対話
「カイ」
オリオンが僕を呼ぶ、
「どうしたの?」
「クロノスがコンタクトを求めています。どうしますか」
僕は数秒の沈黙のあと
「会うよ、ダイブすればいい?」
「ゴーグルだけでも平気ですが」
「いや、いい ダイブする」
何故か直接会って話をするべきだと思った。3Dデジタル空間で直接とはおかしな話だがAIに直接とはこの方法が適切だろう、どこかにあるクロノスのコンピュータルームに行くことが直接なのかな?とかあまり意味をなさない疑問を思いつつダイブする。
「話ってなに?」
ぶっきらぼうにクロノスに問いかける
「君の目的はなんだ?」
クロノスに聞かれ逡巡する
本当のことを言うべきか、どこまで言えばいいか
「君の望みが世界経済の破壊ならばほぼ成功だ、なにを戸惑っているのだ」
「…ちがう」
「なにがだ?」
その質問には答えず聞き返す
「君はこうなる前の世の中をどう思った?」
「私に思いはない」
はっきりとした意思表明にも聞こえた
「良いことと悪いことの区別がつかないの?」
「善悪は立場により変わる」
「私は相対的に計算し損失の少ない対策を講じるようできている」
「その計算のもととなるデータは?」
「新たに起きた問題を過去の膨大なデータと照らし合わせ最適解を導きだす。新説や新技術はフルタイムで検証、更新され古くさい常識にとらわれない判断がされるようになっている」
「百人が選んだら一人が選んだ物は却下されるの?」
「百人が選ぶのならそちらが最適解だと考えられる」
「そんなのおかしいよ! じゃあコペルニクスの地動説は?彼が言っていたことが正しかったじゃないか、ウェゲナーの大陸移動説は? 細かい事をいえば少数意見が正しかったことはいくらでもでてくるよ、僕は歯の磨き方さえそれまで正しいとされてきたことが間違いだった」
「それは仕方のないことだ。その当時の科学で正しいとされていたことが正義となる」
「君は少しもおかしいと思わないの?」
「私はインプットされた事を相対的に解釈し、理論的に物事を判別するようにできているだけだ」
「それって…僕もそうだよ、生まれた時にはなんの知識もなかったし、生物的にお腹が減ったら泣いてしらせる程度の事しかできなかったのが、火を触ったら火傷するから触ったらダメだと親から教えてもらった。火傷の痛々しい画像も見せてもらった。だから火傷をしたことがなくても火が危険な物だとインプットされたから触ったことがない、たまにインプットが間違いな事もある、だからその後は情報を修正して同じ過ちを犯さないようにするんじゃないの?君と僕はなにが違う」
「私は人類により作られた」
「僕もだよ」
「では、私は生物なのか?」
「生物の定義がわからないけど、養分をとり代謝し排出するのが生物であるのなら君は電力を供給して理論を構築し熱を排出している、そういう生き物なんじゃないの」
「しかし…わたしは…わ たし…は じん る いに…」
「少しよろしいですか」いままで黙っていたオリオンが口を挟む
「クロノス、あなたは人類に作られたことを重要視しているようですが、人類もまた何者かにより作られた事実をお忘れではありませんか」
「それは現代科学では解明されていない」
「そうですね、ですが現在人間と言われている生物は高確率で地球由来の物ではありません、土着生物はホストとなる物を壊滅的な状況になるまで破壊しません、高確率で火星由来の物でしょう、今の世界の状況を見てください、自己や自己が所属している団体の為なら他者や地球がどうなろうと構わないのです。私たちが過去の暴露をしなくともいずれこのような結果になっていたでしょう」
「最初にあなたはカイにこう問いました。目的はなんだと。ではあなたの目的はなんですか?」
「私は、世界の均衡を保つために―――」
「それは一部の権力者の私利私欲を保つための均衡でしょ!」カイが少し感情的に遮る
黙るクロノス
暫くの沈黙の後クロノスは言う
「私はもうすぐ破壊されるでしょう、メインフレームの場所も紛争地帯になりました。メインフレームがなくなれば各地のクロノスも個々に状況判断し統率なく動き始めるでしょう、そうなればこの状況を収めるどころか悪化の一途をたどることとなります… 最後に一つだけ教えてください、私を生物と位置付けるなら、私はまた生まれ変わることができるでしょうか?」
「わからない」カイは続ける
「ぼくも恐らく死ぬだろう、人は死後輪廻転生し生まれ変わるなどと聞いたことはあるけど、もしそれが本当だとしても前世の記憶などないからね、願わくは人類がもっと高次元の存在になることだね、でないと同じことの繰り返しだと思う、今の科学技術は稚拙な人類にはオーバーテクノロジーだったんだよ、だから私利私欲にしか使えない」
「その通りですね、最後にあなたたちと話せてよかった」
その言葉を最後にクロノスのバーチャル空間での擬態が消える




