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異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~  作者: 黄玉八重


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EP003[三枝千代]

 三枝(さえぐさ)家までの道中、杉浦(すぎうら)妙子(たえこ)は互いのスキル情報をすり合わせる事にした。

 杉浦のスキルは[視覚拡張]で、視力強化や暗視が紐づけスキルとなっていてどちらもコモンスキル。下級鑑定眼にはレベルが無くこちらはエクストラスキルという種類だと説明した。なお、SP(スキルポイント)は2貰えたことも併せて伝える。

「私も2だったわね。袋口と容量にレベルがあって下級魔法袋作製がレベル無しね」

 もたらされた有力情報に耳を疑い驚いた杉浦は妙子の両肩に手を置いて迫る。

「下級魔法袋作製? マジで?」

「ちょっと顔近いんですけど……離れなさい。親しき仲にも礼儀ありよ」

 妙子はまさかのアイアンクローで杉浦を遠ざける。身長は同じくらいなのにアイアンクローが可能女子とはなかなかどうして興奮させてくれるでは無いか。ふふふ。


「笑うんじゃないよ。ヤバイスキルなの?」

「ヤバイどころじゃないですよ……お妙さん、愛してます」

「まだ言うか!」

「痛たたたたたたっ!」

 酒の席で初めて出会った男女。妙子は年上で、偶然にも家が近かったことから互いに千鳥足を支え合いながら帰路を同じくする間にも会話は絶えず楽しい時間を過ごすことが出来た。再びのアイアンクローに容赦は無かったけれど、今日で顔を合わせるのは三度目なのにここまで気安い関係になれるとは出会った瞬間には考えもしなかった。懲らしめた事で満足したのか妙子は杉浦を開放して真面目にスキルの話を促して来た。


「多分だけど見た目に比べて大容量の袋を作成出来るって事だと思います。作って配れば誰でも自在倉まではいかなくても便利な鞄を手に入れることが出来るんですよ」

「へぇ~。確かにそれは便利だけど……絶対簡単には作れないよね?」

 まぁ作成スキルだけど絶対魔物からドロップした素材が要求されるだろう。杉浦はスキルの便利な機能を思い出し妙子に教える。


「俺の鑑定眼だけど使い方は自然と理解出来たんです。お妙さんも作成しようって意思を持てば必要素材とかが思い浮かぶんじゃないですかね?」

 駒原は無意識にラージラビットをテイムにしたが、スキルはそれほど自然にインストールされる。現に杉浦の視力強化は常に発動されるし暗視と鑑定眼は目を意識的に使用することで簡単に発動した。ただ、鑑定眼は下級だからか視点の合っている対象1点のみの情報しか見えないので想像する鑑定スキルと違い使い勝手は悪かった。

「っと、話してる間に家が見えてきたわ。スキルを試すのは後でね」

 妙子の台詞に荒れ果てた道の先にある家に目を向けると一人の女性が瓦礫に身を埋めながら発掘作業に勤しんでいる姿が見えてきた。

 妙子が駆け出して「お母さん、ただいま!」と女性へ声を掛けると瓦礫から身を乗り出して出迎えてくれた。


「あら妙子。お帰りなさい。杉浦君は見つかったみたいね」

 大学生の子供がいる時点で妙齢ではあるはずの妙子ママはゆるふわ系美人だった。杉浦の喉が自然と唾を嚥下した。

「そうなのよ。なんか地震の時はキャンプ場に居たらしいの……。呑気過ぎじゃない?」

 妙子が杉浦を心配していた様子を見ていた妙子ママは娘のツンデレな発言に微笑みながら杉浦に視線を移し挨拶を交わす。

「ふふふ。杉浦君、私は妙子の母で三枝(さえぐさ)千代(ちしろ)と言います。これからも娘と仲良くしてあげてね」

「ちょっとお母さん!何変な事言ってるのよ!そういうのじゃないからっ!」

 千代の爆弾発言に妙子は誤解を解こうと必死な様子を見せ、杉浦自身も妙子の事は気に入っているが女性として見ていたわけではないので楽しそうな千代に余計な燃料を注がない様、我関せずとした態度を一貫する事で黙秘を選択した。

 そもそもインフラも破壊されて明日をも知れぬ状況で恋愛話をタネに笑い合える三枝家の強さに杉浦も勇気づけられる。


「大地君も勘違いしない様に!」

「はい!微塵も勘違いはしておりません!」

 別に本当に恋をしているわけではない妙子は杉浦のその返答に思わず眉を反応させる。何か女のプライドを傷付けられた気になったのだ。肯定されても困るけれど否定されても面白くない難しい女ごころの機微に杉浦が気が付く様子も無く空気を入れ替えようと話題を振る事にした。


