27『ゴブリン砦~救出編~4』
よっしゃ~!
もう1話行けたぞ
「なっ、あ」
「なっんで、ごぉっ、ざるか」
「どうしっ、て、こう、なった! 」
「それっ、は、ラプターをたっ、すけたからっ、でござろう」
追い付いて来るゴブリンを迎撃しながら、MPとSPの節約をする。走る時間も短くなり、ゴブリンに追いつかれる回数も増えていた。当然、少しずつLPも減っていく。ジリ貧というやつだ。
そんな時、ゴブリン達を追い越し、ラプターが俺達に追い付いた、その数2体。片方は先程までコマンダーに火を吹いていた固体だ。ラプター達は俺達に追い付くと、俺達の攻撃をものともせず近付き、俺達の足の間に首を突っ込んでそのまま持ち上げた。
俺達は慌てて、ラプターの背にしがみついた。そしてラプター達はそのまま走り出したのだ。
しばらくはそのまま走っていたが、しがみついたままだとSPがドンドン減っていくので、ラプターの上で姿勢を整える事にした。さすがライドと名がつくだけあって背中に座り易いようにか、前後にコブのような凹凸があり、そこに合わせて座ると揺れが大分ましになった、更に首を軽く掴むことで安定度が増した。
ラプターの上で姿勢を整えると、SPの消費量が減った。走るよりもこちらの方が減りが少ない、これは実に助かるな。
ちなみに、シロツキは俺の前に大人しく座り、グレイスはラプターと並走している。いつもよりも、いきいきしているような気がする、気のせいだろうか?
しかし、俺達が背に乗ってからも一切攻撃してこない。これは一体どう言うことなのか? とりあえず、今俺が聞ける相手は一人だけなので聞いてみる。
「はぁ~、あ~それで、これはなんだ? 何か心当りは? 」
「恐らく【騎竜の試練】でござる」
「騎竜の、試練? 」
「さよう、【乗竜】スキルを手に入れるための試練でござる。そして、この試練を突破できれば、【乗竜】スキルを修得し、拙者らが乗ってるラプターを従える事が出来るようになるのでござる」
「新しいスキルに従魔まで付いてくるのか、お得だなその試練。それでどうやったらクリアなんだ? 」
「この場合、ラプターを乗りこなす事が出来たら、でござる、かな? 」
「なんで疑問形? 」
「明確な条件が分からないのでござる。集めた情報の中にはスキルを修得しても従魔に出来ない事もあって、一概にこれだ! と言える物がないのでござる」
「なるようにしかならない、ってやつか」
「試験官はこの子達でござるからな、この子達次第でござる」
「ラプターの試験官、ね。そういや、こいつはコマンダーと戦ってたがどうなったと思う? 」
「そうでござるな~、コマンダーを倒したか、はたまたこやつらを残して全滅してしまったか、それとも皆逃げ出したか。そんな所でござろう」
「せめて逃げ延びてれば良いな」
「さようでござるな、アインに住んでる者からすれば迷惑この上無い話でござるが」
「確かにな、まぁそれもなるようにしかならんだろう」
「決めるのはラプター達でござるしな。おっ! 皆が見えてきたでござるよ!」
シノブがそう良いながら指を差すが、俺には見えない。
あれか、忍のスキルか何かだろうか?
それも聞こうと思い、振り向くとシノブは真剣にそれを見入っていた。
「どうした? 」
「メイズ殿らもコマンダーと戦闘中のようでござる。それも二体! 」
「おいおい! 一体でも勝てそうに無いのにそれが二体!? 勘弁してくれ」
ラプターは俺達の会話を理解したのか、ゆっくりと立ち止まり動かなくなった。こいつらも怯えているのかもしれない。そしてシノブは、重苦しく話し出した
「……ジン殿、拙者らは建物の裏から回り内部に突入するでござる」
「……えらく突然だな、理由は? 」
「……拙者の予想が正しければ、まだ拐われた人は、一人も被害に遭っておらぬ筈、コマンダーを討ち内部に突入するより、内部から飛び出し奇襲をかける方が、安全かつ確実に事を成せる可能性があるでござる」
「普通は周囲の敵を全滅させた後の方が良いんじゃないか? 」
「メイズ殿達ではコマンダーを倒すのに時間がかかるでござる。此度の作戦時間を越えてしまうのは明白。それに後ろからコマンダーが追い付く可能性もあるでござる。ならば、『確実に全員』よりも『一人でも多く助ける』方に賭けた方がマシでござろう」
「そりゃそうだが、……なぁ、シノブ。何か厄介な心当りでも有るのか? さっきまでと雰囲気が大分変わったんだが」
「・・・魔物というのは基本『群れ』を作ります、そして群れの中から3体以上の個体が上位の個体に進化すると、群れのリーダーが更に上位の存在に化けます。ゴブリンならリーダー、コマンダー、そしてジェネラル」
「ジェネラル? 」
「そう、rankBに相当する魔物です。ランディ殿達ならなんとか出来るでしょうが、我々では手も足も出ない相手。更にここまで来るのに結構な数のゴブリンに遭遇した事を考えると、もっと上の存在がいる可能性もあります」
「まだ上がいるのか」
