EP009[今後の方針は仲間探し]
雨が降り始めると杉浦たちはそれぞれのテントや倉に戻って行った。
合羽は持ち合わせてはいるがわざわざ外に出てまで行わないといけない作業も無いので、ストレルカをソファ代わりにした杉浦は木材を相手に彫刻刀でスキル熟練度稼ぎを行っていた。
日中の空き時間にノコギリで10㎝x5㎝の板を量産しておいた杉浦は、頭に浮かぶ下級付与術をひとつひとつ彫っては効果を試してみることにした。
【加工】の内包マスタリーである【下級切断センス】は30x30㎝くらいの正方形の範囲内であれば思った通りに木材や石材を切断できるというものだった。これにより彫刻スキルの稼ぎをする為の素材の用意も出来る上に加工スキルの熟練度も稼げるのだから相乗効果は凄まじい。木材はノコギリで切断し石材は平タガネとハンマーでコンコンと叩くと想像以上に上手く割れるのだ。
そして、【彫刻】の内包マスタリーである【下級付与センス】は対象に文字を彫る事で気持ち程度の効果をもたらすことが判明している。
例えば、今現在手にしている10x5㎝の木板に〔拡張〕と彫りテント内に吊るすとテントの内部面積が多少広くなる。外観は全く変わらないのにテント内部だけが拡張するのだ。重複はしないが別の文字を彫った木板を一緒に吊るすと効果が半減するので効果上限は決まっているらしい。スキルレベルを上げて中級付与センスを取得出来れば更に拡張率は上がるのだろうと考えて、雨の時間を有効利用した杉浦はせっせと色んな効果の付与板を量産している。
「これからの時期だと夏になれば虫が問題かな……。〔虫除〕の文字でどこまで効果が出るか……」
このスキルは多方面で活躍すると考えられる。例えば全ての素材を木材で揃えた竈を造る場合にすべての材木に〔不燃〕と彫れば造れそうだし、屋根を張る時は〔撥水〕なり〔防水〕と刻めば今回の様な雨模様の時でも浸水したり腐ったりはし辛くなるだろう。
「素材に左右されない互換性も持たせることが出来るなら一気に素材不足が解決できるからなぁ」
これは独り言だ。ストレルカも作業に集中して独り言ちている杉浦には反応を示さずソファとなったまま昼寝を続ける。
【下級付与センス】は二文字しか効果を発揮しなかった。なので杉浦も図書館から持ち帰った辞書から効果を想像して色々と試すしかなく、次々と文字が彫られては効果が不明な木板が量産されて行く。
効果は彫る度に違う事から文字の美しさや彫刻レベルが重要な様だと理解していた杉浦は、今日の為に千代に頼んで木板に筆ペンで文字を書いてもらっていた。
「俺が適当に書いた文字を彫っても効果薄いのに千代さんの綺麗な字だと1.5倍くらい差が出るの何なん……」
千代のお手本の様な文字を彫刻刀で削っていく。このまま【彫刻】を育てて小さな小屋に〔拡張〕を設置するか、それとも【加工】を育てて立派な家を建てて〔冷房〕や〔暖房〕で今後に備えるか……。小さな小屋一つ建てるのですら素人がスキル頼りに頑張っても大変なのだから、そうホイホイと試し建てや建て直しも難しい。
テント暮らしに不慣れな三枝家とご老体の駒原にはベッドでの就寝を早いうちにプレゼントしたい。駒原の場合は倉か地下に〔拡張〕板を設置すればあとはベッドの調達だけでいいが、三枝家は足場が安定しないテントの中にベッドを設置するわけには行かないので小屋の建設を考えているわけだが……。
「難しいよなぁ……」
そして、明日で災害世界7日目となる。季節は幸い春で死体の腐敗は遅めだろう。
こういう終末系の物語で往々に問題となるのが放置死体から蔓延する疫病だ。全ての死体をどうにかする事は出来ずとも近場の避難所のメンバーと協力して焼却処分を進めてしまわないと後々腐敗が進んでからだと面倒が段違いだと、思われる……。少なくとも放置すればいずれ直面する問題なだけに杉浦は早急に嫌な事は済ませておきたかった。
* * * * *
雨は翌日の早朝まで降り続いたが幸い朝食の時間には晴れていたので全員で集まる機会が出来た。だが、杉浦が相談を始める前に様子のおかしさに気付いた妙子が口火を切る。
