっくり返って気絶していた。手足がピクピクと動いている感じも、カエルそっくりだ。


 パンツも丸見えでそのままにするのは可哀想だったので、私はカミラちゃんをマジックバッグから取り出した寝袋の上に寝かせてあげた。


 こうしてカミラちゃんは、初めての魔法を発動させることに成功したのだった。

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