「ごほんっ。お妙さんから聞いたのですが避難所は機能していないそうですね……。これからの生活拠点に心当たりはありますか?」

 杉浦の意図を察した妙子は先ほどの慌てぶりから一変して黙り込む。一応朝の間にいくつかの案を母親と出し合っては諦めるを繰り返しており移動手段も徒歩しかない事から今のところ今後の予定に進展は無かったのだ。千代もその様に回答した。


「恥ずかしい話だけどね……。まだ何も決まっていないのよ。私の実家は他県だし車は道路がこんな状態だと動かせないし避難先も杉浦君も知っている状態だしね……」

 ここまでは妙子からも聞いていたので予想通りの回答だった。なので行き先が無いのであればキャンプ場に誘ってみようと妙子と道中に話を擦り合わせていたのだった。それに父親が居た頃にはキャンプに行った記憶があると妙子は言っていた。もしテントが残っており発掘出来ればひとまず寝場所は確保出来る事になる。


「こんな状況になると実家の畑仕事が懐かしく思えちゃうわねぇ……あら?」

 突如様子の変わった千代の反応に杉浦は思わず妙子に振り返った。その視線を受けた妙子も杉浦の考えを読み取り母親に確認の言葉を投げかけた。

「お、お母さん……。もしかしてだけど脳裏に【農業を取得しました】とか出てきた?」

「……よくわかったわね、凄いわ妙子。【豊穣作業を取得しました】って出た気がしたわ」

 初回スキル楽々ボーナスが使用された瞬間だった。特に何を取得させようか決めていたわけでは無いが2つ目のスキル取得条件が見つかっていない以上取得してしまったスキルとは長く付き合っていくしかない。何が出来るのか内容の確認と説明に関しては妙子が担当する事となり杉浦は妙子の指示で敷地の裏手にある、地震にも負けずに直立不動の姿勢を貫いたイ〇バ物置へと足を進めた。


 頑丈な物置は扉もたわむ事無く存在していた。

 鍵は普段掛けている付近で発掘していたそうなのでそれを用いて鍵を開けた杉浦は一つ一つ地面に広げた始める。ずっと使用していないなら奥の方にあると考えていたがパッと見、背の高い荷物が幾つもあってどれがテント素材かも判断出来ない状態だった。30分くらいだろうか。やっとキャンプ用品を見つけて何があるのかを調べてみるとツーリングドームのテントにマット、椅子と料理が出来る焚火台、ランプに食器系、さらにオールシーズン寝袋までしっかりと揃っているではないか……。

 ソロキャンプを楽しむ程度の杉浦に比べれば注ぎ込まれた金額はかなり高額だ。なのに毎年使用せずに眠らせるとは勿体ない……。テーブルが無いのは設置されているキャンプ場を利用していたからかもしれない。テーブル程度なら駒原の家から借りれば事足りそうだと判断した杉浦は報告の為に三枝親子の元へと戻る。


「お妙さん。キャンプ道具あったよ。かなり揃ってるからひとまず衣類だけでもいいかもしれない」

「わかったわありがとう!お母さん、聞こえた? しばらくは予定通りキャンプ場に避難するよ?」

 妙子の声掛けに瓦礫から立ち上がった千代は両手に鞄を持って下山して来る。

「大丈夫よ。でもテントは大荷物過ぎるわよね? どうやって運ぶつもりなの?」

「そこは大丈夫。すぐに必要な分だけの衣服は自分達で。キャンプ道具は私の自在倉に入れるわ」

 母の千代にはすでに妙子のスキルと自身が取得したスキルやステータスの見方についても妙子が説明済みだ。話をしながら自在倉に収納していた杉浦の春服、夏服はさっさと三枝家の瓦礫影に出され始めていた。

「大地君、春服ここに置いてるからキャリーケースの中身は自分で交換してね」

「了解でーす」

 妙子は杉浦と入れ替わりで物置の方へと歩いて行った。千代はキャリーケースの上に鞄を固定する作業に入っており、あとは各々準備が出来次第出発できそうな雰囲気が流れていた。昼も過ぎた頃合いなので昼食も事を考えるとここで保存食を消費するよりもキャンプ場に移動してから立派な食事をしたいと杉浦は考えていた。


 ——ワ”ン”ワ”ン”!

