12『荷物』
顔合わせは大きな問題もなく終わった、まあ、相変わらずビウムさんが騒いだが、イアン達の対応を見る限り気にしなくてもよさそうだ。そんな俺達を見ていた酒場の主人が『ここで迷惑ごとを起こさんでくれ、奥に部屋がある、時間までそこに潜んでな』と鍵をくれたので今は部屋で時間までのんびりしてるところだ。このような部屋を『プライベートルーム』と呼んでいるそうだ。宿屋なんかの部屋もこれに当たるらしい。
さて、ここで改めてイアン達5人について手短に説明する。
イアンは【戦士】 最初に会った時は大剣を装備していたが、今は大斧を装備している。防具も初心者装備だったのが金属系の軽装に変わっている。髪型はベリーショート、色は茶色。
ジロウは【剣士】 直剣が曲剣に変わり、防具はイアン同様金属系だが、それよりも更に軽そうだ。しかし、何故か右腕の小手だけが大きい。本人なりのファッションかな? 黒髪で男性としては少々長めでボサボサ、イメージは侍? それとも武士? 違いはよく分からないけど、まあ、そんな感じ。
クロウは【盗賊】 装備は2本のナイフ、見た目では分からないが、二人同様新調はしているだろう。防具は革系、これまた軽装。皆スピードを重視する傾向にあるようだ。頭はバンダナを巻いていて、はみ出した髪から色は金、と言うより黄色かな。
レキは【魔女】 武器は杖、形状は歪に曲がっていて、青い石が先端についている。服装は紺色のミニスカローブ、膝まであるブーツを履いて、先の曲がった三角帽子を被ってる、髪は肩にかかる位で、色は黒。
キキは【修道女】 同じく杖を装備しているが、こっちの形状は真っ直ぐだ、先端の石は白。体を足まで隠す真っ白いローブを着ている。金髪で肩より長めのロングヘアー。
以上が彼らの現在の姿だ。そこにガブ、アンク、シャロンを加えた8人パーティー(名前はまだない)が今回の旅の最大戦力になる、筈だ。
俺が知ってるのは初日の彼ら5人だけだが、パーティーのバランスは悪く無いし、装備の新調も出来てるみたいだし、問題はないだろう。
「ところでイアン」
「どうかしたかジン?」
「あのデカイ袋は、イアン達の荷物か?」
俺はイアンに話を聞きながらガブとアンク君の間にある3つの大きな袋に指を指す、
イアンは俺の問に不思議そうに答える。
「そうだけど、何か気なったか?」
「……なんだか、多くね?」
「こんなもんだろう」
「そうか、こんなもんなのか」
「これでもかなり少ない方だぞ、俺達プレイヤーは食料を必要としないからな。そりゃジンにはアイテムボックスとそのポーチがあるから大荷物なんて持つ必要は無いだろうが、俺達はアンクしか持ってないのにアンクが嫌がってな」
「理由は?」
「管理するのが大変そう、いざというとき皆が自由に使えた方がいい、自分がいない時どうするんですかってな」
「まあ確かに、ポーチ持ってる人がいなくなったら大変だよな」
「だから、ああやって袋にまとめてるんだよ、素材だけはアンクに預かって貰うことになってるから、代わりの武器や回復アイテムなんかは、あの中だ」
「あ~、かさむもんな、素材」
「そうなんだよ、素材を沢山手に入れるのは良いんだが、増えると正にお荷物になるんだよな。アンクを仲間に出来たのは本当にラッキーだったよ」
「リーダー、ジンさん」
嬉しそうに笑うイアンと談笑していたら、部屋の扉を開けてキキが飛び込んで来た。何事だ?
