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6

 その日も灯里は帰ってこなかった。連絡もなく、夫の保広と二人だけでの晩ご飯となった。


「そういや、海月って昔バレエやってんだよな」

「うん。そうだけど」


 私は一枚残った生姜焼(しょうがや)きにラップをしながら、缶ビールを開けていた夫を見る。


「取引先の人からさ、チケットもらっちゃって。けど俺は別に見ないしなあ」

「そう。なら(もら)うけど、何枚?」

「一応二枚。友理恵さんとでも行けば?」


 そう言って鞄の中から少し皺のついたチケットを取り出した。私は貰って皺を伸ばしながら、そこに書かれた演目を見つめる。白鳥の湖。小さい頃、少し憧れた舞台だった。


「それよりさあ、海月ちゃん」

「何ですか」


 甘えた声を出す時の保広は、大抵お小遣いを使いすぎて謝るか、約束をすっぽかして謝るかのどちらかだ。


「夏に家族で旅行しようって言ってたけど、休み取れなかった」

「別にいいわよ。灯里だって学生じゃないんだからお休み取らないといけないのよ?」

「分かってるけど、まずは俺だろ」

「じゃあ、その俺さんのお休みが取れてから考えましょ。それより、もう一本は付けないわよ」


 空になった缶を持ち上げて振っていたので、私はぴしゃりと断った。

 しょぼんとなったけれど、保広は「ごちそうさま」と立ち上がり、浴室に向かう。いつも軽くアルコールが入った状態で向かうのだが、時々浴槽に浸かったまま眠ってしまうことがあり心配になる。


「今日は寝ないでね」

「分かってるよお」


 小さな息をついて見送ると、片付けものの続きに戻った。

 皿を片付けてしまってから、私はスマートフォンを手に取る。テーブルの上のチケットの日付を確認してから、彼にLINEを送った。バレエなんて、見てくれるだろうか。

 冷蔵庫に残り物を仕舞い終えると、ちょうど彼からの返信が来る。


> 見ます。母親がバレエやってて好きなんですよ!


 ビックリマークに、私がびっくりする。

 それから日付の調整のやり取りをして、最後に「今日は楽しかった。おやすみなさい」と送った。

 十年前は何度も「おやすみ」を送り合うことになるので、互いに一度ずつにしようと約束をしたのだけれど、彼はそれを今も律儀に守ってくれていた。一分もせずに今日の、


> おやすみなさい


 が届いて、私は嬉しくなる。

 けれど、私はふと思った。


 ――彼の母親がバレエをやっていた。


 なんて、金森は言っていただろうか? と。


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