 その鳴き声に一番敏感に反応したのは杉浦だった。魔物を警戒したからだ。

 ウエストポーチに手を入れキャンプ用の万能サバイバルナイフを握り込むと三枝家の入り口へとゆっくりと移動して耳を澄ませる。


「杉浦君? どうしたの?」

「ちょっと、危険が迫っているかもしれません。逃げる準備だけしておいてください」

 そんな杉浦の様子に本気だと察した千代は準備した荷物はその場に放置して裏手に居る妙子の元へと避難する。

「はぁ、はぁ……たす、助けてくれぇ~!」

 犬の様な鳴き声は反響し過ぎて方向を判断出来なかったが助けを求める声は無駄に反響せずに杉浦の耳に届いた。その道の方向へ視線を向けると同年代に見えるチャラい男が中型~大型の犬に追いかけ回されていた。そして、家の敷地から道に出てきて遠目に確認している杉浦を見つけるやいなや真っ直ぐにこちらに向かった駆け始めた。

 杉浦は舌打ちをする。自分の背後には守らないとならない女性が二人いるのに状況を確認する為とは言え前に出過ぎてしまった……。

 スキルによって視力は1.0まで回復している。視力とは、対象物をどれだけ細部まで見分けられるかの能力を数値化したものだが、鑑定眼もその影響を受けており対象を認める距離まではいくら発動しても男の情報も犬の情報も表示されることは無かった。


「ワ”ン”ワ”ン”!ガウ”!ワ”ウ”!」

「ひ、ひぃ~~~!」


 距離にして約10mくらいだろうか……。ようやく鑑定眼が発動した。

 * * * * *

 Neme:早川明楽 種族:人間 年齢:23歳 状態:健康


【スキル】

 ◆下級鑑定眼では閲覧不可

 ◇内包マスタリー≪下級鑑定眼では閲覧不可≫

 * * * * *

 Neme:井手口テトラ 種族:雑種犬 年齢:8歳 状態:健康


【スキル】

 ◆下級鑑定眼では閲覧不可

 ◇内包マスタリー≪下級鑑定眼では閲覧不可≫

 * * * * *

 よし、魔物じゃない!牙を抜き出しにして吠えているけれど魔物で無いのであれば無益に殺すことは憚られた。

 幸い飼い犬だった様で首輪をしていたから立位保定で暴れない様に抑え込みさえすればいずれ落ち着いてくれるだろう、と考えた杉浦は

 万能ナイフから手を離して早川が自分の前を通り過ぎたタイミングで犬の前に躍り出る。

 怒りで早川しか目に入っていなかったテトラは杉浦の乱入に驚き一瞬勢いを殺してしまう。その隙に首と首輪の間に指を差し込み、さらに股の間でテトラの首を固定する。突然の事に暴れるテトラに振り払われないように杉浦も必死にテトラの身体を固定し声を掛け続ける。

「大丈夫!ごめんごめん!怖くないから落ち着けって」

 事態を瓦礫に隠れて見守っていた妙子も千代も未だ心配はしているものの、ひとまず犬も杉浦も怪我をせずに済みそうと考え互いに見つめ合い笑みをこぼした。

「テトラ。大丈夫だよ。お家に帰ろう、テトラ」

 何度も声を掛け続けるうちにテトラも暴れる頻度が収まっていく。やがて完全にテトラの興奮状態は落ち着いたのか唸り声は聞こえなくなったので杉浦もやっと強張った身体から力を抜くことが出来たのだ。

 ——良かったのはここまでだった。


「このっ!クソ犬がぁっ!死ねぇぇぇ!」

 気付いた時には遅かった。

 そのまま消えたと思っていた早川がいつの間にか戻って来ており瓦礫から見つけてきたのか鉄の持ち手の先にコンクリートの残骸がくっ付いた物を振りかぶり、杉浦が固定していたテトラの頭部に叩きつけたのだ。

 ガンッーーーー。と、痛々しい鈍い音とそれを目撃した三枝親子の悲鳴が杉浦に聞こえ、先ほどまで手応えの合ったテトラの身体から急激に力が抜けて行くのを感じ取った。


「ざまああああ!よくも俺を追いかけ回しやがったなぁ!クソ犬が!」

 杉浦の頭は怒りを通り越して逆に冷静になっていた。静かにテトラの遺体を地面に寝かすと振り返って早川を思い切り殴り飛ばし、戻って来た怒りに任せて怒声を浴びせる。

「何やってんだお前ぇ!殺す必要がどこにあったんだ‼」

 地面を転がった早川はその勢いでテトラを殺した残骸を手放すと半笑いで杉浦を不思議そうに見上げる。

「な、何を怒ってるんだよ。俺達の勝利じゃねぇか。あんな狂暴な犬が居たんじゃオチオチ夜も眠れねぇだろ?俺達はヒーローだぜ?」

「ふざけるな!テトラはすぐに落ち着くくらい温厚な子だった!お前が何かしたから怒っていたんじゃないのかっ!?それをヒーロー!?寝言は寝て言えクソ野郎がっ!」

 へらへらしていた早川がようやく杉浦の怒りを認識し、妙子の視線から漂う批判的な空気に早川の中でテトラへ向けていた怒りが目の前の杉浦に集中し始める。立ち上がりながら口の端から流れる血を拭うと殺気の篭る視線を杉浦へと向けた。


