王様達のその後
帝国は、小さな町になった。
住民が1000人程度では、その規模が「適正」だからだ。
配置オブジェクト「世界樹大森林」や「霊峰」といった高コストなものは全て撤去され、「恵みの山林」「水源豊かな平原」「穏やかな小川」といった使いやすく設置コストの小さいオブジェクトを中心に土地を広げている。
これまでの経験から食糧自給率その他を考慮し、バランス良く国が作られている。
「陛下、物資の分配が終わりました。
それと、こちらが今後必要とされるものになります」
上に元が付くけど、皇帝であった僕の仕事はこれまでと変わらない。
ただし陛下と呼ばれながらも処理する仕事の量はこれまでの10分の1以下になり、穏やかな日々を過ごしている。
あの帝国は日本にいた頃に聞いた官僚組織の構築って奴がどれだけ未熟だったのかと、痛感する毎日だ。
言い訳をさせてもらえるなら、そのための人手がなかったんだよと、まだ作りかけだったんだよと言わせて欲しい。
官僚機構を作るのだって、一朝一夕じゃ済まないのだから。
「陛下、こちらの資料のまとめが終わりました」
「ワタクシの分も終わりですわ」
仕事の量が減った理由の一つは、寵姫だった彼女らの手柄でもある。
これまでの仕事のみならず、僕の仕事を肩代わりしてくれるようになったのだ。
元々、寵姫の役目は「国王・皇帝の癒やしであること」だった。主に話し相手や相談相手で、性的なものも業務に含む。
僕の多忙さ、責任の重さを一番理解してくれたのは彼女たちだろう。
だから帝国崩壊に「自分たちがもっとしっかり僕を支えていれば」という後悔を抱えており、今はこうやって書類作業の手伝いをしてくれる。
「お茶をお持ちしました。もう休憩のお時間ですよ」
仕事が一段落した頃を見計らい、女中の一人が人数分のお茶を持ってきた。
みんなで一緒に休憩をする。
「それにしても。不便にはなりましたが、楽にもなりましたね」
「ええ。物資が有り余るほどあるのは助かりますね。
しばらくは畑からの収入が見込めませんし、陛下の『貯蔵庫』が機能してくれて助かりました」
『貯蔵庫』は無限に物資をため込める、ゲーム時代と変わらず使える僕の能力だ。
ここに入れている間は時間経過を気にしなくても良くなるから、食べ物を腐らせること無く、いつまでも仕舞っておける。まさにチートな能力だ。
なお、国をリセットした際に、国にあったあらゆる物資がここに仕舞われた。
衣類についてはなぜか粗末な貫頭衣に切り替わっていたので事故は起きていない。
「でも、皆さんはどこに行ったのでしょうね?」
「さあ?」
話をしていると、僕から離れていった者たちが話題に上がった。
どこかに消えてしまった皆だけど、その行方について僕が知ることは無い。僕の把握能力は国の中に限定されるんだ。しかも対象が身内のみ。
ゲームのままであれば「消えたんだよ」と言うことが出来るけど、現実化したんだからそれ以外の展開があるかもしれない。
案外、パラレルワールドになった帝国で頑張っているかもしれないね。
そんな予想をすれば、会話に参加していた者たちは二分化する。
仲間だったのだからと心配している娘と、裏切り者だからと憤りを感じている娘だ。
僕はどちらかというと、無関心。
離れていった人とまた顔を合わせることが無いと嬉しいなって思うぐらいだ。
だって、会うと気まずいだろうし。
「ほんと、あいつら無責任ですよね。陛下にも責はあるでしょうが、あいつらだって国の重役だったんですよ。相応の責を負うのが当然じゃ無いですか!
なのに陛下一人を悪者にして「自分たちならもっと上手くやる」なんて態度で!
これまで陛下にどれだけ助けられてきたのかを忘れる恩知らずですよ!!」
特に怒っているのは、寵姫の中でも最も幼い姿をした「芽有里」だ。
ゲーム時代は本当にそういう事をするなんて考えずに外見を選び、現実化したことで非常に困ってしまった娘さんでもある。元気なロリっ子である。
一応、この数年で少しは成長を――しなかったので、彼女はずっとこのままだろう。一応、胸と腰回りは身長に見合わぬモノを持たせてあるよ。
今は元仲間の非道を、拳を握って力説している。
「やってみなければ分からないこともありますし、やった結果を見ないことには語れないものもありますわ。
あの方達が陛下の出した結果を語るのであれば、あの方達の出した結果を見て我々も語れば良いのです。
そういう意味では、あの方達は最善に近い結果を出しましたわ。陛下は、今の生活の方が幸せそうですし。私は出て行ってくれたことに感謝したい気分ですの」
逆に彼らを恨んでいないのは、和風お姉さんタイプでデザインされた「瑠璃」だ。
着物が似合う和風美人を目指したので、お姉さんタイプにしてはどこがとは言わないが意外と平らなんだけどね。
髪を簪でまとめているので、うなじがとてもセクシーです、はい。ダカラナンノモンダイモナイヨ。
瑠璃は芽有里を宥め賺し、場の空気が悪くならないように努めている。
国王と寵姫と女中がテーブルを囲む。
本来であれば王と彼女たちはここまで距離を詰めることをしないんだけどね。
ただ、それでストレスを感じるのであれば僕らだけのローカルルールでやっちゃえと、休憩時間は無礼講と法で定めた。今は僕が法律なのだ。皆も反対しない。
この穏やかな日々が続けば良いとは思うけど。
「そう言えば、陛下。今日の順番をまだ聞いていませんが」
女中の台詞で、場の空気が凍った。
「あ! 決めてないなら私の所に!」
「あらあら。陛下、私の所にも来てくださいますよね?」
水面下どころか目に見えるところで女の戦いが始まる。
次期王妃の座を巡り、互いが牽制し合う。
早く決めた方が良いのは分かるんだけどね。元皇妃に捨てられたばかりだし。すぐに結婚しようって気にはならないんだよ。
僕が心から落ち着けるようになるには、もう少し時間がかかりそうである。