「ねぇ、大地君。篭っているうちに何かあった?」
「え?」
妙子の質問に思わず戸惑った声を漏らす杉浦を何故か全員が見つめていた。気付いていたのは妙子だけでは無かったのだ。経過日数を気にしてはいたものの、いつから行動に移すかはまだ検討段階にあった。いずれにしろキーポイントは【自在倉】だ。せめて袋口がLev.10になった時点でMAXになるのかまだ先が続くのかで効率性も変わって来る。
「まだ一ヵ月くらい先になると思うけど、町に散らばる死体をどうにかしないといけない……と考えてる」
「死体を? なんで?」
ファンタジー系小説を嗜む杉浦とは異なり疑問を呈する妙子も黙って聞いている千代もどういう危機が迫っているのかわかっていない様子。逆に駒原は察しているのか暗い表情を浮かべていた。
「このまま死体を放置していると死臭が流れてきて生活もキツくなるし、魔物を呼び寄せる可能性もある。何より死体が疫病を発生させる事例があるからせめて火葬はしないといけない」
ここで三枝家の表情に理解が広がる。
「でも、問題もある。死体のほとんどは瓦礫の下に埋もれているから協力者が要る。これは公民館の宮内さんを窓口に協力を求めようと思ってる。他にも自在倉に死体を収納するつもりだから熟練度も上げなきゃならないし、火葬する場所の確保もそうだし勝手に火葬する事も問題視されるかもしれない……」
すでに法律もクソもないが倫理観は生きている。
それに協力をするなら自在倉の存在を公表する事にも繋がるので、身柄の確保に動かれる可能性があり妙子達を巻き込めない。
そんな杉浦の重い説明に駒原が顔を上げた。
「僕たちは一蓮托生だ。誰が欠けても生活が苦しくなる事は皆理解しているし皆が杉浦君を信頼している。僕は年寄で満足に協力出来ないけど、もう少し甘えてもいいんじゃないかな?」
駒原の視線が杉浦から妙子へと移るのに吊られて見やると、明らかにヘソを曲げた妙子が杉浦を眉根を寄せて見つめていた。
「……言いたい事は駒原さんと同じ。私達だけじゃなくて他の避難所の人たちの事も考えての事なんでしょ? 確かに自在倉が成長してないと運搬も大変だろうしね!分かるけどね!でも、そこまで全部を大地君だけが負担する必要は無いでしょ!私もやるわ!」
「あー、気持ちは嬉しいんだけど防衛上お妙さんには残ってもらわないと……」
妙子怒りの肩パンチが炸裂した。
しかし、杉浦の言い分も状況的に理解は出来るのでそれ以上に不満を示さない。
現時点で少人数で活動している自分達は、役割分担に交代要員が居ない。そこを解決出来なければ死体回収に動けるのは結局杉浦だけとなってしまう。
「……じゃあ、妙子の代わりを見つけないといけないわね。例えばだけれど、ストレルカちゃんみたいな魔物が良いと思うわ」
これまで黙って話を聞いていた千代が代替案を提示する。
この共同生活で怖いのは魔物だけではない。最も警戒すべきは人間だ。
魔物は調教や使い魔で縛られる為、仲間に危害を加えられない制約が発生する。
駒原の調教したラージラビットのフジは正直戦力にならない愛玩魔物だが、ストレルカは戦闘が出来る魔物なので、そういう魔物を探して増やそうと、千代は提案しているのであった。
「良い案だと僕は思うよ。猿みたいな器用な魔物なら色々と戦闘以外でも手伝って貰るかもしれないしね」
同意する駒原に何度も頷く妙子の姿に、自分が焦り過ぎて考えが煮詰まっていた事に今更ながら杉浦は気が付いた。
隣で寝そべっていたストレルカも自分も居るぞと頭突きでアピールして来たので頭を撫でる。
「分かりました。生活水準を上げるスキル経験値稼ぎは一旦後回しになりますが、周辺捜索と聞き込みで魔物の分布を調べる所から始めてみようと思います」
仲間を見回しながら方針を宣言すると、皆は頷き了承を示した。
候補となる魔物を探すのは早いに越したことは無い。朝食後から動き出す事を決め、杉浦は動き出した。
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