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3つの王のしるし  作者: わだん
森の生活
9/23

森の長老

やっと出したかった獣が出てきました。

起きると、さも恐ろしげな嘴が見えた。

オーノは濡れたように黒く光る嘴を撫でながら上体を起こす。

太陽は頂点を少し過ぎて大気が暖かくなっていた。雪が溶け濡れた地面に緑の小さな芽を揺らす春が見え隠れする。


「うーぅ寝た気がしねえ。体は休めたが頭が疲れた。でも少し起こすのが早かったよ。なあ、アーガ」


立ち上がって服の乾き具合をみた。乾いている物から身に付けていく。

下履をはいて前で締める、上身の肌着は前でかき合わせ、下身の肌着の紐で上身の布も押さえるように締める。次に股上が深いズボンをはいてだいぶ余る丈を腰の紐を締める位置で調整した。ズボンの裾は上から足帯で巻く。

そのあとシャツを被って着て首もとのボタンを首の上まで締めた。

もうひとつの少し厚手のシャツは未だ少し濡れている。一番外側に着る長いチョッキと一緒に乾いた岩の上にずらした。


どの服も色褪せて使い古されている。だけど布地は強く縫製はしっかりとしていて継ぎはぎは無い、街の孤児達と比べるとよほどいい服だ。

オーノは糸を自分で作っている。ここまで揃えるのは大変だったがこの糸で作った生地をエールに渡して、服を作ってもらっていた。ボタンや中のワタはエール任せだけれど。

糸の製法は特殊でオーノのオリジナルだ。オーノは街で糸を売って少しの金を得ていた。


「まだ少し寒いけど動けるようになったな。アーガ、翼の調子はどうだ?長老のところに行って診てもらおう。あのでっかい蛇の事も聞きたいしな」


この温泉地は非戦闘区域だ。この温泉地は色んな動物も魔獣も利用する。日常では食べる側の動物たちもこの付近で捕食する事は一切無かった。それはこの森に住む生物たちのルールの一つ。この温泉地に住むこの森の長老によって決められたルールの一つだからだ。


長老はおよそ500年を生きるナウリーニだ。ナウリーニは穏やかな性格で力も強く、いざという時は食料にもなる家畜に向いた動物だ。通常寿命は15~25とされるが長老は突然変異か、いつ頃からか老いるのが遅くなったらしい。

それだけじゃなく体も大きくなっていき、力も付いた。いつの間にかこの森で力の頂点の一柱となっていて、森の意志とも呼ばれていた。

120年を過ぎた頃、人の言葉が喋れるようになったらしい。何と長老は海向こうの国と山向こうの国とこの国の3ヵ国語を話せるインテリだ。しかも自国語への造詣が深く古代の文字や言葉も知っていた。昔、旅の歴史家が教えてくれたそうだ。

一度なぜそんなに学んだのかを問うと、笑って答えてくれた

『人の言葉は知っていても特に役に立たんよ。面白いがね。我の趣味だのう』

ようするに暇なのだと笑う彼に、色んな動物が寄って来るのを見て、オーノは尊敬の念を覚えた。


長老の昔話はいつも面白い。その話がお伽噺か昔話か創作か分からないほどめちゃくちゃに入り混ぜて話してくれる。つまりいい意味でも悪い意味でも適当なのだが、いつもいつの間にか聞き入ってしまう。

彼が博識であることも話を面白くする要因の一つで植物や動物その他の事もよく知っていた。

なのでオーノは変わった大蛇の事を聞いてみようと思ったのだ。


オーノは川を上流の方に歩いていく、やがて小高い岩山に当たりそれを川の方にかわす。すると岩が屋根のように出っ張って雨が当たりにくくなった道が続く。長い時間をかけて川が削ってできた道だ。自然が作り出した回廊を歩いていくと間欠泉からお湯が噴く音がした。

回廊の角を曲がると少し開けた、岩と樹の根の壁に囲まれた場所に出る。上から見たら大きな穴に見えるだろう。壁の高さは大人が10人ほどの高さだ。広場の真ん中辺りで勢いをなくした湯が背を小さくしていくのがみえた。霧散した水と湯気に太陽の光が当たり幻想的な風景を作っている。

