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カルドーニュで待ち合わせ

 本日もよろしくお願い致します。

 (梅雨が明けましたね。夏本番ですね)

 やや時間が押してきたので、早々にマダムの店を出て、馬車で待ち合わせのカルドーニュという高級店までやってきた。

 「……」

 馬車から降りた私は立ち尽くした。

 窓から白い壁がずっと見えるな、と思っていたらそれが全部カルドーニュの敷地を覆う壁だと知ったからだ。

 まさしくといった鋼鉄の格子の門のには、警備なのか執事なのか、えらく体格のいい男性が2人燕尾服をきて立っていた。

 「行くぞ」

 「え、でも店の前って」

 「ここは店の前じゃない。庭先だ。店はこの門の奥にある」

 ひえっと驚いたかわいくない悲鳴を飲み込み、私はおたおたと挙動不審にジェイの後ろについた。そうすればジェイは黙って手をとってくれた。

 門のところでジェイが名前を言えばすぐに開かれた。

 門をくぐればそこは一面の緑の芝生。少し先からぽつぽつと何か白いものがあり、その先には3階建てのお邸が建っていた。

 芝生の中には白い石畳の道が1本すっとそのお邸へと伸びていたので、私達はその道をすたすた歩いていた。

 やがて見えた白いぽつぽつは、真っ白なテーブルクロスが欠けられたテーブルとイスだった。縁には金色の細工が施してある。

 「この辺でいいだろう」

 ジェイは芝生の上にぽつぽつと点在するその席の一つに近づいた。

 するとどこからともなく、すっと中肉中背という普通体型の燕尾服の男性が近づいてきて、さっとイスを引いてくれた。

 「ここで待ち合わせだ。まぁ、座れ」

 レディーファーストか。私は黙ってイスに座った。

 それを見てジェイも向かいに座る。

 なるほど、ここが店先か。

 とてもそうは思えないが、カルドーニュでは当たり前なのだろう。

 さっきの執事風の男性がワゴンを押して現れた。

 ワゴンには数種類の飲物と、ハムや何かの実に串がささったものや、スプーンの上にのった1口サイズのゼリー寄せなど、手で摘めるピンチョスのようなものがいくつか乗った皿があった。

 「お飲物をどうぞ」

 「あ、じゃあレモン水を」

 「かしこまりました」

 細長いグラスに、冷えたレモン水を氷と共にそそいでもらう。

 ジェイも飲物を貰うと、執事風の男性は皿をテーブルに置いてワゴンとともに去った。

 「あの、これって」

 「ここで待ち合わせすると、こういうサービスがつく。気にせず飲め。そういえば朝食べたか?」

 私は首を振った。

 「先にそれ摘んどけ」

 「うん」

 先にレモン水で喉を潤してからゼリー寄せを口にしてみた。

 「んっ!おいしい」

 ちょっと塩味のきいたコンソメゼリーの魚介寄せ。

 空腹の胃が動き出すのが分かった。

 「あ、こっちもおいしい。この黄色い実って何かな」

 表面は甘酸っぱくて、でも後からとろりと甘い何かでてきた。

 「エリゴの実だ。随分美味そうに食べるな」

 はっとしてジェイを見れば、テーブルに肩肘をついて顎を頬杖をついておもしろそうに目を細めていた。

 「な、何でしょう」

 ちょっとがっつきすぎたかな、と心の中で猛省しながらなるべくなんでもないように装う。

 「いや。ころころ表情が変わって面白い」

 「し、失礼しました」

 私はふんっと横を向いてレモン水を1口飲む。

 「そういう意味じゃない。すまして食べるより、美味いかまずいか表情に出たほうが料理人だって安心するし、少なくとも俺はそうやって食べるほうがいいと思う」

 そういうわりには、あなたお昼食べる時ほとんど無表情ですよ、と突っ込んでやりたい。まぁ、最近苦手な食材を前にすると、眉間の皺が増えてしばらくにらめっこしてから食べてるのはわかるようになったけどね。

 「でもここではそういうのダメなんでしょ」

 「いや、そうでもないさ。ほら」

 くいっとジェイが目線と顎先で私の後ろをさした。

 首だけ振り向いてみれば、先程ワゴンを運んできた執事風の男性が立っており、私と目が合うとにっこり微笑まれた。

 「な?お前が美味しそうに食べるから彼もほほえましく(・・・・・・)見ていたぞ」

 それってレディ扱いされてないってことですよね。

 私はなんとも言えなくなって、再び姿勢を正すと、半分以下になったピンチョスを頬張った。

 (あぁ、やっぱりおいしい)

 あっという間にピンチョスを平らげ、2杯目のレモン水を半分飲み終えた頃、ニコラスさんが現れた。

 「すまない、出かけに急用ができてしまって遅くなってしまった」

 白い石畳を小走りできたのは、ジェイと同じ年くらいの20代半ばの背の高い青年。肩上までの金髪は毛先がくるっとうねっていて、男性としては少し大きめの優しい瞳は緑。服はジェイと同じように黒のフロックコートは手にかけ、ベストにシャツ姿だった。

 正直助けた時は良く見てなかったから、私にとっては初対面に近い。

 私は立ち上がって挨拶をした。

 「ヒルダ・グレイソンと申します。本日はお招きいただいてありがとうございます」

 顔を上げれば、ニコラスさんは私を見て軽く目を見開いた。

 (はて?何かおかしいところでもあるでしょうか。まさか口元に何かついてる!?)

 私はさっと手で口元を覆った。ハンカチはバックの中。

 「どうした、ニコラス」

 座ったままのジェイが声をかけると、ニコラスさんははっと我に返って微笑した。

 「いや、予想とは反対のかわいらしい格好で来られているので驚いたんだ」

 そう言って私に微笑む。

 「よくお似合いです」

 「あ、ありがとうございます」

 そしてニコラスさんはジェイを見てぷっと吹き出した。

 「ジェイナス、そんなにむくれるな!第一大隊の連中には黙っておいてやるからっ」

 「いらんことを言うな」

 「お?怒ってる?大丈夫、今日はお礼だって言ったじゃないか」

 ばしばしとニコラスさんはジェイの肩をたたき、肩を組むように腕をまわす。

 「…………」

 なにやらニコラスさんが小声で言えば、ジェイはがばっと立ち上がった。

 もちろんニコラスさんはさっと腕を放し、距離をとる。

 ジェイはぎろっとニコラスさんを睨む。

 「今度言ったらアイザンクライ号を訓練中にけしかけるぞっ」

 「それは勘弁してくれ!」

 返したニコラスさんの声の焦りは本物だった。

 「とにかく行くぞ。時間だろう」

 「そうだった。ではヒルダさん、お手をどうぞ」

 「え、あ…」

 差し出された手を前に、私はどうしたらいいかと手とニコラスさんの先にいるジェイを数回往復して見た。

 するとニコラスさんがにっこり笑って、ジェイに言った。

 「今日は俺がホストだから、ジェイナスもヒルダさんと同じゲスト扱いでいいよね」

 「好きにしろ」

 ジェイがはぁっとため息をつくと、ニコラスさんはくるりと私を見た。

 「はい、承諾取れました。お手をどうぞ、お嬢様」

 「は、い」

 照れながら手を重ねると、そのまま店のほうへエスコートしてくれた。

 緊張して数歩進んでから、自分に影がかかっていることに気づいて顔を上げると、すぐ後ろをジェイが歩いていた。いつ近づいたんですか、あなた。


 読んでいただいてありがとうございます。

 お気に入りが970件越してました…ありがとうございます。

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