温泉でガールズトーク!
あの、本当に読んでいただいてありがとうございます。
自分の思うように書いている点で、いろいろ誤字や表現が甘いところもありますが、どうぞよろしくお願い致します。
温泉入りま~す♪
北のバゼルーンは貴族の避暑地として有名な所だ。
澄んだ空気に、豊かな自然。
はるか向こうには隣国との境である、険しい山々が連なっている。
しかし今は真っ暗だ。
総勢7名の討伐隊は、睡眠時間を削ったおかげで2日半でたどり着いた。
馬も疲れただろうが、人も約1名を除いて疲労困憊である。
馬上で食事とか、何の罰かと思った。
隊の構成は3人女性で4人が男性。もう少し婦女子に優しくても罰は当たらないのに。
昨夜の野宿では、とどめをさされた。
ふと目が覚めて寝袋から見張りのいる焚き火を見れば、うつらうつらとしている隊員とは逆の位置にジェイが座っていた。焚き火に照らされたその顔には、あの怖い笑みを浮かべていた。
真夏の夜のホラーだった。
ちなみにその時の隊員は何のお咎めもなく、気がついたら朝でしたとのこと。幸せな少年だわ。
バゼルーンでの宿は官舎を割り当てられた。
毎年の討伐隊がくるので、避暑地や観光地のある地方の官舎はある程度予備の部屋を空けている。
町の大通りを西に外れた所に、それはあった。
3階建ての長方形の建物で、周りは高いレンガ塀に囲まれていた。
先に裏に回って、馬を畜舎へ入れて休ませる。
「お疲れ様です」
玄関に入ると人の良さそうな笑みを浮かべた、恰幅のいい世話人の男性が出迎えてくれた。
やはり笑みはこうでなくてはならない。
「遅くにすまない」
「いえいえ。私はここで住み込みの世話人をしています、ゼンゲと申します。
それより食事はどうします?簡単なものなら準備できますよ」
「頼む」
短いやり取りの後、男性は一度、奥に見える階段横の部屋へ引っ込んだ。
玄関は間取りが広く、壁には右矢印(⇒)に食堂と書いてあった。
「隊長様には2階個室を、あと3人部屋を3室3階にご用意しています」
「3階の部屋だけでいい」
「そ、そうですか?では御案内します」
少し意外そうな顔をして、男性は階段を登っていく。
部屋を前にジェイが口を開いた。
「部屋割りだが、俺と補佐…」
「はい!ホワード・カーソン、光栄です!!」
敬礼して名乗りを上げたのは西領カーソン男爵子息、15才。黒髪茶目の、まだあどけなさの残る見習い騎士で、ジェイに憧れているのが聞かなくても分かる少年。
見習い騎士は基本短髪。肩を越す長さになれば、問答無用で丸刈りにされてしまうそうだ。
それから見れば彼の髪はギリギリの長さだ。
「そ、そうか」
珍しくどもるが、表情に変化はない。
「じゃあ、あとは男女に分かれて問題ないですね。荷物置いたら食堂に下ります。では」
一刻も早く背の荷物を下ろしたかった。
さっさと奥の部屋に女3人で引っ込む。
部屋は右側に3つのベッドが並び、枕元には魔石を入れて使うタイプのランプが置かれている。反対側には壁収納型の小さなクローゼットが3つあった。
「あー、疲れたぁ」
早速真ん中のベットにダイブしたのは、ミディア・ルヴァール、15才。南領ルヴァール伯爵の4女で、小麦色の肌に、ポニーテールした豊かな金髪、ちょっと気の強い黄色い目をしている。とにかく明るくて負けん気が強い。
現在は騎士団魔法部隊見習いで、将来は女性ばかりの癒し魔法使いの部隊、”白薔薇”部隊に入る為頑張っているそうだ。ちなみに今回唯一の回復魔法の使い手になる。
「ヒルダ補佐官は窓側をどうぞ」
