5-1話 こころぴょんぴょん?
「うぅぅぅぅ……なんで早く助けてくれなかったのぉ……」
スライムにぬめぬめにされた文は地面に膝をついてユウキとシスティアを睨みつけている。
スライムの群れに絡まれていたところを結局ユウキに助けてもらったのだが、彼女は襲われている間、システィアとくだらない雑談をしていたため、ピンチになった文を助けるのに無駄に時間が経っていたのだ。
「い、いや~スライム達と戯れてるのかな~と思って」
「そんな訳ないでしょ!! 私があんな目にあってるのに放っておくとかどうかしてるよ!!」
そんな助けるのに遅れた二人に対して文は今までにないほど、キレていた。
「さっきのはたまたまだって! 次は勝てるよ!」
「そ、そうですよ! だからそう拗ねないでくださいよ〜」
「もう聞かない! 私、もう二度と魔物と戦わない!!」
ユウキとシスティアの二人は再び文をなだめるが、二度もスライムに敗北を味わった文はプイッとそっぽを向いて二人の話に聞く耳を持たなかった。
それも無理はない。
ただ負ける屈辱だけでなく恥辱を味わってしまうのだから……
ユウキとシスティアは彼女励まそうと言葉を投げるが、彼女は相変わらず拗ねている様子。
そんな3人の問答がしばらく続いた時、
ガサッ
と、近くの草むらが揺れる音がした。
「ひぃっ!」
その音を聞いた文はすぐさま二人の後ろに回って隠れる。
先ほどのスライムのこともあったためか、魔物に対しての警戒心が、より激しくなり、ビクビクしている様子はまるで子犬のようだ。
しかし、草むらから出てきたその生き物を見た途端、文の表情が急変した。
「何あれ!? ウサギ!?」
そう、草むらからヒョッコリと出てきたのはウサギのような生き物であったのだ。
文は目をキラキラさせて、目の前の生き物を見つめる。
動物が好きなのか、可愛い物が好きなのか、とにかく先ほどまでの不機嫌な態度が嘘のように消えていた。
「えーっと……あれはホルロップっていうウサギのような魔物だね。穴を掘るために手足が発達してるんだって」
例の端末の画面とウサギっぽい生き物を交互に見合わせるとそう言う。
たしかに、その生き物は普通のウサギと違って手足が多少大きい。
「え゛? 魔物?」
先ほどまで興味深々だった文であったが、『魔物』という単語を聞いて表情が凍り付く。
やはり、今までの出来事から、その単語にトラウマを感じているようだ。
「いやいや! ほぼほぼ無害な魔物だよ! 基本的に臆病で襲ってくることはないんだって」
せっかく機嫌が良くなりそうだったのに、一瞬にしてまた絶望しそうな表情をしていた彼女の反応を見てか、ユウキは目の前の生き物に害がないことを説明する。
「そうなの? ぬるぬるにされない?」
「されないされない!」
心配する点が少し変な気はするが、ユウキの説明を聞いた文はホッと息をついた。
安心したところで、再び、そのウサギのような魔物に視線を戻すと、魔物は道の草をモシャモシャと食べていた。
その草を頬張る仕草がとても愛らしい。
「何あれ……何あれ何あれぇ!」
その魔物の見た目に虜になった彼女はテンションが上がりすぎたのか、語彙力が消し飛び、はたから見たら何を言っているか分からない。
「確かに可愛い見た目の魔物ですねぇ」
「それな! すっごい可愛いいいいいいい!!」
文は普段とは違い、激しい口調でシスティアに同調をする。
そして、魔物に対して可愛い可愛いと連呼しているそんな彼女を見てピンときたユウキは
「ふーちゃんも可愛いけどね☆」
と、ドヤ顔でここぞとばかりに褒める。
「ねぇ! あのウサギちゃんモフってもいい⁉︎」
「お願いだから無視はしないで」
しかし、興奮しているためか、ユウキのセリフを完全に無視し、鼻息を荒くして目の前の魔物に興味津々だ。
「うーん……基本的に襲われることはないから大丈夫だと思うけど……」
「やったぁ!!」
「あ、ちょっと! ふーちゃん!」
文は最後まで話を聞かずにその魔物に向かって駆けていく。
目の前の魔物は、文を見るなり逃げるかと思いきや、魔物も彼女の元にとことこ歩いていった。
「あ〜すっごいもふもふしてるぅ!」
文は魔物を抱き上げ、そのやわらかい毛並みを堪能する。
変態2人との旅で積み上げられた疲れを癒しているかのようであった。
そして、何かを言いかけたユウキも、その様子を見て、『今言うことでもないか……』と言いかけた言葉を呑み込んだ。
「フミさんすごく楽しそうですね」
「うん、あそこまでの笑顔今まで見たことないんだけど……」
一応出会って3日程だが、その魔物と比べたら長い時間一緒にいるはずなのに、彼女の満面の笑みを見せられたことのないユウキは嫉妬のような感情を抱く。
しかし、そんなことを知る由もない文は構わずにスキンシップを続ける。
「あ……やだー、もー」
しばらく、魔物とのふれあいをしていると、魔物も文に懐いたのか、彼女の胸に頭を寄せて頬ずりをする。
しかし、彼女は懐かれていることに満更でもないようで、構わずに魔物を抱いて撫でていた。
一人と一匹は完全にリラックスしており、普通であれば微笑ましい光景なのだろう。
だが、その光景を見ていたユウキは魔物に対する嫉妬心が膨れ上がり、顔を引きつらせる。
「ねぇ……あの魔物、ふーちゃんにベタベタしすぎじゃない?」
「うーん、別にフミさんが気にしてないのであれば良いのでは? というかユウさんも似たようなことをやってるじゃないですか」
「私のは愛のあるふれあいだからいいのよ」
「ふれあいというか……ユウさんが一方的に触れているだけのような気がするのですが……」
都合の悪いことをシスティアにツッコまれ、ユウキは無視して再び文と魔物に視線を向ける。
「も〜、エッチな子だな〜」
今度はいつの間にか文のスカートの下にそいつは潜り込んでいた。
しかし、そんなことをされても、魔物にデレデレな彼女は何をされても叱らない。
スカートの下に潜り込んだそれを再び抱きかかえてナデナデする。
だが、その一方で、関係ないはずのユウキはその光景を見て鬼のような形相をしていた。
「今日の夕食は兎肉ね」
我慢の限界を超えたのか、彼女は剣の柄に手をかける。
私がやったらボコボコにされるようなことをいとも簡単に……この、エロ魔物が……!
そんな思いを秘めながら、戯れている文と魔物の元までゆっくり歩みを進める。
「落ち着いてください! ユウさん!」
一応まだ危害を加えていない魔物に殺意満々のユウキをシスティアが止める。
「離しなさい! ふーちゃんのおっぱいやパンツは私の物よ!!」
思考がやられているのか意味のわからない発言をするユウキ。
だが、今にも剣を抜いて振り回しそうな迫力があるのが伝わってくる。
そして、そんな殺意を感じ取ったのか魔物は文の元からピョンと跳ねて逃げ出していった。
「あ……待って! まだモフり足りないの!」
そして、それを追っていく文。
走っていく彼女を見て、言いかけた言葉を思い出したユウキは、ハッとなり、
「あ! むやみに動かないでふーちゃん! そいつの周りにはーー」
と、忠告しようとする。
しかし、その忠告を言い切る前だった。
ズボォッ!
と、地面が崩れる音が鳴り、文の下半身が急に地面に埋まる。
「落とし穴が仕掛けられてることがあるから気を付けて!」
「もう少し早く言ってよ!!」





