08『詳細不明のイベント情報』
「イベント? このゲームの仕様でイベントとか出来るの?」
「運営が言ってるし出来るんだろう、多分」
ギルドに報告が終わり、部屋に戻ってグレイス達の説得と【魔雪の槍】の量産をしにマイルームに戻ろうと思っていたら、イアン達と再会、そのまま情報交換と言う名の雑談を始める事になった。互いに開示しあった情報でもっとも気になったのが、公式のイベント情報だ。
「ある人が公式に上げられていた情報を見付けて掲示板に上げました。おかげで掲示板は今お祭り状態ですよ」
「へぇ~、それで肝心のイベントの内容は?」
「不明、だ」
「不明? なんで? イベントの告知なんだろう?」
「え~とッスね、アップされた情報は次の日曜からイベントが始まるって言う告知と1本の動画だけッス、動画内容から予測出来るか? と思って見たッスけど、分かったのは将来的にアップデートされる仕様の先行実施と注意事項とお得情報で、1番知りたいイベント内容はシークレットのままッス、ちなみにアップデートの内容も不明ッス」
つまり、本当にイベントをすることだけ告知したわけね、なんともまあ中途半端な。とりあえず開示された分かってる情報だけでも、聞いておくか。
「それで、今分かってる情報の中身は?」
「まずはさっきも言ったアップデートの先行実施ッス、ただこれも内容は不明、イベントが始まってからのお楽しみらしいッス。次が注意事項、イベントは特殊エリアで行われるそうで、アイテムに持ち込みが規制されるそうッス、具体的にはイベントエリアに入る直前の装備と、前日にメールで配布される『イベント専用インベントリ』に入れた10種類100個まで、それ以外はダメッス、あとこれに伴ってアイテムボックスは使用禁止になるらしいッス」
なるほど、イベント専用エリアを作る事でNPC達に迷惑が無いようにしたわけだ。イベントの内容はさっぱりだけど、どんなイベントでもノルンが巻き込まれる可能性はあるしね。それよりも、
「アイテムボックス使用禁止? なんだってそんな事を」
「掲示板の皆さんは、今のアイテムボックスに収まらない程のアイテムを集めるイベントか、単純にイベントで手に入れたアイテムを外に持ち出せない様にする為じゃないか、って予想してましたよ」
え~と、確か今のアイテムボックスの容量は50個、ポーションがまとめて入っていた筈だから多分50種類、限界まで入れたことがないから何個までかは知らないけど、掲示板の予想が正しければ50種類を越えるアイテムを集める可能性がある、と。
「収集系イベントって事か?」
「掲示板ではそれが多数派ですね、次に多いのが討伐系、素材が沢山集まるから」
「アイテムボックスが溢れるって事だな」
「はい、そのとおりです」
「なら持ち込むアイテムが問題だな、収集系なら状態異常回復系、討伐ならLP、MP回復ポーションを中心に」
「討伐が回復ポーションなのは分かりますけど、状態異常回復ですか?」
「ああ、昨日の依頼で痺れ草と眠り草って厄介な草の葉っぱを集めてな、運が悪いとミイラ取りがミイラになるってタイプの品物だったんだよ、だから、状態異常回復系を中心に揃えとこうかなって」
まぁ、実際にそんな厄介な物を集めるイベントなんて無いだろうから、一応の保険のつもりではあるけどね。
「なるほど、いままで俺は状態異常にかかった事はないが、状態異常をかけて来る相手も居るかもしれん、対策は必要だな」
「いままで手堅くやってきましたからね」
「ピンチなんて馬車での移動くらいだしな」
「へぇ~、そうなんだ、そのわりには戦い慣れてた気がするけど、ほら、王都に向かう途中の異人達の襲撃の時とか」
「パーティーが揃わない時は居るメンバー同士で模擬戦とか、訓練所でスキルのレベル上げとかやってたんで、ある程度なら対人戦も出来ますよ、考案したのはジロウです」
ガブがそう言いながらジロウを見る、ジロウはそれに頷きで返し理由を述べた。
「CWOは100年以上も前の人々が夢見続けていたVRMMOだ、それはサルベージされた遺産からも明白な事実として存在している。当然その中にはゲームの危険性を示す物も存在する、その1つがプレイヤーキラー、通称PKだ。実際ゲームの中なら、と言う輩は必ず存在する、それは間違いない事だと俺は思っている。今はまだ始まって一月も経っていないから表に出す奴は少ないだろうが、いずれ必ずその時は来る。その時にゲームの仕様に縛られ一方的にやられました、なんてのは俺は気に入らない、ならば、今から少人数でも良いから対人戦を学んでおこう、それが少しずつ確実にプレイヤーに伝わっていけば将来的にPKによる被害者を少なく出来る、と俺は思い皆に提案し今に至る」
「と、言うわけです」
「そ、そうか、色々考えているんだな」