控えめに佇むのは、アリア・フォトン、17才。北領平民の出身で、推薦者はアーマス伯爵。白い肌とおさげの色素の薄い茶髪と目、体系もほっそりしている儚い美人だが、こうみえて火系魔法使い。今年の秋の大祭時には騎士団魔法部隊の1つ、女性部隊”紅薔薇”部隊への入隊がほぼ内定している。
魔法部隊は個人の特化した魔法を使いこなすエリートだが、火は男性、風は女性など属性によって男女比がでている。そこで魔法部隊は男女分けての部隊編成になっているそうだ。
「お腹すいたぁ」
「そうね。これが普通の討伐隊の移動なのかしら。ねぇ、アリア?」
目線を投げれば、ゆっくり顔を振る姿があった。
「去年参加した部隊はもっとゆっくりしていました。あの、今回は急いでたと思います」
騎士団の見習いは14才から入団できる。
実力があれば数ヶ月で今回のような、実地訓練と称した作戦に放り込まれる。
つまりここにいる5人は教官達からの推薦を受けた、優秀な金の卵というわけだ。
「とにかくご飯食べて、体拭いて寝たいです!」
まだ元気にベットでジタバタ暴れるミディアを見て、アリアと2人くすくすと笑って「下へ行きましょう」と促した。
食堂に行けば、すでに男性陣が温かいスープを口にしていた。
「あり合わせですが、召し上がって下さいね」
奥さんと思われるよく似た体型の女性が、両手に味付け肉を乗せた皿を持ってやってきた。
「おいしそう!いただきます」
さっそく幸せそうに食べ始めるミディア。
ほとんど会話もなくみんな食べ、汚れた皿が目立つようになると、よく通る声でジェイが話し出した。
「明日から任務開始だ。8時に出発して、被害のでている場所を回る。今夜はしっかり休め、以上だ」
「「はい!」」
ごちそうさま、と立ち上がろうとした時、ゼンゲさんが「そうだ」と言って手を叩いた。
「皆さん、うちの官舎にはこの地方自慢の温泉を使った内風呂があるんですよ。良かったら、どうぞゆっくり入ってください」
「温泉があるんですか!」
食いついたのは私。
「はい。女性用のお風呂は少し小さいですが」
「入ります!」
あぁ、嬉しいと、年甲斐もなく両頬に手をあててにんまりしてしまう。
「この熱いのに風呂ですか?」
ホワードが自分の顔を扇いでみせる。
「北では季節問わずに温泉に入るんだ。厚い温泉に入った後は気持ちがいいぞ」
と、言ったのは北領平民出身、アーマス伯爵推薦のジョン・セントナ、16才。訓練で焼けた肌に、短く刈り上げた茶髪に薄い水色の目をしていて、背も高くジェイの肩を越している。
自己紹介の時に、自分は下半身の鍛えが甘いので、今回誰よりも走りこみますと意気込みを語っていた。
「僕初めてだ。入ろうっと」
背伸びして立ち上がったのはゼフェリー・オットン、15才。西領ハースメイ侯爵の推薦で入った商家の長男。黒髪に鼻の先にちょこんと乗った小さな眼鏡、くりっと大きい茶色い目をした顔は実年齢より幼く見える。実際背も低めだが、彼も魔法部隊見習いで、数少ない雷の魔法の使い手だ。
「アリア、ミディア、行くわよ!」
この世界初の温泉に浮かれ、私は2人の手を引っ張って部屋へ戻った。
道中ほとんど使われなかった洗髪洗顔材に、タオル、着替えを用意して3人で1階の奥にある温泉へ向かった。
棚に全て放り込んで、タオルを体に巻いたら2人もキョトンとしていた。
「今からお湯に入りますのに、タオルなんて邪魔ではないですか?」
見れば2人とも裸。
「あ、そうね」
元日本人の習慣は理解されなかった。
濁った色をしたガラスのドアを開けると、そこは石壁に囲まれた四角い床に、円形に掘られた穴の中にたっぷりと湧き出している温泉があった。ふと上を見れば天井が無い。
(ほぼ露天風呂じゃない!)
