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転生紀行:2242年  作者: 中本めぐみ
Season:1
5/17

004:転生者の特権

「ッハァー……もともと期待はしてなかったけど、小銭くらいはカツアゲできると思ったのによぉ」


「まさか一文無しとはね。いい年して女性に奢ってもらうなんて恥ずかしくないのかい?」


 二人の美少女が軽蔑したように俺を見下ろしている。

 彼女らは俺が金目の物を持っているのではないかと疑い、全身をくまなく検査したが、何もでてこなかったのだ。

 それもそのはず、俺はこの世界に裸の状態でやって来たのだし、この服だって拾い物なのである。


「だから言ったじゃないか」


 俺がざまあみろという気分で言うと、ツインテールの少女が「黙れ」と言って俺の口に足の指を突っ込んできた。

 両手をロープで縛られていたため、抵抗することもできず、俺は少女の足の指をしゃぶらされるハメになった。


「ごめんなさい。ワタシがバーに行こうなんて言いだしたばかりに……」


 イオンは亀甲縛りの状態でテーブルに寝かされており、手も足も出ない状態で謝罪の言葉をくりかえしている。


「まあ、気にするな。お前に誘われなければバーに行くことなんて一生なかっただろうし、いい思い出になったよ」


 俺はペッと唾を吐いてから、イオンをなぐさめた。

 ツインテールの少女は足の指についた俺のよだれを拭いてから、酒のボトルをぐびっとあおる。


「しかし、こんな冴えない男がアンドロイドをはべらせてるとはなァ……。いったいどんな手品を使ったんだ?」


「風の噂で聞いた話だけど、アンドロイドは人間に惚れやすいようにプログラムされてるらしいよ。それで一緒にいるうちに、男のほうも愛着が湧いちゃって、手放せなくなったんじゃない?」


 黒髪の少女が帽子を脱ぎながら答えた。

 するとツインテールの少女が、ケッと唾を吐いてしかめ面をする。


「とことんバカな野郎だぜ。アンドロイドを通報して懸賞金を手に入れれば、女なんかいくらでも抱き放題だっただろうに」


「金で買える女なんて、お前らみたいに顔はよくても中身は腐ってるようなのばかりだろ? そんなのこっちから願い下げだ」


 俺はせめてもの反抗をしたつもりだったのだが、それを聞いた二人はゲラゲラと笑いはじめた。

 

「何がおかしい?」


 俺が訝しんでいると、二人はおもむろに俺の前に仁王立ちして、履いていたスカートをたくしあげた。

 それぞれ可愛らしい女物のパンティーを履いていたが、その下にはもっこりとしたふくらみが確認できる。


「お前ら……男だったのか?」


「言っとくけど、好きでこんな格好してるわけじゃねーかんな。女だと思わせたほうが相手が油断するからって、兄貴に無理やり着させられたんだ」


 どうやら帽子をかぶっているのが兄で、ツインテールのほうが弟らしい。

 二人は女装兄弟というわけだ。


「アナタたちの性癖なんかに興味はないわ。とにかく彼を解放してちょうだい」


 イオンが叫ぶように言うと、二人はシラけたような顔でスカートを下ろした。

 そして兄のほうが冷ややかに目を細めて言う。


「やれやれ、アンドロイドってのは涙ぐましいほど献身的なんだね。こんなときにも彼を助けようとするなんて」


「アナタたちの目的はお金なんでしょう? それなら、ワタシを差し出せばいいわ。ただし、彼のことは見逃してちょうだい。それが条件よ」


「だーかーらー、それでいいって何度も言ってんだろ。あたしらはそのおっさんに、ハナから興味なんてねーんだよ」


 ツインテールの少年は投げやりに返事をしたが、俺には嘘をついているようにしか思えなかった。

 目撃者を生かしておく理由がないし、イオンの身柄の引き渡しが完了したら、俺は口封じのために殺されるにちがいない。


(このまま大人しく死ぬくらいなら、一か八かで行動するしか……)


 とはいえ両手を縛られている状態では、できることも限られている。

 どうにかして隙を作りださない限り、俺に勝機はないだろう。


(何かないか? この状況を覆せるようなものは)


