‐第4話‐ 逃亡
「いつもキミたちは相変わらずジャマしてくるようだね・・・。なぜそんなにボクを狙うんだい?」
珍しく表情を著しく変えた男が問いただす。ここまで平静を崩されるとは、どうやら因縁の関係らしい。唇を噛みただならぬ殺意が感じられる。
「ごまかしても無駄よ。あなたが悪魔教史上最強の悪魔を復活させようとしているのは私たちでも知っていることよ。それに、天族の生贄を使ってね。」
「感がいいねぇ、隠してもムダってやつだね?」
そういうと男はこちらを振り向き、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて見せる。その表情の下に何を隠しているのか、僕には全く理解できなかった。
「紹介が遅れたわね。私の名前はサキ。隣の静かな子がエリナよ。ワケあってあなた達を助けに来たんだけど・・・」
そういうとサキと名乗る女性は男のほうを横目で一度確認し、僕に話を続ける。
「詳しい話は後ね、今は安全なところに避難して!」
そういい指を刺した方向には比較的安全な街の方向だった。何度か買い出しに街に行ったことがあるので道は覚えていた。2人が時間を稼いでいる間の今しか逃げる時間はない。
ありがとう、と小さく呟きとっさにユメを担ぎ街に急ぐことにした。背後で何やら魔法の飛び交う音や轟音が聞こえたが、振り向かず前へと進んだ。自分を助けてくれた見ず知らずの2人を置いて、振り向くことなんて僕にはできなかった。
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「こんな所で生贄'達'を逃がすワケにはいかないんだ。5分だ、5分だけ相手をしてあげるよ。」
「なら、悪いけど一撃で決めさせてもらうわ!!」
'奴'を倒すなら、一撃で仕留めるしかない。相手はかなりの力を持っているのは知っていた。だがこの程度なら私の封印魔術で力を封じ込めることくらいなら出来るかもしれない。悪魔との契約を行っている者なら封印呪文は特攻のはずだ。
杖を前に掲げ、呪文の詠唱を始めた。
「魔境ノ神域 私の世界で封印されなさい!」
杖の正面から薄紫の結界印が放たれ、奴の四方を囲んだ。城仙の士官学校で学んだ術だ。そう簡単に敗れるわけがない。
思惑どうり奴の動きが鈍り、封印完了の一歩手前であるスロウの前兆が見られた。
「グアアアアッ!! この・・・ボクがッ・・・。こんなところで封印されるなんて・・・。」
奴は苦しそうに首をおさえ、こちらに手を伸ばしている。隣にいるエリナと目を合わせ封印できたか、と安堵していた。 が、その時だった。
「・・・なぁんてね。この程度の術じゃ僕は封印できないよ。」
「そんなっ!封印魔術が効かないなんて!」
「なにか・・・。おかしい・・・と思う。」
と、静かにエリナが呟く。悪魔との契約を行っている者なら、封印呪文は特攻のはず!封印呪文が効かないなんて・・・。まさかっ・・・!
「どうして効かないの?ってカオしてるね。このカラクリを教えてあげようか? 僕はね、悪魔教の最高司教にして悪魔との契約は行ってないんだ。なぜかって?」
そういうと奴は得意げな顔でこう答えた。
「僕が契約しているのは、悪魔じゃない。大天使『ミカエル』なのさ!」
ありえない。悪魔教が天使と契約してる?しかも最高司教が?
本来なら契約というものは、その契約した『神』の力を一時的に借り、その代償として生命力を捧げるもの。強ければ強いほど生命力を捧げることになる。大天使ミカエルは代償が大きく、常人なら1日と生命が持たない。奴は一体・・・何者なの!?
思わぬ展開に混乱していると、男は切羽詰まったように話を続けた。
「もう終わりなら悪いけどもう終わらせてもらうよ?」
そういうと男はニヤリと笑い、呪文を唱えた。
「贖罪なる裁き 罪あるモノに裁きを!!」
男が呪文を唱えると目の前が突如真っ暗になった。深夜のように暗く、だが光源が一切無い。無限に闇が広がっている。隣にいたはずのエリナの姿もない。贖罪なる裁き・・・。間違いない、世界隔離魔法だ。この場にいたエリナを含める生命体が、個々の別世界へと誘ったのだ。この呪文自体負担が大きいから、隔離されるのは一時的なはず。
奴が私たちを隔離した理由。それは天族である'二人'を生贄にするためだ。世界が隔離されていては私たちは何もできない。2人を助けに来たはずなのに、助けを待つ側になってしまった自分の愚かさに気付いた。
ただただ、何もできない空間の中、少年達の無事を願うばかりだった。