18『山歩き』
「ねえ~、まだ乗っちゃダメ~?」
「駄目だ、せめて坂が緩やかになるまで待て」
食事休憩を終えた俺達は、馬車内でログアウト出来ることを確認した。更に、先にログインしたユキムラ君の話だと、ログアウト中の異人は眠っているだけに見える事も確認できた。
これで、全員がログインしていなくても馬車を動かせる可能性も出てきた、身体の安全さえ確保していれば良いからな。
今は分かれ道を北に進み山道に入ったところだ。山道と言っても何度も人や馬車が往来したのだろう、道はしっかり固まっており、道の両側には木がまばらに生えている。
つまり、今までの道と大きくは変わらない。
ただ、最初から急な坂になっており、ガガとココのスタミナ消費も考えて、荷物だけを馬車に残し全員で山を登ってる最中だ。俺は馬の手綱を持ちながらガガ達の隣を、従魔達は正面の警戒、他の皆は馬車の後方と左右に分かれて警戒中だ。
既に登りだして40分、襲撃もなく平和そのもの、あまりに変わらない状態に文句も出てくる、真っ先にそれを言い出したのはレキだった。
「え~、もっと馬車でガンガン行こうよ~」
「馬車は馬が居ないと動かないんだから馬最優先、人は後回しだ、リアルと違ってスタミナが見えるんだからまだマシだろう?」
「山なんてわざわざ登ったりしないよ~、ロープウェイ8分でお手軽に行けるんじゃん、それで良いじゃん」
「ここにロープウェイなんてないから諦めろ」
「だから馬車でもっと簡単に……」
「引っ張る重さに比例してスタミナ消費は上がるんだ、この坂の終わりも分からないのにそんな無茶ができるか!?」
「ブーブー!」
「子供か!」
「子供でいいですよ~、だ」
「レキちゃん、別に疲れる訳じゃないんだから、そんな事言ったダメだよ」
そう、山を登るとは言うが、俺達の体が実際に疲れる訳じゃない。
スタミナが微量ながらに減っていく程度の話だ。
これで戦闘になれば色々不便な所も出てくるだろうが、歩いているだけならそれほど問題ではない。
では何故レキが文句を言ってるのか? それは『飽き』だ。
いつまでも変わらない景色に飽きたのだ。
一応、キキが「ほら、綺麗だよ」なんて北側の山脈に指を指しても、「ただの山と森じゃん」と興味を示さない。
他の皆もそれぞれに話を始める始末、おい、警戒はどうした?
そして、
「あっ、皆さん坂が終わりますよ」
とネリネさんが告げる。
どうやら坂の終わりをスキルで見たようだ、そして、その言葉を待ってたかのように駆け出す影が1つ、いや2つ。
「よーし! 一番乗りー!」
「いいえ! 私が先よ!」
一気に坂を登りきるレキと、それを追い越そうと走るビウムさん。
2人の姿が坂の向こうに消えた、と思ったら勢いよく戻ってきた。
一体どうした?
「やっばーい! 鳥がいっぱい来る!」
「ネリネ! 出番よ! 早く射って!」
何をやってんだあの2人は!?
「全員、戦闘準備!」
イアンがそう叫ぶと同時に坂の向こうから沢山の鳥が現れた、識別すると、
【ストーンスワロー】対応rank:E
『山に巣作りをする燕、渡り鳥の一種
夏が近付くと現れ、崖や山の急勾配に巣を作る』
そうか燕か、えらく色とりどりだけど石だからか? しかしこの数は一体?
坂の上からこちらに向かってくる数は10や20じゃないぞ、群れで動くのか?
とりあえずは、
「グレイス! 吠えろ」
「ウォン!!」
グレイスが吠えると一部の燕が動きを変え上に昇っていく。
どうやら、びびって逃げ出したようだ、しかし、逃げたと思われるのは2割ほど、まだまだ数は残ってる。
そこに矢が数本飛んでいき、胴体を射抜いた。
更にいくつかの魔法が飛んでいった。ただ、こちらは当たらなかった。
「あ~、外した~」
「早くて魔法は当たらないね、こりゃ弓持ちに頑張って貰わないと」
「分かっています、次射ちます。【ダブルショット】!」
「私も続きます」
ガブとネリネさんの2人は、外す事の方が多いし燕の体が硬いのか弾かれる物も多いが、それでも燕を撃ち落としていく、しかし、あまりにも数が多い。
これでは、矢の方が先に尽きるだろう、なんとかしないと。
でも、俺の従魔で空中戦が出来るのはゴウカとケンランだけだ、しかし、打たれ弱い上に燕達の速さにはついていけるとは思えない。
とりあえず、近づいて来た燕を鞭と剣で迎撃しようとするが、燕達の動きは速くて当たらない。
更に当たったとしても硬くてダメージが入らない、厄介過ぎるぞストーンスワロー。
そうこうしていると燕達は突如動きを変え、上空に集まり始めた。
俺はその動きに見覚えがあった、森で共闘する形になったフライカープが魔法を放つ動きに似ていた。
「皆! 防御態勢! 何か来るぞ!?」
「ゴウカ! ケンラン! 魔法準備、迎撃してくれ!」
イアンの指示で、俺と従魔達以外は馬車の影に隠れた。
残念な事に俺達には盾持ちが居ないのだ、だけど俺がここを動く訳には行かない。
ガガとココを守らねば、馬車が意味を無くしてしまう。
ちなみに馬車は、ギルドマスター仕様だけあって非常に丈夫、俺達が守る必要が無いくらいに。
休憩中に作った盾と、耐久値を回復させた盾をガガ達と燕達の間に固定、後はゴウカとケンランがどこまで相手の攻撃を潰せるかだ。
ゴウカ達は互いを追いかけるようにぐるぐる回りながら魔法陣を展開していく。
4色の2重の魔法陣ーー赤と青が2つと黄色と緑が1つーーそれがゴウカ達の描く円の周りに並んでいる。
どうやらMPを常に回復することで、大量の魔法陣の発動を可能にしているようだ。
これでバグじゃないって、この先戦う魔物はどんな能力を持ってるのか、不安になってくるな。
おっと、そんな事を考えてる場合じゃないな、燕達が激しく羽ばたき出してるし。
でも魔法陣は出ていない、だったら何をしてくるんだ?