 もしも俺がなろう小説の主人公であれば、転生時に獲得したチート能力で無双できるのだろうが、あいにく俺はただの凡人でしかないのだ。

 ……ただひとつの点を除いては。


「そういえば、コイツらのチンコは勃起しないんだったよな」


 俺は独り言のようにボソッとつぶやいた。


「あァ? いきなり何言ってんだコイツ……」


「おちんちんがボッキするのはアンドロイドだけのはずだけど、それが何だって言うんだい?」


 兄弟は怪訝な顔で俺を見ている。

 おそらくこれが最後のチャンスだと思い、俺は覚悟を決めて口を開いた。


「いままで隠していたが、実は俺もアンドロイドなんだ。チンコを見てもらえばすぐにわかる」


 俺が淡々と言うと、二人は意表を衝かれたように硬直した。

 だが、帽子をかぶっていた少年はすぐに冷静になったようで、呆れたようにため息をついた。


「……くだらない。時間稼ぎをしたいのか知らないけど、つくならもっとマシな嘘をつきなよ」


「でもよぉ、兄貴。このおっさんが万が一アンドロイドだったら、あたしらの取り分も倍になるんだよな?」


「こんな冴えないおじさんがアンドロイドの可能性なんて万が一にもないと思うよ。そもそも、自分から正体を明かす必要性がないじゃないか」


「どのみちお前らは俺を殺すつもりなんだろ? どうせ死ぬなら愛する者と最後まで一緒にいたいと思ったんだよ」


 俺はイオンにアイコンタクトを送りながら言った。


「……そうよ。ワタシたちはアンドロイドのカップルなの。それはもうラブラブでスゴいんだから」


 イオンが便乗して答えると、帽子の少年は冷めた目でそれを見つめた。

 彼は俺の発言をブラフだと思っているようだが、ツインテールの弟は金に目が眩んでいるようだ。


「なぁ、兄貴。どうせ約束の時間まで暇なんだし、ちょっと検査するくらいならいいんじゃねぇか」


「そこまで言うなら勝手にすれば。でも、ボクはおじさんのチンポなんか見たくないからね。どうしてもって言うなら、自分で確認するんだよ、ロジィ」


 ロジィと呼ばれたツインテールの少年は、うぇっと苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ハァ? なんであたしが……」


「言い出しっぺはロジィでしょ。そのかわり、このおじさんがアンドロイドだったらその分の懸賞金は全部ロジィにあげるよ。どう? 悪い提案じゃないと思うけど」


 ぐぬぬ、と歯がゆそうにしているロジィを見て、帽子の少年はそれをあざ笑うかのように口角を上げた。

 どうやら兄貴のほうが一枚上手のようだ。


「そこまで言うならやってやんよ。ただし、あとで分け前をせびってきても知らねぇかんな!」


 売り言葉に買い言葉で賭けに乗るつもりになったらしく、ロジィはツカツカと俺の前に来ると、両膝をついて床に座った。


「もしおっさんのアレが勃たなかったら、あたしが直々に手を下してやっから、覚悟しとけよ?」


「そんな風に脅されたら、勃つもんも勃たないだろ」


「そうだよ、ロジィ。こういうときは女の子らしく、媚びるようなことを言って男の人を立ててあげなきゃ」


「は? なんであたしがそんなこと――」


「――こんなやり取りをしてるあいだに時間がなくなっちゃうよ? せっかくの億万長者になれるチャンスなんだから、それくらいがんばりなよ」


「兄貴は外で見てるだけだからいいよなァ! ったく……」


 俺と兄貴に囃したてられたロジィは、ため息をついてから喉を鳴らすと、


「い、いやーん♡ おっさんの太くて硬いので、あたしを気持ちよくしてーん♡」


 と、甲高い声で言った。

 それがひどくわざとらしい棒読みだったので、思わず俺と兄がぷっと噴き出すと、ロジィは顔を真っ赤にして激昂した。


「やれっつーからやってやったんだろうが! 気に食わねぇなら、テメーの右手でシゴきやがれ!」


 ロジィはそう言うと、俺の手についていた縄をナイフでちょん切った。

 願ってもない提案だったので、俺は言われたとおりズボンに手を突っこんで、股間をまさぐるフリをしてから、ロジィを見てうなずいた。


「よし、準備はできたぞ」


「いいんだな? じゃあ、三つ数えたら下げるからな」


 ロジィは少し緊張した面持ちで、俺のズボンに手をかけた。


「三、二、一……」


 カウント・ダウンを終えると同時に、ロジィはずるっと勢いよく俺のズボンを下におろした。

 この場にいる全員の視線が、俺の股間に集中する。


「あ……!?」


 その瞬間を狙って、俺は目の前でひざまずいているロジィの顔に全力の膝蹴りをお見舞いした。

 ロジィはポカンとしたまま、鼻から血を噴きだして後方に倒れる。

 

「よくも!」


 それを見ていた帽子の少年はあわててスタンガンを手に取ろうとしていたが、俺はそれよりも早く、近くにあった酒瓶をフルスイングで投擲した。

 少年の額に酒瓶が直撃し、彼がひるんでいるあいだにタックルをかましてそのまま馬乗りの体勢になる。


「大人しく降参しろ!」


 俺が帽子の少年とスタンガンを取りあっていると、横で倒れていたロジィがガバッと起きあがり、


「誰がするか、バーカ!」


 と言って、俺の剥きだしになった急所に噛みついてきた。


「ぐああぁっ!?」


 あまりの痛みで理性の糸が切れてしまった俺は、ロジィの顔に全力のグーパンをかまし、帽子の少年の顔がボコボコになるまで殴りつづけた。

 そして二人が完全に動かなくなったところで、俺はようやく我に返り、肩で息を切らしながら立ちあがった。


「はぁっ、はぁっ……。お世辞にも綺麗な勝ち方とは言えないが、ひとまずなんとかなったようだな」


「でもアナタ、おちんちんが……」


 俺の股ぐらから流れだす血を見て、亀甲縛りにされていたイオンが不安そうな声をあげた。

 幸いにも首の皮一枚繋がったようだが、血はとめどなく流れている。


「止血は家に帰ってからでいいだろう。とにかくここを出るぞ、イオン」


 俺は痛みに悶絶しながらも、イオンの体を縛りあげているロープを解こうとした。

 だが、全身を硬く縛られているせいで、なかなかほどけそうにない。

 てまどっているうちに、壁にかかっていた古時計が、ゴーンと午前零時の鐘の音を鳴らした。 


「ごめんくださーい」


 ちょうどそのとき、ドンドンドン。と店の入り口をノックする音が聞こえてきた。

 兄弟が話していた借金の取立人とやらが、とうとうこの店にやって来たようだ。


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