08『生産職パーティー』
「ビウムさん」
「駄目よ。冴えない顔してるし強そうに見えないし、これじゃ装備の宣伝にも使えそうにないじゃない。役不足よ、他の探して来て」
「人の話は聞きなさい」
話を聞いてみると、どうやら装備宣伝用の人材と間違えられたようだ。何故だ? いったいどんな説明をしたら、そんなよく分からない話になったんだ?
ネリネさんが改めて説明をしているが、こぼれ聞こえた会話内容から推測するに元々ネリネさんは装備の宣伝に協力してくれる人を探していたようだ。しかし、周りの人の自分を見る目が気に入らず、牧場に避難した時に俺を見つけたらしい。後は俺に話したら内容とさほど変わらない。つまり、今回の話はネリネさんの気紛れが引き起こした事態のようだ。だが一番の問題は、
「なんでそう言う話になってるの!? それも私だけ聞いてないってどういうこと!?」
ビウム、さん? が一切聞かされていないと言うことだった。そしてその理由は、
「言ったらまた大声で話して面倒な事にしちゃうでしょ」
「ビウムちゃんは小声で話すのが苦手ですからね~、だから『ネリネちゃんが人を連れて来る』ってだけ伝えておいたのです~」
「私はこのパーティーのリーダーなのよ! それなのに」
「では先程の人達の前で話しますか~? 『馬車持ちにお願いして王都に行く』って~、そんなことしたらまたあの人達が騒ぐのは目に見えてるじゃないですか~。だったら~、その人が来るまで黙っておいた方が良いでしょう~?」
「うぅ~それは、そうだけど。納得いかない!」
「理解したなら問題なしよ。それじゃ早速本題に」
「いく前に場所を変えた方が良いでしょう。少々目立ち過ぎています」
周りの人達が騒ぐ彼女達を見ている。と言っても、実際にはビウムさんの声だけが聞こえているはずだ。他の3人が小声で話していると言うのに、彼女だけは大声量で話続けている。まぁ、理由としてはこの4人の容姿が整い過ぎてるのも原因だと思うけど。
出来れば悪目立ちはしたくないんだけどな~。
「どこか、誰にも話の聞かれない場所を知ってる人は?」
「今のところ宿屋位じゃないかな? プライベート空間って」
「でも空いてる宿屋ってまだあるかな~、そろそろログアウトする人が増える時間だよ~」
「だったら工房に戻れば良いでしょ!」
「あそこの部屋は共同スペースよ。他のプレイヤーだって使ってるからダメね」
「とりあえず~、ここから移動しな~い? 視線がつら~い」
一番辛いのは俺だよ。見た目美人と一緒にいるから男性達の視線が怖いんだよ。出来れば長距離の移動も勘弁して欲しい。移動してもこの視線から逃げられる気がしないし、ここで話が終わればそのまま西通りで買い物も出来るんだ。
何か良い方法は? ……思い当たらない。ああ~、もうこのままマイルームに戻ってログアウトでもして、リアルに逃げ込んでしまおう、か? あっ、あるじゃん! 誰にも話の聞かれない場所! あれ? でも他の人って入れるのか? いや、とにかくやってみよう。うまく行けばこの視線からの完全脱出が出来るし、ここからあまり離れることもない。問題は彼女達がのってくるかどうかだが、とにかく提案してみよう。
「あの~」
「なによ!? あんたに意見なんて聞いてな、ん~~!?」
「ビウム! ちょっと黙ってて」
「すいませんジンさん、それで何かありましたか」
スレンダーの女性がビウムさんの口を手でふさぎ、ネリネさんが対応してくれた。少なくともこれで話が出来るだろう。
「俺、マイルームが使えるんですけど、そこに行くのはありですかね」
「……無しですね」
ダメだった。じゃあどうするかな~? すると
「良いんじゃないですか~? 話をする条件には一致してるでしょう~」
「確かにね。聞いた話じゃ所有者本人か、所有者がリーダーのパーティーじゃないと入ることが出来ないって事だし」
「駄目です。親しくもない男性の部屋に入るなんて言語道断です」
「いや、ここゲームだから、もう少し緩くても」
「例えゲームでも、駄目なものは駄目です」
ネリネさん、マジでお嬢様なのかな? 確か、そういう事を教えているのは昔の文化を残そうとする『文化保護区』の住人に多いはず、あそこでも売れるんだ『CONNECT』。そういう類いのものは取り入れないと思ってたよ。
「でも~、今現在そこ以上に安全な場所もないですよ~。それに~、今後のためにも~、一度マイルームがどんな場所か見ておくのも~、良いんじゃないですか~? 私達の誰かが手に入れる事もあるかも知れないですし~」
「ですが」
「じゃあ多数決ね。ネリネは反対、あたしは賛成、ビウムは? 」
「~~~~、~~~~!! 」
「喋んなくていいから、賛成なら手をあげる」