嬉しい予想外である。
髪と体をこれでもかってくらい丹念に洗い、3人一緒に湯船に入ればそろって「はぁ~」と感慨深い声が出た。
「気持ちいい…」
「南じゃ温泉なんて出ないからなぁ。この少ししっとりする水質が不思議!」
「ふふっ、北でも貴族の方やお金持ちくらいしか持っていませんわ。みんな公衆の温泉に集まって利用してるんですよ」
「だからアリアの肌はきめ細かくて白くて綺麗なのね!うらやましい!あたしは地黒でね、それにこのお腹見て!」
ざばっと立ち上がる。
「補佐官やアリアみたいになりたい~!」
ぷにっと摘んでため息をつく。
「ミディアは猫背を直すと良いいわ。頭って重いのよ。それで姿勢も悪くなって、腹筋が弱くなってしまうのがいけないの。あと、腰をひねる運動もやってみると良いわ」
「ひねる?」
「こうよ」
私も立ち上がって、腰をひねる運動を実演する。
「あの、私、体が細くって…その、特に胸とか…」
「女性ホルモンを活性化させるのよ!」
思わず力が入る。
「ほ、ほるもん?」
「何それ、補佐官。私も胸は大きくなりたい!」
「いいこと!食べ物は乳製品と豆製品が大事よ。あとはマッサージをする」
「ほ、本当に、あの、大きくなりますか?私もう17で…」
「年齢を理由にあきらめないの!少なくとも私の知っているお嬢様は成功しております。自分の体どんだけ揉んで研究したと思うの」
「確かに!補佐官の体理想です!」
両手を合わせて立ち上がる、アリア。
「男も女も体は資本!女は女の体を自分で作り上げて、自分の強さに!武器!にしないと世の中勝てないわよ!」
「「はい!」」
「まずはリンパマッサージ!わきの下から、こう円を描くように…」
この後は半身浴しながら、しっかりとマッサージを伝授した。
時々くすぐったかったのか、2人の甘い声を聞く事も出来た。
予想以上に火照った体を扇ぎつつ、まだ立てないという2人に水を持って来ようと先に廊下にでたら、ものすごい不機嫌な顔をした悪魔…じゃなかったジェイが腕を組んで仁王立ちしていた。
「ひっ…どうしたんですか、そのオーラ…」
一歩も近づけない私を睨みつつ、ズカズカと大股に距離を縮めて目の前に立つ。
見下ろす形で睨まれて、怖さは更に倍増した。
「お前は一体何の話をしてるんだ、あぁ?」
地を這うような低い声。
火照った体が一瞬にして冷える。
「へ?話?」
「隣の男湯にダダ漏れだ。
ゼフェリーは鼻血を出し、残る2人も今だ湯から出れん状態だ」
「あぁ、のぼせたんですね」
「違う」
ぐっとジェイの顔近くなる。
「あぁいった話は大声で話すもんじゃない。いいなっ!」
「は、はい」
どうやらお子様には刺激の強い話だったようだ。
ごめんなさいね、少年達。
「あっ」
「ん?」
「すっごくいい匂いしますね!どこのシャンプーですか?」
漂ってきたのはスッとする爽やかなミント系の香り。
さっさと話題を変えようと、にこっと笑顔をはり付ける。
「…これだ」
それは王都の高級メーカー品でした。
さすが貴族の坊ちゃんは違うな、と言っておこう。
「お前の匂いは…普通だな」
至近距離で、すんっと匂いを嗅がれる。
「庶民ですからね!さっ、私お水貰いに行ってきます!」
あわてて駆け出した私の顔には、火照りとは違う熱があった。
予想通りのオチです。
段々裏話が溜まってきた今日この頃ですが、また。
今週もありがとうございました。