「どうした?」
「何かあったか?」
「その、ジンさんに話があるって人達が来てるんですけど」
「しつこいな、そう言う奴等は主人に頼んで面会謝絶にしてもらっただろ? なんでこっちに話が来るんだ?」
「それが、昨日のあの人達が来てて『俺達は知り合いだ、通せ』って」
「アイツらか、ジンは知ってるのか?」
「いや、知らないな、俺の知り合いの異人はこの部屋に皆いるぞ」
「それはそれで問題な気がするが」
「その昨日の人達ってのは、昨日話してた自称攻略組って奴等か?」
「はい、早く会わせろって人の話を聞かないそうです」
「は~、面倒なのが来たな」
実は、俺達がここに移動してすぐ、酒場の主人に俺に話があると言って何組かの冒険者からの打診があった。
こちらとしてもギリギリまで人数を揃えたい、やっぱり人が多い方が安全に行動できるからだ、数は力と言うしね。普通のゲームなら誰しもそうするだろうし、俺も実際そうしただろう。
しかし、このゲームにおいてそれは出来ない、何故なら、【CWO】は画面の向こうで動くキャラを操作するのではなく、自分の体を自分で動かし、自分の言葉で話すからだ。
その結果発生するのは、リアルと同じ人間関係の構築だ。誰だって嫌いな相手と一緒に行動するのは嫌に決まっている、話したくない人や会いたくない奴はだって出てくるだろう。そう言う相手と関わらない為には単独で動くのが一番良い。気の合う友人がいるなら一緒に行動するのも良いだろう。
だが、残念な事に俺の知り合いで、ある程度の信頼を持っている異人は彼らだけだ。流石に、1週間近く一緒に行動するのに仲間も知らない相手を連れていくのは勘弁願いたい。
なので、酒場の主人に頼んで人を通さない様にお願いしたのだが、やはり、面倒な相手はどこにでもいるようだ。
「どうする、会うのか?」
「嫌だよ、顔も知らない相手、それも嘘まで言う相手だぞ、聞くだけで面倒を起こしそうな奴とは知り合いにもなりたくないし」
「だよなぁ」
「主人に無視するよう改めて伝えて立て籠ろう。あと二十分もすれば馬車に乗っておさらばだしな」
「良いのか? それで」
「良いよ、ノルンの皆に迷惑がかからなきゃね、主人には諦めてもらうけど」
「ジンがそう言うなら、そうしよう。キキ伝えてくれ」
「分かりました」
キキが部屋から勢いよく出ていった、別にあそこまで慌てなくても良いのに。それにしても、
「キキっていつもあんな感じ?」
「ああ、何に対しても全力だな。不安になるくらいには」
「あんま無茶させてやるなよ?」
「こっちがその気でも、キキに伝わらん」
「……まあ、頑張れ」
「努力はしてみるさ」
そこからの二十分は平和そのものだ。互いに出来ることを話したり、旅に何を持ってきたのか話したりした。まるで修学旅行前の学生気分だ。
そんなこんなで、あっという間に予定の時間が来た。それぞれが自分達の荷物を持ち、部屋から出ようってところで、
「そうだ、出発する前にユニオンを組んでおこう、出てからだと面倒が増えるかも知れないしな」
「面倒?」
「ああ、ユニオンはパーティーと組み方が一緒で相手に伝えて同意を得るだけなんだが、これが厄介でな」
「それなら聞いたことがあるわ、『パーティー拡散』事件ね」
イアンの提案を聞いているとアヤメさんが会話に加わった。折角なので彼女に話を振ろう。
「パーティー拡散?」
「そう、初日に『誰かパーティーを組んでくれませんか』って叫んだ人が居て、それを聞いたプレイヤー全員にパーティー申請の表示が現れたそうよ、大半は断ったらしいけどね」
「大半って事は」
「受けた人もいたのよ、まあそれでユニオンの事が判明したらしいから、全くの無駄では無かった訳だけど」
「なんでそれでわかったんだ?」
「パーティーの8人が埋まった後に申請を受けた人も申請が通ったのよ、8人目に申請を受けた人が二つ目のパーティーのリーダーになって、それが埋まるとまた次のパーティーが早いもの順に編成される。5つのパーティーが埋まったら、申請を受けても無効になるらしいわ」
「そんなに受けた奴がいたのか!?」
「見知らぬ場所で1人でいるより、誰かと一緒の方が安心だと思ったんでしょ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
「ユニオンの説明はそんなところで良いだろう? それで、誰をユニオンリーダーにする?」
「イアンで良いんじゃない、俺リーダーとかがらじゃないし」
「そうか? そっちはそれで良いか?」
「どっちでも良いわよ! 特に何か変わる訳じゃないしね!!」
「ってビウムは言ってるけど」
「了解だ、それじゃあユニオン頼めるか?」
「もちろん」
返事をしたが、視界のパーティーメンバーの所に変化は見られない。あれっ? 失敗した?
「? 特に変化が起こらないけんだけど」
「皆の頭上を見てみろよ」
そう言われてイアン達の頭上を見る。そこには先程まで無かったLP、MP、SPが重なった見慣れた三色バーが浮いていた。更にリーダーのイアンのバーの上には王冠の形をしたシルエットが浮いている。
「バーが浮いてるな」
「あぁ、ユニオンを組むとメンバー全員のLPなんかを確認出来るようになるんだ。リーダーはそこに王冠がつく、分かりやすいだろう」
「パーティーの所に増えるんじゃないんだな」
「最大40人よ、画面が一杯になってむしろ見にくくなるでしょ」
「それは、確かに」
「納得したか? それじゃ行こうぜ」
「了解」
イアンを先頭に部屋を出て受付のある広場に向かう。俺は従魔達と共に、イアン達とビウムさん達のパーティーの間にを歩く。そのまま酒場まで戻って来ると、道を塞ぐように5人の男が立っていた。そして、中央にいる片手剣と丸い盾をを装備した男が声を上げた。
「遅いぞ!! 俺達を待たせるとはどういうつもりだ!? あぁ!?」
……なんか、チンピラみたいのが現れたな。




