サンドラとアル
少女が目を覚ますと、見知らぬ場所だった。
壁際のベッドに寝かされていたらしい…
よく見ると、体中に包帯が巻いてある。
…そうだ、あのコーネリアスとか言う魔族…ところでここはどこだ…?
突然、ガチャリとドアが開いた。人間の男が入ってくる。
「あ、良かった、目が覚めたのですね?いやぁ、本当に良かった」
目覚めた少女に気付くと、男は安心した表情で話す。
「あなたを見つけて、ここまで運びました。ここは、私の自宅です。申し遅れました、私は、アルフレッド・ハーマン、アルとお呼び下さい」
アルまだ20代になったばかりだ。その目は親しみやすく、おおらかにみえる。優しく微笑みながら、少女を見つめている。
「あなたの名前を教えてくれますか?」
アルは優しく問いかける。
「我は、サンドラじゃ。お主が我をここに?」
「わ、我?…おぬしって、あははっ」
耳慣れない言葉使いがおかしかったのか、アルは笑う。
サンドラと名乗った少女は、恥ずかしいのを隠すように、少し怒った口調で話す。
「お主、無礼であろう!我はずっとこの話し方じゃ、文句あるのか?」
アルは、はっとした表情を浮かべ、申し訳無さそうに答える。
「ごめんなさい、サンドラさん。もしかして、貴族の方でしたか?」
サンドラは困ったように答える。
「いや、そういう訳では無いが…何と伝えて良いものか…」
サンドラが高貴な身分と判断したのか、アルの口調が、急によそよそしくなった。
「確かに、お召し物も、ここら辺では見かけませんね。他国からいらっしゃったのですか?」
「うむ、まあ、その様なものじゃ」
「なるほど、それで納得しました。…それより、具合はいかがでしょう?」
「うむ、もう大丈夫のようじゃ、お主の行に感謝致す」
「ですが、それはもう、大変なお怪我でした。本当に大丈夫ですか?」
「うむ、問題ないようじゃ。所で、今日は何日かのう?」
「今日は12月25日です」
「何と、我は3日も寝込んでおったのか?不覚じゃ…フゥっ」
サンドラは溜息をつきながら話した。
アルは、安心した表情を浮かべて話す。
「本当に、驚きました。狩に出かけようと、近くの林の中を通ったら、魔物の死体とあなたを見つけました。最近この辺りにも、魔物がよく現れます。襲われたのですか?慌てて自宅で、手当てをしたのですが、不思議ですね…もうほとんど傷も治りかけているように見えます」
自慢するように、サンドラが答える。
「ああ、我がやったのじゃ。我はこう見えて強いぞ、偶々あの夜は、不覚をとったがな…あの魔族めが…」
「は、はあ…」
何を言ったのかわからない表情でアルは曖昧に返事をした。
思い出したように続ける。
「あ、後お召しになっていた服は、ボロボロでしたので…」
「な、何と…お主が脱がしたと申すか?」
サンドラの頬が少し赤くなる。
「は、はい…ですが、仕方無かったのです」
「ふん、怒っている訳ではない。まあ、手当を施してもらい感謝している」
恥じらいを隠すように、横を向いてサンドラが答えた。
「あ、後…これを」
そう言って、アルがサンドラに金色の石を見せた。魔石だった。思い出したようにサンドラが言う。
「お主、これを拾ってくれたのか、大抵の者は自分の物にしてしまうであろう?お主は中々正直者よのう。気に入った。少々待っておれ、もう魔力も回復しておろう」
サンドラは魔石に手を翳し、見つめる。瞳が金色に輝きだした。
アルは呆然とその様子を眺めていた。魔石は一瞬輝くとネックレスに変化する。アルは目を大きく開いたまま、言葉にならない言葉を発する。
「あ、あう…いったい….な、何が…?」
「これをお主に授ける。もし、困った時には我を頼るが良い。何でも望みを叶えようぞ」
サンドラが微笑みながら言った。とても美しい笑顔だった。アルはその表情に少し見惚れてしまい、焦ったように目を晒す。
「うん、どうしたのじゃ?」
その表情を見て、怪訝そうにサンドラが聞いた。
「い、いえ、なんでもありません…あなた様はいったい…」
「うむ、我は…そうじゃ、我が倒れていた場所に連れて行ってくれぬか?」
「はい、構いませんが、お身体は大丈夫ですか?」
「もう、問題ないと言っておろうが、アルよ、お主は心配性じゃのう」
言われるままに、アルはサンドラを見つけた場所に連れて行った。サンドラは、アルの用意してくれた服に着替えていた。
林の中だった。魔物の死体はまだ転がっていた。少し匂いもしていた。
「我がやったこと故、このままでは、良くないようじゃのう」
そう言って辺りの魔物の死体に向け、サンドラが手を翳す。再び瞳が金色に輝いた。
すると、今まであった死体が跡形もなく消えてしまった。
「えーっ、えーと…これは、いったい…」
「ふむ、これから結界を張る」
サンドラはそう言って、何処からか魔石を取り出した。中で一番大きな木の根元に魔石を置く。すると何やら唱え始めた。
…荒ぶる大地の脈動よ、我が名によって、その高ぶりを鎮めよ。我が名はサンドラ、竜の王なり…
サンドラの瞳が一段と輝いた。辺りに不思議な気配が漂う。すると魔石が金色に輝き、木の根元に吸い込まれて行った。
サンドラはアルに伝える。
「アルよ、これでこの地に魔物は来なくなろう。色々世話になったな。その首輪を失くすでないぞ!」
突然、サンドラの姿が変化して行く。可憐な少女とは、かけ離れた存在に。その姿は恐ろしいが、それ以上に神々しかった。サンドラは金色に輝くドラゴンの姿に変わる。
「………」
アルは、何が起きているのか理解出来なかった。ただ呆然とドラゴンを見つめている。ドラゴンはこちらをちらりと見下ろし、巨大な翼を羽ばたかせ飛んで行った。アルはしばらく飛んで行くドラゴンを見上げていた。見えなくなると、手に持ったネックレスを、じっと見つめ続けていた…