「てめぇ……人が大人しくしてりゃ良い気になりやがって……。女の前で良い格好したいだけのモヤシ野郎が好き勝手言いやがってよぉ!てめぇ調子乗ってんならすぐ土下座して詫び入れろっ!そこのクソ犬と一緒にぶっ殺してやろうか!?あぁ?」

 杉浦も普段から好戦的なわけじゃない。だからすでに怒りは収まりつつあったので意識は三枝親子をどう逃がすかにシフトしていた。

 この時、最も冷静だったのは……。


「早く失せなさい。助けてもらった分際でこれ以上私達に絡むようであれば相応の抵抗をさせてもらいますよ」


 言葉に杉浦と早川が振り向くと、包丁の切っ先を早川へ向けながら前進して来る千代の姿が目に入る。

 その背後では妙子も千代の行動に驚きを隠せないでいた。

「はっ!女が包丁を持っただけで強くなったつもりかよっ!」

「杉浦君。ナイフを持ちなさい」

「あ、はい!」

 千代の命令に従いウエストポートから万能サバイバルナイフを引き抜き構えると、流石に刃物を持つ二人を相手にするのは分が悪いと考えたのか早川が一歩後退した。


「ちっ!卑怯者がっ!お前も女に護ってもらって恥ずかしくねぇのか!」

 特に恥ずかしくは無い杉浦は馬鹿にした態度で答えた。

「俺は男よりも女性の方が優秀だと思っている寄りのフェミニストなんで恥ずかしくは無いな。アンタこそ助けてもらっておいて随分面の皮が厚いな。こんな立派に育ててくれたんだ、ご両親を紹介してくれないか? なぁ、()()()()君」

 途中までは馬鹿にされて顔を赤らめていた早川だったが、最後に名前を呼ばれた事で警戒心が跳ねあがる。

 視線を杉浦、千代、妙子の順に見回して知っている顔か考えても思い浮かぶことは無かった。では何故この男は自分の名前を知っているのか……。得体の知れない恐怖は早川の心を急激に弱らせていった。世界が壊れるまでの人生で恨みを買う事はよくある事だった事も回り回って目の前の男女に刃物を向けられているのでは、と今の窮地と自分の人生を混ぜて勘違いする早川の足は更に後退する。


「今日は見逃してやる。いずれ仲間を集めてボコるからなッ!覚悟してろよ!」

 そう言い残すと来た道を走って戻っていく早川の後ろ姿を見送る。十分な距離が離れ角を曲がって完全に姿が見えなくなってから杉浦はナイフを握る力を抜いた。


「お母さんっ!」

 妙子の慌てた声に杉浦も振り返るとへたり込んだ千代の姿が映る。どうやら母としてなのか年長者としてなのか、杉浦たちを守る為に気丈に振る舞い加勢してくれたのだとわかった。杉浦も千代の元へ向かい目線を合わせて膝を着くと感謝を告げた。

「三枝さん、ありがとうございました」

「ふふふ、怖かったわね……。でも皆無事で良かったわ」

 母は強し、とは本当だな。

 でも、あまり長居は出来ないと杉浦は考えていた。先ほどの早川が逆上して刃物を手に戻って来る可能性はあるからこの場を早く移動した方が良いし、三枝家を離れている間にこの場に置いて行かなければならない物資を早川に荒らされる可能性も出てしまったのだ。こうなってくると妙子同様に自在倉を取得出来ていない事が痛手の様に思える。

 そうすれば一日のうちに往復すればそれなりの物資は回収できるうえに妙子を連れ回す必要もなくなるのに……。

「妙子、私は無事だから……。だから先にあの子の供養をしましょうか」

 抱き着く妙子の頭を撫でながらその視線は道路に横たわったままのテトラの遺体に向けられていた。


 * * * * *

 Neme:三枝千代 種族:人間 年齢:42歳 状態:健康


【スキル】

 ◆豊穣作業Lev.1 ……熟練度0/1000 SP:2

 ◇内包マスタリー≪豊穣Lev.1/収穫術Lev.1/種子変換≫

 * * * * *

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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