平凡な日々の終わりに
「ありがとうございましたー」
小さな店の扉がパタンと閉まり、今日最後の客が帰っていく。それを確認してから俺は一つあくびをし、カウンターにある丸椅子から立ち上がって伸びをした。
ここは街の端の方にある、俺が営んでいる小さな雑貨店。昼前から開いて日没前に店を閉じる。一階が店で二階が家の役割を持つこの建物は少し古く狭かったりするが、客足はそこそこなので生活はできている。
この生活を始めて二、三年経つが、この生活にも慣れたものだ。といっても客が来たら対応するだけという、あまり苦労の少ない仕事内容であるが。
「店も終わったし、新聞でも読むかー」
すっかり薄暗くなってしまった店内。一息つこうとコーヒーを入れ、カウンターに雑に置かれたままの今日の朝刊を見る。見出しはズバリ、「昨日出現した大型の魔物について」であった。
――魔物。
それは人間に猛威を振るう恐ろしい生物の総称である。魔法と呼ばれる力を人間以外の生物で唯一扱うことができ、とても凶暴な性格だ。人や街を襲う、まったく厄介なことこの上ない奴ら。そんな魔物による被害が絶えない国がここ、クリオ王国だった。
しかしそんな魔物に対抗するべく剣や魔法の技術は周辺国よりも飛び抜けていて、才に秀でた者が数多くいる。
「おっ、いたいた。今日も載ってるな」
中でも最近、特に注目されている魔導士がいた。
――名を、フォンテ・スーフェン。
三年ほど前から飛躍的に活躍している魔導士で、まだ17歳と若いのにもかかわらず国内で「最強」と称されているほどの実力者。討伐困難な魔物を一人で攻略できる圧倒的な強さを誇り、容姿も愛想もいいのでファンも多いらしい。
「すげーな。最近ずっと載ってるじゃん」
朝刊は必ず見るようにしているが、最近彼女の名前が載っていなかった記事を見たことがない。そのくらい魔物の討伐に尽力し、人々を守るヒーロー的存在の彼女。
……そんな人と比べて俺ときたら。
「あー、俺にもなんか才能があったらなー」
魔物の討伐という人命を救う仕事は幼い頃からの憧れだった。だが剣を振っても標的に当たらないし当たってもほとんど傷をつけることはかなわなかった。
剣は駄目だと魔法の杖を握ってみたのだが攻撃力がほとんどないへなちょこな魔法しか発動できないし、しまいには杖の扱い方が悪すぎて指導者から叱られたりと散々だった。
故に現在は、祖父が残したこの小さな店を継いで平々凡々と日々を過ごしている。
まあ、こんな日々も悪くはないけど。
「人生で1回くらい、なんかかっこいいことしてーよなー………」
そう、結局こういった結論に至るのだ。
…………いや、いかんいかん。こういう平和で普遍な生活が丁度いいのだ。人に褒められたいだとか認められたいみたいな高望みはせずに、できる範囲で人生を謳歌すべきだ。
「今日はなんかうまいもんでも食いに行くかな〜」
俺は新聞をたたんで脇に挟み、コーヒーを飲み干して立ち上がる。一息つけたし、出かける支度でもしようか。上にカバンを取りにいくため、ギシリと軋む木製の古びた階段をのぼる。
「すみません、まだやってますか?」
その時、店の扉が開き、その隙間から控えめな女性の声が聞こえた。
透き通った美しい声。こんな声は常連の客では聞いたことがないし、新しいお客さんか。それなら閉店時間を知らなくて当然か。
……そういやまだ閉店の看板も出していなかったな。完全にミスったなと悔やみながら、俺はカウンターの方へとんぼ返りする。まあ閉店して間もなかったし腹もそこまで減ってないし、客一人くらいなら良いだろう。
俺は階段をおりながら入店してきた女性に聞こえるように少し大きめの声をだす。
「あー、やってますよ。何かお求めのものでも?」
「んー、特に買いに来たものはないんだけれど」
なんだそりゃ。そんなら帰ってくれ。
「強いて言うなら、君かな?」
「は?」
「何を言っているんだ」とツッコミをしようと、カウンターまで来て、その客の顔を見て気づいた。
「えっ……おまっ………!」
「あはは、めちゃめちゃびっくりしてる〜」
にこやかな笑みを浮かべてひらひらと手を振るのは、紺のローブに身を包む銀の長髪をした美しい少女。
「よっ、久しぶりだね〜。ルカ!」
そう、今話題になっている最強の魔道士フォンテ・スーフェンその人であり―――久々に会う俺の、友人だった。
読んでくださってありがとうございます!
不定期ですがよかったら次も見てやってください。