なんて言えばいいのか咄嗟には思い付かず、適当な返事になってしまった。色々考えすぎな気もするけど、将来の為と考えれば、まぁ、分からなくもない。既に1回襲われたしね、対人戦も考えておくべきってのは分かるから、今はそれでいいや。
「そろそろ話をイベントに戻しても良いッスかね」
「おっとそうだな、え~と、アイテムボックスが使えないって所だったか?」
「正確にはその理由を予測して何を持って行こうか、って所までですね」
「あぁ~、そうだったな、それで、他に事前に考えないといけない事はあるのか?」
「色々あるッスけど、ジンに関係しそうなのは召喚獣、契約獣、従魔に制限がかかるって事ッスかね」
「……それ、詳しく」
「まず、契約獣は連れていけないッス。召喚獣と従魔はどちらか1体だけ、召喚獣はイベントエリアで最初に召喚した最初の1体か、従魔と同じようにイベントエリアに最初に連れていった1体だけッス」
「マジか?」
「マジッス」
連れていけるのは1体だけ、か。
グレイスとシロツキはまだ、無理だし、ゴウカとケンランは一緒の方が強いから片方だけってのはちょっと、な、とするとストレインとスクエールの2択か、どちらも鳥類だから回避は出来るけど、まだ攻撃は難がある。う~ん、強いて言えばスクエールかな? ストレインは小さい分攻撃力が無いからちょっと不安だしな。
「え~と連れていけるのは1体だけッスけど、イベントエリア内で増やす事も出来るらしいッスから、もっとお手軽に考えても良いと思うッスよ」
「そうなのか? でもイベントにどんなのがいるか分からないからな。そもそもテイム出来るかも分からんし」
「それならきっと大丈夫ですよ、ねっ! クロウ」
「はいッス! このイベントではプレイヤーのステータスが上がりやすくなる効果が発生し、その延長でテイムもしやすくなるそうッス」
「お~、それはありがたいな」
と、なれば、防御が得意そうな奴を見つけて試行錯誤だな。何か良いのがいれば、だけど。
「ところでジンさん、あっちは放っておいて良いんですか?」
「ん? あぁ、大丈夫だ、時間的にそろそろだから」
アンク君が気にしているのはレキ、キキ、シャロンに絡まれているセツナの事だ。連れていかれて30分、そろそろ【氷体】の効果が現れる筈だから、その内戻って来るんだろう。
「使い魔か、クラスアップはその内出来るが、問題は仮面か、これはダンジョンで見付かるんだな?」
「あぁ、そう聞いた、あとはオークションとか言ってたけど」
「オークションは無理ッス、あれは一定の実力か権力を持ってないといつ、どこで、何が出されるか完全秘匿されてて今のオイラ達じゃ手が出せないッス」
「う~ん、実力と権力か、具体的にはどれくらいだ? クロウ」
イアンが腕を組み、唸りながらクロウに聞く。それにクロウは腰に提げた袋から手帳と思われる小さな本を取りだし読み出した。
「ちょっと待ってくださいッス、え~と、あった。個人の実力なら冒険者ランクC以上ッスね、権力だと貴族相当の発言力ってなってるッス」
「はぁ~、俺達にはまだ無理だな、地道に依頼やって上げていくが正解か?」
「そうッスね」
その意見に皆が頷き話が一段落した時、ふと、隣に違和感を感じ振り向くとそこには若干くたびれたセツナとレキ達が立っていた。
「ご苦労様、何か欲しい物はある」
「だいじょうぶ、です」
「私は何か温かい物が欲しい!!」
「出来たら私も、手が冷たくて仕方ないです」
「だから言ったじゃないか、あんまり構いすぎるのは良くないって」
どうやらシャロンは無事のようだ。レキとキキは【氷体】の効果に引っ掛かったみたいだけど。そんな2人を見てガブが何か注文している。彼はなかなか気が回るな。さて、2人の状態を確認しないと。
「凍傷になったのか?」
「ううん、そこまでなってないよ」
「ただただ手が冷たいんです」
ん? 俺の時とは違うな。何か条件が違ったのか? これも検証しないとな。
「ちなみに状態異常的には?」
「特に何もないですね」
「うん! なんにもなってないよ」
状態異常じゃない? う~ん、どういう事だ?
「あるじさま、けっかいです」
「けっかい?」
「けっかいがわたしのちからをおさえています」
「あ~、そう言う事ね」
マイルームには結界が無いから状態異常が発生し、街中は結界があるから状態異常までならないって事か。従魔の皆が小さくなるように、使い魔のセツナはスキルの効果が弱まるって事だな。
そんな事を考えている間にガブが注文したであろう湯気が立ち上るスープが運ばれてきていた。ただ、レキとキキはスープの器を持って手を暖めていて飲む気配はないけど。
おっと、今はそれよりイベントだ。何を持って行こうかな?
次の更新は21日です
お楽しみに