31『ゴブリン砦~救出編~8』
目を瞑った俺の視界には、真っ黒な背景に、自分とシノブと従魔達の各Pバーが見えている。しかし、もう来てもいい筈の痛みは来ない。
その代わりに聞こえるのは、何かが地面にぶつかった振動と音だけ、俺は恐る恐る目を開く。
そこには、ジェネラルの首が落ちていた。
「うぉっ!? えっ? なんで? 」
「大丈夫、ですか? 」
何故、ジェネラルの首が落ちているのか? それを考える前に声をかけられ顔を上げる。
切り離されたジェネラルの身体の上に女性が立っていた。服装は和服、記憶が正しければ巫女服だろうか? 色は大分違うが。
袴は濃い青色、白衣である筈の上は鮮やかな赤、白い上着を羽織り、傘を差す様に右手で大鎌を持っている、左手には人の頭ほどある魔石を抱えている。
そして何より気になるのは、揃えられた前髪から伸びる二本の青い角、鬼、何だろうか?
とにかく、助けてもらったお礼を言わないと。
「だ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」
「間に合って、良かったです。それで、状況を、教えて、貰えますか? 」
「分かりました。え~っと、それじゃあまずは」
「自己紹介でござるな! 拙者、シノブと申すでござる。こっちはジン殿でござる。拙者の情報が正しければ、貴女はヨルダ嬢ではござらぬか? 」
「うん、そうだよ」
「おぉ!! 会えて光栄でござる」
シノブがえらくはしゃいでいる。さっきまで緊張感はどうした?
「えっと、有名人? 」
「何を言ってるでござるか!? ヨルダ嬢と言えば数少ないrank:SSの女性冒険者でござるよ!! それも常に一人で行動する真の意味での実力者、その戦い方と仕草から【無音の鬼姫】と呼ばれているでござる。そんな事も知らずに冒険者をしてるでござるか!?」
「そんなこと言われてもな~。俺はそもそも異人だし、こっち来てすぐ森にこもったから、情報も最低限しか持ってないし」
「ジン殿はもっと他者に興味を持つべきでござるな、特にrankA以上の冒険者の動きは参考になることが多いゆえ、調べておくといいでござるよ」
「・・・気が向いたらな。ところで、さっきからそのrank:SSの冒険者さんが困ってるみたいだが? 」
「おっと、これは申し訳ないでござる。さて、現在の状況でござったな。拙者が説明するでござる」
「えっ、と、お願い、します」
シノブがヨルダに現状を説明している間に態勢を整える。
LPは4割程残っている、攻撃の余波を食らっただけでこれだ、直撃してたらその時点で終わってるな。
MPは2割になっている。魔力操作は集中するほど減りやすいみたいだ。特に今回のはギリギリだった、少しでも剣の操作を失敗してたらジェネラルに届く前に消滅していただろう。
SPはそれほど減っていない、受け身の時に気力操作を使うのを忘れたからだな。さすがに攻撃の余波で飛ばされるとは思わなかったし。
グレイスもシロツキも健在。シロツキはこちらにヒールをかけてくれている、相変わらず指示なしで動くなこの子は。おっと、MPがギリギリだな。
ポーチに手を入れてポーションを、あっ、これで最後か、また買わないとな。
さて、後は俺同様に飛ばされたラプターだが、
「・・・いないな。まさか、やられた、のか? 」
「ジン殿~、ヨルダ嬢が一緒に来てくれるそうでござる! どうしたでござるか? 」
シノブがヨルダさんの協力を取り付け戻ってきた。丁度良いので聞いてみよう。
「それが、ラプターが見当たらなくってな。何か知らないか? 」
「あぁ、ラプターならヨルダ嬢の姿をみるや否や、一目散に砦の外に逃げて行ったでござる。女性を見て逃げるとはなんとも失礼な話でござる」
「そうか、逃げたか。まぁ、生きてるならいいや、死んでさよならよりはずっと良いし」
「拙者はラプターが森に住み着かないことを祈るばかりでござる。さぁ! ヨルダ嬢が待ってるでござる、早く行くでござる。試練ならまた何処かで受けれるでござるよ。多分」
そう言ってシノブはスタスタとヨルダさんの所に歩いていく。いつの間にか、ヨルダさんの後ろに光源が出来て長く影が延びている。シノブが頼んだのかな? だが、そんなことよりも、
「あー! 試練! そうか、失敗になるんだよな。・・・はぁ、落ち込んでる場合じゃないけど、やっぱ気分は沈むな」