オーノは広場の奥の小山のような紺色の毛玉に近づいていく。

小山の横には、干し草や乾燥された木の実などが、ちょんと置かれている。ちょうど木鼠が根っこを駆け降りて新しい黄色い木の実を置こうとしていた。

それを見ていたニーヨルはオーノが近付いてくるのに気付いたのか、耳をピルピル動かして黒い真ん丸の目を向けてきた。

その瞳にオーノの後ろにいるアーガの姿が映っても、少し身動ぎしただけで、その場に座り続けた。


「こんにちは、長老。お久し振りです」

「おう。オーノか久しいな。一冬来なかったが・・・あぁ今年はアーガといたか。どちらも息災か」

「ホルルー」

「ホルルじゃないよお前。長老、凍らずの湖でアーガが蛇に巻き付かれて翼を痛めたんです。診てくれませんか」

「おお、どれ。よいしょっと。しかしアーガに巻き付くほどデカい蛇か?めずらしいな」

「オレも初めて見る柄だったから、それも聞きたかったんです」


アーガが寄っていき、長老が身動ぎすると、近くで座っていたニーヨルが場所を空けるように立ち退いた。

長老がアーガに鼻を向け、翼の付け根辺りに顔を近づける。

アーガも知らない蛇だったらしく、診てもらいながら首を振っている


「色は青よりの緑で、柄が木の年輪みたいな。一つ一つが大柄で結構綺麗なんですけど」

「何と!それは!チィタノボウラじゃないか?南の大陸の砂漠の国がまだ緑の濃い亜熱帯だった頃からいる太古の姿のままの蛇じゃ。昔の遺跡で神の化身として描かれている事もあるそうじゃ。見て確かめたい。よし、湖だな?」


長老はいきなりからだの方向を変え、ひょっこのっこ歩き出した。今まで診てもらっていたアーガはキョトンとしている


「え、ちょうろ・・・」

「歴史家が言うにはな、非常に長寿の種でな、その肉を食うと不老になれると信じられていたらしい。だから少し時間が下った時代には神への供物として奉納されるもんだったそうだが、ある時の王が驕って食べたのを皮切りに乱獲が始まったんじゃよ」


長老の背中からため息混じりの声がする。


「長寿だが、生殖能力は低かったらしくあっという間に姿が見えなくなったそうだ」

「長老、待ってください!」

「ん?一緒にくるか?」

「いえ、そうではなく、あのー」


そんな事情を聞いてしまうとなかなか言いにくいのだが、オーノは長老を落胆させる報告をしないといけない。


「あの、その蛇はもう湖にいません。えーと。闘って俺たちが勝ったので」

「なにっ。傷を負わせて逃げられたか?・・・そうか、気が荒くなって被害がでるかも知れんな。まあそれも自然であればやむ無しか」

「いえ、えーと。闘って勝ったので食べました」

「え?」

「だから生きてる蛇は、もういなくて・・」

「なんじゃとーー!?生きる化石を食っただと!歴史家さえなかなか生きとる奴とは会えんと言うとったのに!」


長老は驚き叫ぶと、怒っているというより茫然として肩を落とし、小山のような体がへなへなと小さくなっていくように見えた。


「文献によると優しく争いを好まぬものはある日姿を変え、白金に輝き生えた手に玉を抱き水を操り恵みを与えるようになると・・・その本をもった歴史家の顔は楽しげでのう、くうう見せたかったのう。我もみたかった・・・」

「池に入ったらいきなり食らいついてきたので争いを避けてるようには見えなかったですよ」

「なに?この時期に池に入ったのか?いったい何をしておるんだお前たちは」


少しショックが去ったのか、長老は息を吐きつつアーガの近くに戻り診療の続きをしてくれた。


「羽を広げて少し揺らして見てくれ」

「ホルル」

「フム。大丈夫そうだな。腫れも熱も持ってない。明日には普通に飛べるだろう」

「よかった。池から温泉まで飛べたから酷くないとは思ってたんですが、安心しました」

「うん。おぬしの家族同然だからの。さてオーノ、チィタノボウラのことをもう少し話してくれ。外国のモノが入って来ているなど初耳だったからの」


オーノは長老に池での事とどうやって倒したかを話した。

アーガも途中何度か声を出す。長老はどちらの声にも頷き聞き入った。


「それにしても、アーガはそのうち人語を話しそうじゃの」

「えっ」

「今もオーノと我の言葉を理解しとるし、我もずっと人語しか使ってなかったじゃろ?」

「あ、本当だ」

「鳥には人に近い声帯を持つものもいる。理解しておるなら我より早く話せるようになるかもの」

「ホルル。オーノー」

「アーガ!お前すごいなっ」

「ふっふ。じゃあそれはいいとして、チィタノボウラの遺骸を見せてもらおうかの、湖で食べたのではあるまい?ギリギリルール違反じゃが温泉地帯で食べたんじゃろ?」


指摘され、オーノはうっと言葉につまる。アーガが助けるようにホルルと声をあげた。


「ごめんなさい。どうしても寒くて。先に温泉地帯に来たかったんです」

「まあ食べたのもアーガだけだったようだし、薬以外アーガがやったことだしな、アーガはお前を助けたかったのだし。うーん責め難いがのう」

「罰はうけます」

「フム、じゃあ背中を流してもらうかの。じゃあ行くぞ」


長老はひょっこのっこ歩き出す。アーガはその先を歩き案内してくれるようだ。

オーノは2匹のでっかい背中を見ながらため息が出た。

「軽そうな罰だけど、結構重労働だよ・・・」

少な目の投稿ですが楽しめてもらえたら嬉しいです。

長老はエールより先に構想してましたが登場があとになってしまいました。


忘年会で弾けすぎて二日酔いで死ぬかと思いました。1日経っても酒が抜けないのは初めて。胃の不調はもう少し続きそう。

それより何より、迷惑を掛けまくったわけで、人間関係が心配すぎます。

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