37話 住人問題と国内警察
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「お前の国のせいで俺は奴隷に落ちた! 家族も死んだ!」
「言いがかり言ってるんじゃないわよ! 私の家族は家族全員あなたの国に奴隷として捕まったのよ!」
「暴れてんじゃない! そもそもどっちもうちの国を襲っているだろう。俺らに感謝しろ!」
奴隷や移民が多いマリジアだが、マリジア人は比較的移民に対して寛容であり、友好関係にあるトラジアはもちろん、戦争の引き金となったフィージア、ラムザの件で揉めているシニジアであってもマリジアで受け入れる以上はマリジア人としてもともとマリジアにいた国民と同じように扱っていた。
しかし、まったく争いが無いわけではない。
もともと第2次ジア戦争以降、シニジア人とフィージア人の中は非常に悪い。
それでも以前は、フィージア人はサリウスかコロン北部、シニジア人はラムザがコロン南部に住んでいたため、直接的にマリジアでの2国民が会うことは無かった。
だが今は、ラムザが使えないため、どうしてもフィージア人とシニジア人が生活圏を一緒にしなければならないことがあったため、そのたはびに揉めていた。
また、マリジア人はかなり寛容だが、全員が受け入れているわけではない。
マリジア人を優遇すべきであるという声も聞かれたのである。
「イーサンさん、また争いがあったそうですね」
リアムがイーサンの元を尋ねていた。
イーサンはたびたび事件の対応に追われていた。
警察の役職についた人は元兵士が多く、力でとめるのは問題なかったが、話し合いということはなかなかできず、暴力で止めることに反発があった。
軍人育ちの警察のメンバーに会話力を身につけさせるのには非常に苦労していた。
その制度を設けるために、政務の側で『武器の携帯を警察以外禁ず』や『他国の人間を差別してはいけない』、『暴行による解決を禁ず』、『国籍によって、学習、就職、出世、婚姻などに弊害を起こすことを禁ず』などの多くの法律ができた。
基準となる法律がないと、仮に武力に訴えなければいけなくなった場合に、何が正しいかが分からず、単に不満をためる結果となってしまう恐れがあるからである。
武力を使って違反者を捕まえたときに、きちんとその根拠や理由があれば皆納得するので、法律が増えるたびに規制がやりやすくなっていった。
しかし、移民が増えれば増えるほど、この問題自体は増えていくため、毎日のように事件は起こっていた。
「これで今月10回目だろう。リアムさんの言うとおりだな……」
リアムはどれだけ国民性が良くなっても、1割か2割は問題を起こす国民がいるものであるとイーサンに言っていた。
「今回の問題はそこまで大きくないみたいだから、簡単な注意だけで済ましてもいい」
リアムと何度か会議し、その2割をいかに最低限に抑えるかということを意識するようにした。
今回の揉め事はフィージア人と、シニジア人の揉め事にマリジア人が入っていった感じになるが、これはあまり珍しくない。この揉めた3人の話を聞き、必要であれば移住をさせることを考えた。
3人ともおのおのでは悪くないのだが、自国が正しいという気持ちが強いため、3人をできるだけばらけさせようとし、それで問題は解決した.
この1年でややこしい問題があったとすれば、マリジア人のよるマリジア人優遇デモ、奴隷を勝手に自分の奴隷をして扱った人権問題、そしてラムザをめぐった問題である。
そのほか、窃盗、けんかなども些細なものから深刻のものまであった。
「そもそも国民によって、モラルや常識が異なるから落としどころが難しいんですよ。これが移民が多い国の問題ですね」
「それはマリジアがマリジア人以外を受け入れていく以上はずっと起こりうる問題ですから、徐々に解決していきましょう。事件そのものは減少傾向にあるわけですし」
「初めのころは、食事の問題とか、住居の問題とか常に問題だらけでしたからね。子供同士は仲いいのに何で大人が受け入れられないんでしょうか?」
「そういうものですよ、子供のほうが本質を分かっているものです」
「イーサン様、あ、リアム様もちょうどいいところに」
2人が話していると、1人の警官が入ってきて報告する、
「どうしたんだ?」
「女性が言い寄られています。今は何人かで抑えていますが、その人物がしつこいので報告に」
「ささいな事件じゃないか。それくらい対応できるだろう」
「それが……、言い寄られている女性がリア殿なんですが……」
「は?」
イーサンは大口を空けて驚いていた。
「もしよろしいければ、リアム様にも来ていただけますか?」
「私の親はトラジアでも非常に有名な富裕層だ。私を敵に回さないほうがいいぞ」
リアムとイーサンが現場にいくと、いかにも世間知らずそうな若い男性が警官何人かに抑えられながらリアを口説いていた。
「申し訳ございません。私は結婚をしておりますのであなたのお誘いを受けることはできませんわ」
「君はいくつだい?」
「16歳ですわ」
「16歳で、しかも働いているとは……。私の元にくれば労働などさせないぞ。君の夫は最低じゃないか」
「私の夫は最高の方です。働いているのも私が望んだことですわ」
「なんと可愛そうではないか。そんなに洗脳されているとは。君の夫に会わせてくれ。私が話しをつけてやろう」
「申し訳ない。最低な夫です」
「リアム様!」
リアがリアムの姿に気づくと、リアムの後ろに行って隠れる。
「君がリア殿を拘束している悪者か……、え?」
振り向きざまにリアムの姿を目に入れるとその男は停止する。
「困りますね。俺の妻に勝手に手を出されては。この件トラジアのあなたのご家族に連絡いたしましょうか? さきほど敵に回すとかなんとかおっしゃられていましたが」
「い、いえ気のせいです。失礼いたしました!」
そういって逃げ出していった。
「リアム様、ありがとうございますですわ!」
リアがリアムに抱きついて喜ぶ。
「今日も平和でいいですね」
その現場を見て、周りの人はほっこりしていた。