「います、ですが今警戒すべきはジェネラルの存在。あれが出てきては作戦遂行は不可能、救出部隊は間違いなく全滅し街に強制送還となるでしょう。ですから」
「出てくる前にどうにかしよう、ってことか。了解だ、そう言う事ならさっさと行こう。そいつが出てくる前に終わらせよう。って事だラプター達、もう少し手伝ってくれ」
「頼みます」
ござるもにゃあの語尾もつけるのを忘れたシノブと共に、ラプターに頼んだ。ってにゃあの方も後付けかこの忍者。
ラプターは、ゆっくりと前進しだした。とりあえず頼みは聞いてくれたようだ。さて、
「シノブ」
「なんですか? 」
「語尾忘れてるぞ」
「ほ、放っといてくださいにゃあ! 」
「そっちの方かよ! 」
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近くの建物の影などを利用し慎重かつ迅速に、建物の裏口が見える所までやって来た。
「裏口はあるのに警備はなし、簡単過ぎて逆に怖いな」
「まぁ、所詮ゴブリンでござるし、こんなもんでござろう」
「いやでも、表にはコマンダーだっているだし」
「今の拙者達にとって大事なのは、警備があるかどうかではなく、拐われた人を一人でも多く開放することでござる。いざ、突にゅ、もとい、潜入でござる」
「ところで、ラプターはどうなるんだ? 降りたら試験終了になるのか? 」
「降りたら分かるでござるよ、さぁ行くでござる」
ござる口調に戻ったシノブが、ラプターを降り裏口に近付くと、ラプターも後を付いていく。どうやら試験はまだ終わらないようだ。俺もラプターを降り、近付きながら建物を見上げる。
建物の窓の数と高さから三階くらいだろう。アインでもこのサイズの建物はそう多くなかったし、中央に建てた以上、重要な施設な筈。
それが今じゃ、ゴブリンのすみかと成り果てているとは、作った当時は思いもしなかっただろうに。
「ジン殿、中にもゴブリンの気配はないでござる。行くなら今の内でござる」
「分かった。後は拐われた人達がどこに居るかだ、が? 」
「なんでござろうか? 」
シノブが扉から中を確認して呼び掛けてきた、俺は返事をしながら近付く、すると突然、キンッと金属音のような音がして、音の方に振り向いた。
場所は建物の壁のすぐ近くだ、音がしたと思う場所に近付き壁を調べる。
「う~ん? この壁じゃあんな音鳴らないよな」
「建築の素材に金属使わないでござるよ、それに音の感じから考えるに、もっと軽いものでござる」
「と、なると地面か。え~と、おっ! これじゃないか? 」
地面をよく見ると、石とは違う丸い形の物体を見付けた。その数5枚、俺はそれを拾い上げ、シノブに見せた。
「これは銅貨でござるな」
「銅貨? 確かこの世界のお金は」
「そう、全て数字の羅列でござる。しかし、ダンジョンや遺跡等では、この銅貨をはじめとした、かつての人々が使っていた道具が発見されるのでござるよ。この銅貨でも千HLはするため、普通は換金されるでござるな」
「1枚千HLか、それが5枚、普通なら喜ぶ所だろうがこの場合」
「誰かが落とした。それもつい今しがた。つまり」
俺達は二人揃って建物を見上げ、窓をみる。そしてシノブが、
「ここから真っ直ぐ上の窓は二階と三階の二つ。そのどちらかに」
「拐われた人が捕まってる」
「その通り! そして窓があるなら拙者のトビカゲで中を確認出来るでござる。と言うことでトビカゲ! 行くでござる! 」
シノブの指示で、トビカゲが飛び立つ。そしてトビカゲが二階の窓に近付くと、
「『シンクロヴィジョン』! さぁ、覗かせて貰うでござる」
『シンクロヴィジョン』これは魔法スキルと呼ばれる、特殊スキルの1つだ。
特定のジョブとジョブスキル、両方のLvを上げることで使えるようになる魔法で、普通の魔法のように、スキルロールで修得することが出来ないそうだ。
『シンクロヴィジョン』は自分の従魔、召喚獣、契約獣の視界を共有することができるようになるそうだ。
作戦開始の時も、これを使って空から砦の様子を見ていたから、ゴブリンの動きを確認出来たのだ。
ただ、トビカゲの視界はシノブには見にくいらしく、いつも苦労しているらしい。
「ここは違うでござるな、次に行くでござる」
「いや、それは確定なんじゃ? 」
「もしかしたら見逃したかもしれないでござる。先程も申した通り、トビカゲの視界は拙者には見にくいのでござる。だから、念には念を入れるでござるよ」
そう言うとシノブは目を閉じて、トビカゲの視界に集中しだした。一体どんな世界が見えているのだろうか?
そう思いながら建物を見上げる、トビカゲが二階と三階の間ぐらいを飛んでいるのが見える。そして俺の目には、三階の窓を開けて、こちらに手を振る女性の姿が映った。
……場所は分かった。さぁ! 救出を開始しよう!
本当にこれでGW中の更新は終わりです
またゆっくりに戻します
しかし、我ながら長いな、早く救出編を終わらせねば
それではまた次回!