7-1話 町に入る前に一波乱?
昨晩のユウキの暴走による騒がしい夜から一夜を開けた朝、4人は次の町に向かうために再び歩き出していた。
昨日の事もあってか口数はとても少なく、あまり良い空気ではない。
しかし、そんな重い空気の中、文の大きな欠伸が良く聞こえてきた。
「ふわぁ……ねむいぃ……」
大きな欠伸をした文はメガネを外しては目を擦り、とても眠たそうだ。
寝不足なのか脳が働いていないのか、彼女はまともに目が開いておらず、よたよたと歩いて少し危なっかしい。
「フミさんどうしたのですか? なんかすごく眠そうですけど」
システィアが心配そうな顔をして文に話しかける。
「いや、昨日あまり寝れなくって……」
「もしかして私がイビキかいてたり、寝相悪かったりした? それで寝れなかったとか……」
そんな文を見てか、クロエルはシュンとしてそう言う。
昨日、ユウキの家に泊めてもらったクロエルであったが、昨晩は文と一緒の部屋で寝ていた。
そのため、文が寝不足なのは一緒の部屋で寝ていた自分のせいなのではないか、と思い申し訳なさそうにしているようだ。
「そ、そんなことないよ……」
そんな申し訳なさそうにするクロエルの心配事を否定する文であったが、勿論原因は彼にあった。
といっても彼の言うようにイビキや寝相のせいではない。
狭い部屋の中で彼と一緒に寝ていたこと、それ自体が原因だった。
見た目は女の子だが、クロエルは一応男の子。
一緒の部屋で同い年の男の子と寝るなんて経験もない文にとっては、それだけで緊張してまともに寝れなかったのだ。
そんなことで寝不足だなんて恥ずかしくて言えない。
しかも、クロエルは全く意識しておらず熟睡していたようだったため尚のことだ。
「そうなの? でも、あんまりふらふらしてると危ないし私と手繋ご?」
そんな文の心境を知りもしないクロエルはそう言って文に手を差し伸べる。
「う、うん、ありがとう……くーちゃん……」
初めて男の子と手をつなぐことに意識しそうな文だが、自分と違ってそんなことを全く気にしていないクロエルを見て、気にしている自分がなんだか馬鹿らしくなる。
とはいえ、やはり多少気になってしまったのか、少し顔を赤くしながらクロエルの手を取っていた。
そして、その一方先頭を歩いていたユウキはというと、手をつないでいる二人を横目でにらみながら
(ああああああああああああ!!!
ふーちゃんと野郎が妙に仲良くしているのを見ると妙に腹がたつ!
なんで……なんでその可愛いおててで握られているのが私の手じゃないのよ!
私の方があの子と長く濃厚な時間(4日間)過ごしているのに、なんでぽっと出のあいつが手をつないでいるのよ!)
昨日と違って声を荒げたりはしなかったが、ユウキは内心でクロエルに対して再度ブチギレていた。
ちなみに今朝、目を覚ましたユウキが再び暴れると思いきや意外と大人しかったのだが、リビングで全員揃った時はひたすらクロエルを睨みつけながら朝食を取っていた。
やはりクロエルに対する敵対心は相変わらずのようだ。
そんなユウキを見かねてか、システィアが
「あ、ユウさん! ほら、街が見えてきましたよ!」
ユウキの視線を逸らせるように前方を指しながら言う。
彼女の指さす方向には、まだ少し遠くではあるが町の門が見えてきていた。
あと数分歩けば着くくらいの距離である。
(まぁ……あとちょっとの辛抱か……
もうすぐ町に着く
そこでこの女装野郎とはお別れよ)
文とクロエルが手をつないでいることに怒り狂いそうになっていたユウキであったが、町に着いたらクロエルと別れることができることを考えて、なんとか怒りを抑え込んでいた。
♢♢♢♢♢
そして数分経った頃、4人は町の入り口に着いた。
「ふーみん、町についたよ」
クロエルは今にも眠りそう……というか、ほとんど眠っている文の身体をゆすって起こそうとする。
しかし、ゆすられた文は『う~ん……』と小さく声をあげるだけであまり目が覚める様子がない。
そんな起きない文にため息を吐き、クロエルは再びゆすろうとしたが
パシッ!