ビウムさんは手を上げた、てっきり反対すると思った。これといった根拠はないけど。
「それでカンナは?」
「もちろん、さんせ~い」
「3対1、決定ね。言い分はあるだろうけど」
「分かってます。意見が割れた時は多数決、それでも駄目ならじゃんけんで。昔からの慣わしです」
「ってことでお願い出来る?」
「了解です。あ~、ところでパーティーってどうすれば結成出来るんですか? パーティー申請をしたことが無いので」
「そうなの? 従魔を連れてたらそうなるのかな? まあ、とにかく教えたげる。と言っても簡単だけどね、申請したい相手にそう言えば良いのよ。今回はビウムに言ってね、聞こえてたと思うけどこの子がリーダーだから」
「分かりました。えっとパーティーを組んでもらえますか?」
ビウムさんに向かって話し掛けると、ビウムさんが頷いた様に見えた。すると、視界左上の3色バーが4本増え、7本になった。これでパーティーに四人加わったわけだ、メニューを開かなくて良いのは便利だな。
「それじゃあ早速行きましょう」
「行くのは良いけどどうやって行くの? メニューで選択でもするの?」
「あそこの転移門から移動出来ます」
「お~、近くて楽ですね~」
「では行きましょう」
「~~~~~~!」
「あっ、ごめんもう離すから、でもまだ喋らないでね。せめてマイルームに着くまでは口チャックでお願いね」
ビウムさんが頷き同意を得たところで、転移門に向かって歩き出す。幸い、端末に行列が無かったのでスムーズにカードを取り出す事に出来た。そして、皆で転移門中央に来ると、
「あたし、転移門に入るの初めてなんだけどどんな感じかな? 」
「ん~、初めてここに来たときと同じ感じですかね」
「そうなんですか~、私はあの感覚苦手なんですよね~」
「使ってればすぐ慣れると思いますけどね、それじゃ行きますよ」
カードを門に捧げるように持ちあげる。そして、いつも通り体が光る。他の四人も同様の光を纏っている、問題は無さそうだな。そして、視界が一瞬で変わりマイルームに到着した。
「えっ、転移ってこれだけ?」
「みたいですね~、あっ、ベッドだ~」
「こら、殿方の寝具に飛び込もうとしない」
「え~、ベッドはベッドだよ~?」
「私達はここに遊びに来たわけでは無いんですよ?」
「だから、ゲームだってば」
「そんな事は関係ありません」
「はいはーい、分かったわよ」
「ねえ! もう喋っても良いわよね! 良いのよね!?」
入ったことを確認すると、ベッドに寝転がろうと近付くカンナと呼ばれた女性、それを襟首を掴んで引き留めるネリネさん、茶髪の女性は適当な相づちを打ち、ビウムさんは話して良いのか確認する。一度行動するとじっとしていられないのだろうか、この人達は。グレイス達はアイテムボックスの前で丸くなって、まるでボックスの守護者だ。大切なことは間違いないから構わないけど。さて、
「それじゃあ、話をしましょう。椅子とかはないので適当にしててください」
「それじゃ~、私はベッドに~」
「駄目です」
「椅子がないって言ってるし、とりあえず座るだけなら良いんじゃない? ね? 」
「む~、仕方ないですね」
「やった~」
「寝るのは無しですよ」
「分かってま~す、そこまで節操なしじゃ無いですよ~」
「ねえ! 誰か返事しなさいよ! 話して良いのよね!? 」
「ビウム、話していいから叫ばないで」
「最初からそう言えば私だって叫ばないわよ! とにかく座らせてもらうわよ! 良いわね!? 」
「お好きにどうぞ」
そう言うと4人全員がベッドに一列に座った。ネリネさんは、相変わらずカンナさんの襟首を掴み続けている。そこまで気にする必要はないと思うけどな。ちなみに俺はアイテムボックスの上に腰かけた、話をするなら正面から向かい合わないとな。
「え~と、それで結局どうするんですか? 王都まで行くんですか? 行かないんですか? 」
「その前に自己紹介をしましょう。結局、挨拶さえまともに出来ていませんから」
「あ~、そう言えばそうね。それじゃ、あたしから」
茶髪の女性が立ち上がり、紹介を始めた。
「あたしは『アヤメ』、メインは【盗賊】サブは【工芸師】革防具を中心に製作してるわ」
「それじゃあ次は私ですね~、名前は『カンナ』、メインは【修道女】サブは【裁縫師】です~、お見知りおきを~」
「私は既にしてありますが一応改めて。『ネリネ』です、メインは【狩人】サブは【鍛冶師】主に防具を担当しています」
「最後は私ね! 名は『ビウム』!! メインは【戦士】サブは【鍛冶師】よ!! 武器を作ってるわ! このパーティー『春夏秋冬』のリーダーもやってるわ!! さあ! あんたの番よ! 」
『春夏秋冬』それが彼女達のパーティー名らしい。パーティー、って名前つけられるんだ。初めて知ったよ。