「何してるでござるか~、ここはまだ敵陣でござるよ~。駆け足駆け足」
「言われなくても分かってるよ、グレイス、シロツキ、行こう」
グレイス達と一緒に二人が待っている場所まで走る。さぁ、今度こそランディ達と合流だ。
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「あ、そうだ。これ、二人に」
ランディ達に合流するために出発してすぐ、ヨルダさんが取り出したのは、ジェネラルが持っていたブレイクスターだった。どうやらヨルダさんが取得したようだ、しかし、こう言ってはなんだが、小柄ながらも角が生えた彼女が持つと、変わった形の大きな金棒にしか見えない。シノブが言うには【青小鬼族】と言うらしい、正に鬼に金棒。いや、今それはどうでも良い。
そのヨルダさんは、何故かブレイクスターをこちらに差し出してくる。
「えっと、これはヨルダさんが手に入れた物ですし、俺達は結局まともにダメージも与えられなかったので、ヨルダさんが持ってた方が、なぁ」
「そうでござるよ。拙者の苦無も手裏剣もまったく役に立たなかったござるし」
「そういえば、その苦無と手裏剣はどうした? 大分投げまくってた気がするが」
「弾かれた物の内、影に落ちたものは『シャドウボックス』に自動回収して、また打ち込んだでござる。なので影の上に落ちた物は回収済みでござる」
「落ちなかったやつは? 」
「ヨルダ嬢に頼んで影を作って貰ったので、全て回収したでござる」
「そうなのか。ところで『シャドウボックス』って? 」
「アイテムボックスのシャドウ版でござる。ウェアハウスと違い生き物は入れられないでござるが、重さは加算されないし、拙者の所有物であればどの影からでも回収出来るでござる。取り出せるのは拙者の作った影からだけでござるが、拙者が身に付けた物の影からも取り出せるので、場所を取らないし直ぐ取り出せて便利なのでござる」
「って事で、俺達には一応損失って言えるものもないし、それはヨルダさんが持っていってよ」
「でも、わたしには、必要、ないし。それに、『首断ち』が、成功、したのは、怒り状態に、なって、隙があった、からだから、貴方、達にも、受け取る、資格は、あると思うの」
どうやらヨルダさんは意見を変えるつもりは無いみたいだ。かといってここで悠長に立ち止まってる余裕も無い、ならば、
「分かりました。そこまで言うなら受け取ります」
「それじゃ、はい」
「ちょっと待つでござる! ジン殿それで良いでござるか!? 」
「シノブ、お前の意見も分かるが、ここでこれ以上足を止めてる場合じゃないのは、シノブだって分かってるだろ? 」
「それは、そうでござるが」
「だったら討伐した本人の意見を優先しよう、それが一番早い、な! 」
「ん~、納得はできないでござるが、理解はしたでござる。それでいくでござる」
「説得、終わった? 」
「あぁ、なんとか」
「それじゃ、改めて、はい」
ヨルダさんからブレイクスターをそれぞれ受け取る。
「かたじけない」
「ありがとうございま、す!? 」
受け取った瞬間、凄い重さが手に乗り、危うく落としそうになった。それをなんとか耐えて、鉄球の方を下にして地面に下ろした。
「何これ!? おもっ! あいつこんなの振り回してたの? 」
「あぁ~、持久力が足りてないでござるな。俗に言う『ステータスが足りない』って奴でござる。まぁ、鍛えていけば使えるようになるでござるよ」
「はぁ~、しばらくはアイテムボックスの肥やしか、いや、これ売って装備を整えるのもありか。とりあえず片付けて、と。これでよし」
「拙者の方も行けるでござるよ」
「じゃあ、改めて、出発」
ヨルダさんの掛け声で再出発。
強い人が一人いるだけで、安心感が半端無い。ラプターがいなくなったのは残念だが、これで後は皆に合流すれば大丈夫だろう。
さぁ、今度こそ合流だ。
と、思ったら、
「おーい! 」
正面からランディ達がやって来た。
『シャドウボックス』
アイテムボックス系アイテムの一つ
ポーチではなく影を入り口にしている
自分の所有物であればどの影からも回収可能
再利用可能な消費系武器を使用する冒険者に需要がある
生き物は入れられないし、収容量も少ないが
非常に便利なため人気商品
とんでもなく高価なアイテムの一つ、売れば庭付きの家が買えるレベル(【CWO】内の通貨で)