その時、何かがはたかれるような音が鳴った。
「いたっ!」
そして、その音と同時にクロエルの手に痛みが走る。
音の正体はユウキがクロエルの手をはたいた音であった。
何故はたかれたのかわからずに困惑した表情をしているクロエルに対して、ユウキはニコリと笑いかけ、
「じゃあね~クロ。あんたのお願い通り”町に着くまで一緒に行動”してあげたわよ。ということでここからは別行動だから」
とだけ言って、文の手を取ったまま町に入ろうとする。
その態度はとても勇者とは思えない程の冷徹なものであった。
「ちょ……ちょっと待ってくださいよユウさん! クロさんも行くあてがないみたいですし、もう少し一緒にいてあげてもいいのではないですか? こうして一緒に町にきたのですから」
だが、そんなあまりにも冷たい態度を取るユウキをシスティアは呼び止める。
今までシスターらしいことをしていた覚えがない彼女であるが、行く当てのないクロエルのことを心配するほどには慈悲深いようだ。
しかし、そんな優しい彼女に対してユウキの態度は変わらない。
「そんなことしなくてもいいわよ。一晩泊めてあげただけでも感謝して欲しいわね。最初から男だって知ってたら一緒に行動なんてしていなかったもの」
「確かに男の子であることを隠してはいましたけど別にクロさんが私達に何かしたわけではないじゃないですか! それに、どうしてユウさんは男性の方をそんなに嫌うのですか?」
「……何? シス、私のトラウマを引き出そうとしているの?」
「い、いえ……そんなつもりは……」
ユウキから“トラウマ”という言葉が出る。
何かはわからないが、ユウキには男がらみで嫌な過去があるようだ。
システィアはまずいことを聞いてしまった、と思い口をつぐんでしまった。
「それ以上言うことないならこの女装野郎とはお別れよ。さ、行くわよ」
「し、しかし……」
システィアはあまりにも冷徹なユウキをなんとか説得しようとするが、何か言おうと思っても言葉がでない。
システィアが必死に説得の言葉を考えるている時、
「あー……やっと町についたぜ」
「俺達ボロボロだな……クソ! これも全部あの魔導師のせいだ……!」
「もし今度見つけたら痛めつけてやろうぜ」
と、3人の男達がユウキ達と同じように町に入ろうとしていた。
男たちは何故か疲れきった表情をしてぼろぼろだ。
「げぇっ! や、やばっ!」
その3人組を見たクロエルは慌てた様子でシスティアの後ろに回り3人組からみえないように隠れる。
「ど、どうしたのですか? クロさん」
「ごめん! ちょっと隠れさせて!」
町に入ろうとしている3人組とクロエルが慌てていることが関連しているのかはわからないシスティアであったが、とりあえず彼を背中に隠したまま男達が過ぎるのを待つ。
「ん? あのピンク色の髪は……」
だが、男の1人がシスティアの方を見てそう言った。
システィアの後ろに隠れたクロエルであったが、その特徴的なツインテールがシスティアの身体からはみ出て隠れ切れていなかったのだ。
それに気づいた男の1人がシスティアの後ろに回り覗く。
すると、クロエルと男の視線がばっちりあってしまった。
「は、はじめましてー……こんにちはー……」
クロエルは必至に作り笑いをして目があった男に話しかける。
しかし、男は
「ああああああ! クロエルじゃねぇか!」
と、大きな声ではっきりとクロエルの名をあげた。
クロエルは『はじめまして』と言っていたが、どうやらこの男と知り合いのようだ。





