序章「どこかの始まりⅠ」
名前詐欺、あらすじ詐欺にならないように頑張ります。
まだ、更新期間は決めていませんが、話はしっかり考えてますのでよろしくお願いします!!
1、
少年は、愕然とした。
これほどまでに差があるのかと。
少年の前には膝を着き、体の各所から鮮血を滴らす一人の兵士。そして、その正面のいくらか距離のある場所に強者はいた。
四方全てを黄金で覆われた王の間で玉座にふんぞり返って座るその男は、全身を白銀の鎧で覆っており、まだ若々しいその青の瞳でこちらをつまらなそうに見つめていた。
「……もう止めよ。貴様の全力とやらは知れた。今更勝ち目など無かろうて」
白銀の王より発されしその一言は、少年の前の兵士へと向けられる。
兵士はピクリと身を震わせ、ゆっくりと立ち上がった。
その姿は、もはや廃棄寸前の鉄屑の如く、荒廃し生きていることすら不思議に思えるものだった。
兵士が何か口にしようとするが、穴の開いた首筋から空気が漏れるのみで声は出ない。
しかし、その音無き声は相手には届いた様子で、王はうっすらと笑みを浮かべた。
「ほぅ。そうか……。ならば、最後まで主を守り通すが良い。だが、守りきれるか否かは別だがな」
王は言うなり、指をパチリと鳴らす。
すると、瞬く間に王の間の壁という壁に掛けられた無数の宝剣、宝槍の全てが宙に浮き、一斉に兵士とその後ろに立つ少年へと切っ先を向けた。そして、みるみるうちにその一つ一つが獅子やら大蛇やらの獣へと姿を変える。
兵士もそれにあわせて足元に転がる己が愛槍を拾い構える。
王はその目を爛々とさせ、少年に言った。
「ロンギヌスのマスターよ!これより貴様の英霊の持つ神器が果てるが先か、はたまた我が神殿の魔獣武器が尽きるが先か勝負と行こうか!!」
その言葉に少年は、歯を食いしばる。
負ける。
その一言が脳裏を巡る。自分の英霊が弱いとは思わない。しかし、神器に差が有りすぎた。
あの王の持つ神器はおそらくあの宝剣宝槍の全て。それに対しこちらは、多少の神聖が込められた聖槍一本のみ。
我が英霊ロンギヌスの話によれば、異界での生前、イエスと呼ばれる神となる寸前の男を処刑した槍なのだと言っていた。つまり神殺しの槍と言っても過言では無い。しかし、それも無抵抗なイエスを処刑台にて突いたまでの槍。当然魔導的な力を持つわけではない。
そんな槍と兵士一人で、あの無数の魔導宝剣、魔導宝槍の一斉攻撃にどう勝機を見いだせと言うのだろうか。
少年は、強者を見た。魔術に心得も無く、生まれてこのかた奴隷生活を送った身でも、一目見てあの王の英霊としての強さ、偉大な神聖、強大な魔力を感じた。
しかし、挑まねばならなかった。
生きるために。
後には引けなかった。
少年は、ふと背後の扉を見た。
扉の向こうで自分の名を怒りの籠もった声で叫ぶ人々の気配を感じる。
もう逃げられない。
少年は、自らの英霊に歩み寄り静かに告げた。
「勝とう。明日の為に」
ロンギヌスは、強く頷くと主である少年を庇うようにその前に立つと真っ直ぐに王を見た。
そして――
僅か数十秒の後、
王は、その場に転がる2つの赤い塊を他愛無しと言わん目で見下ろした。
すると、片方の塊がまるで風で飛ぶ砂のような様子でキラキラとした粒子へと変わり、宙に消えて行った。
王は、ゆっくりと立ち上がり残された塊へと近づいていく。
そして、自らの背にある瑠璃色のマントを取るとその上に掛けてやり呟いた。
「……ゆっくりと眠るがいい。隷属の器」
冷淡な口調とは裏腹にどこか慈愛に満ちた感情が見え隠れするその姿は、かつて率いた軍勢の弔いをしているかのように思えた。
絶対の唄
2、
「本当にこれだけで召喚できるのか?」
「大丈夫だ。やれば分かる」
そう言ってことを急かす老人に青年はため息を付く。
「あのなぁ。いくら英霊をつけるって言われてもよ、今回の仕事は割に合わないどころかぶっ飛び過ぎてやしねぇか?」
青年の一言に老人は作業の手を止め、こちらに向き合った。
「シズルよ。お前はここの仕事を勘違いしてないか?そもそもだが、ここは報酬こそよこすもののそれ欲しさに働くような場所で無い。あくまでも善意での行動が前提なのだ。割に合わんとか言うなら、そこらの魔術ギルドに入れ。貴様の実力ならすぐに主戦力になれるし、報酬も弾む」
そんな老人の言葉に青年はフンッと鼻で笑う。
「抜かせ、じじい。そういうこと言ってんじゃねぇよ。俺が言いたいのは、人手的に相手との割に合わないって言ってんだ。今から呼ぶ英霊さんがどんだけ強くても、相手さんだって英霊を所有している以上劣勢には変わりねぇだろ」
そう言って青年は、自らの懐から一本の小刀を取り出して、台に乗せる。
それを見て老人は、台から距離を置き、淡々とした口調で告げる。
「ならば協力者を仰げ。こちらとて手数的にいっぱいいっぱいだ。それに今回の件、当たって来いとは言って無い。ただの調査だ。そんなに構える必要は無い」
「そう言うもんかねぇ?」
嘆息漏らし、青年は台の上の小刀に手をかざし魔力を流し込み始める。
この小刀、先月うちの工作員が新しく発見された迷宮から持ち帰った英霊器である。
英霊器とは、この世界にいる異界神ブランタによって10年前に初出現した魔導迷宮で手に入る最高の魔導宝具である。
各迷宮に3つしか無いとされ、迷宮の危険度から手に入れられるのは数十万人に一人だと言われる代物で、異界から英霊を呼び出し使役する力を持っている。
まったく律儀に組織まで持って帰った工作員様々である。
結局今回、持ち帰って来た英霊器は、会議の結果、仕事上その力が必要と判断された青年の元に帰属されることとなったのだ。
そして、青年は今まさにその英霊器によって英霊を呼び出そうとしているのである。
青年は、ゆっくりと魔力の濃さを上げて行き、英霊召喚を念じる。
すると、みるみるうちに小刀が蒼く輝き始め、そこを中心に巨大な魔術陣を形成する。
人員約40人ほどが入れる会議室いっぱいに広がった魔術陣を見て、老人が目を細める。
その次の瞬間、光が弾け会議室が青白い光に包まれた。
暫しの時を経て、光の沈まった会議室にて青年は、小刀から手をのける。
すると、そのすぐ正面に一人の若い男が立つ。
年齢は自分よりもいくつか年下だろうか。東洋の辺りに見られる衣類に身を包み、腰には一本の刀を差している。
青年が名を問おうとしたが、それよりも先に男は、素早く青年の前に跪く。
そして、
「我がマスターとお見受けします。それがし名を岡田以蔵と申し、剣客の英霊でございます。どうかお見知り置きを」
青年は、そんな英霊を見てやれやれと首を捻る。
正直、異界の英霊に名乗られたところでピンと来るどころかサッパリ分からない。しかし、以前読んだ異界書にこの英霊のような剣客を「侍」と呼び、相当の力を持つ戦士と記されていたことを思い出し、青年は内心で密かに狂喜するのであった。
狂気の晩餐