「ぴょぉぉぉぉぉ!」
燕の一匹が鳴くと、一斉に何かが飛んできた。
と同時にゴウカ達も魔法を放つ、形状から各属性のボール魔法だと思われる。
空中でぶつかると、魔法は飛んできた何かとぶつかって消える、しかし数が違い過ぎた。
飛んできた何かは俺達の前に勢いよくぶつかり土煙を出し、土煙はこちらに向かって広がり視界が土色に染まった。
「しまった、これじゃ燕の動きが、何!?」
視界を奪われとりあえずの防御態勢をとっていると、土煙を突っ切って燕達が突っ込んできた。
燕達は、こちらに体をぶつけながら俺達の背後へと通り抜けて行く。
暫くしたら正面から燕の突撃が止んだ、燕が通った後は土煙が晴れていた、その向こうに燕の姿は、ない。
それを確認してから慌てて振り返り、燕を探すが既に姿はなかった。
「皆無事か!? 燕は!?」
「俺達の方は問題ない、アンクに多少ダメージが入った程度だ」
「こっちは全員無事! ノーダメージよ!」
「燕の姿はありません、ネリネさんの方は?」
「こちらでも確認出来ません、一体何処に消えてしまったのか」
燕達は姿を消し、こちらの被害は軽微、強いて言うなら結構な量の矢を失った事だろう。
とにかくここを離れなくては、再度の攻撃が無いとは限らない。
「分かった、それじゃあ警戒を続けて、特に上に注意を!」
「おう! 任せろ、って言っても見つける位しか出来ないけどな」
「それじゃこっちはネリネに任せるわ!」
「お任せを、見付け次第射抜きますわ」
「じゃあこっちは俺ですね、あっ、すみませんが落ちてる矢は回収してください、壊れてない限りまた使いますので」
「了解だ、シロツキも頼むな」
「キュ!」
シロツキと共に落ちている矢を回収しながら坂を進んでいると、先程まで道に無かった物を見つけた。
それは、
「これは、羽? 何でこんなものが道に刺さって、……さっき飛ばしてきたのはこれか!?」
触った感じは道端にたまに落ちている羽とそう変わらない、ただ、硬い、正に石の様だ。
しかし触っている内に少しずつ柔らかくなってきた、これは?
……今の俺には分からない、今わかっているのは、ストーンスワローは羽毛部分が石のように硬く、更にそれを飛ばす事で攻撃する魔物ってこと位だ。
「とりあえず、危ないから回収しよう」
時間が経てばただの羽、でもまだ大半は石の羽、小さな石でも怪我をすることはある、さっさと退かそう。
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羽を回収しながら進み、ようやく長い坂を越えた。
目の前にゴールが見えているのに、そこに辿り着けないのは中々の苦痛だった。
そして坂を越えた先に見えたのは、
「うわ~、……マジか?」
「これは、……すごいな」
坂を越えた先には先程までとは違う、なだらかな道が続いていた。
道の左側は先程以上に傾斜のキツい下り坂になっている、踏み外したらまばらに生えている木を伝って戻るしかないだろう。
もちろん、それが出来るステータスがあればだけど。
道の右側は同じく傾斜がキツい坂で、こちらは上り坂になっている。
そして、上り坂に生える木の更に上、そこには巨大な木の姿が見えた。
それも山から伸びている訳ではない、間違いなく山の下、地面から伸びている。
つまり、
「あれが、巨虫の森の……木?」
「大きすぎるでしょ!」
「あれなら~、虫も大きくなる気がしますね~」
「この山の標高が分かりませんけど、あれは明らかに異常では?」
「そんな事言ってたら、ゲームにならないでしょ?」
「ねぇ、もう馬車乗って良い? これなら大丈夫だよね?」
「あ、ああ、それじゃ皆乗り込んでくれ、警戒は解かないようにな」
皆が返事をしながら馬車に乗り込んでいく。
俺はガガとココの様子を確認し、問題は無さそうだったので直ぐに御者台に移動。
グレイス達従魔とイアン達が乗り込んだのを確認してガガ達に命じて馬車を進ませる。
さて、次は何が来るかな?




