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ルドガーさんが何やら合図を出したようで、森の手前100メートルくらいのところで両方の馬車が止まりました。アートとレオンさんが降りてきたので、私も馬車から降ります。


「アート!もうすぐ森ですね」


私が駆け寄ると、アートは私の手をしっかり握りました。あ、あったかい。なに?一体……


「ロイス、何があっても私が君を守る。もしくは助け出すからな」


「何かが起こる前提なんですか?!」


あんまり大げさな物言いなもので、つい突っ込んでしまいました。でも、ラーラだって襲われたとはいえほぼ無傷で生還したようですし、最悪の場合でも追い剥ぎに殺されることはないと思うんですよね。いや、ラーラの時は無抵抗だったから無傷で済んだだけで、面と向かって争うことになれば殺されるのかも?


「大丈夫ですよロイス様!武器フル装備の軍人が2人もいるんですから!」


「そ、そうですね」


別にそこまで心配してなかったんですが、追加でフォローされるとめちゃくちゃ危険な場所に足を踏み入れてる気がしてきちゃいます。やめてくださいよ、ほんと。


「王子もいるぞ」


どうやらレオンさんも剣を買ってもらったようで、腰に下げて得意そうにしていました。なんか馬鹿っぽくてカワイイ。馬だけに。こんな色白の美青年、戦えるんですか?これが本当の白馬の王子様なんちゃって。レオンさん、ちょっと叩いたら骨とか折れちゃいそうじゃないですか。


贅肉(ぜいにく)が邪魔で戦えないんじゃないか?無理をするな」


この様子では、アートは本当に悪気なく発言したようですね。レオンさんがセドリックさんに恋してからは2人がいがみ合う様子もありませんでしたし。でも、なんだかあまりにも天然失礼野郎すぎて笑ってしまいそうです。カワイイ。


「今はそんなに太ってないだろうが!!」


すかさず怒るレオンさん。


いえいえ、一昨日より昨日、昨日より今日太ってきてますよ。毎日会ってても気づくって結構なことです。まあ、まだデブというほどでもないと思うんですけど。ぽっちゃり?……ああ、でも、美形ってのはギリ分かりますし。まだまだ大丈夫ですよ、レオンさん。


レオンさんいわく「腹が一杯になっても、習慣でなんとなく口に食べ物を入れてしまう」のだそうで。文化であれなんであれ、身に染み付いた習慣はなかなか離れないものなんでしょうね。お腹すいてないけどなんとなく追加でご飯食べる感覚は私には分かりませんでした。


それに、レオンさんだっていつかは太った人がかっこいいとされるレオンさんの祖国に戻るんでしょうから、それまでに太っておいた方が本人にとってはいいのかも。でもセドリックさんをお嫁さんにしたいなら、太ってるより痩せてたほうがいいですよね。え?セドリックさんの好みですか?知りませんよ。


「セドリック、危険に備えてルドガーをそちらの馬車に、ロイスをこちらの馬車に移動させたいんだが。軍人は1人ずつに分散したほうがいいだろう」


「……ん、まあそうかもね。よろしくね、ルドガー」


「は。よろしくお願いします」


あれれ、ルドガーさんなら「私はアーチボルト様の護衛なので……」とか言い出すと思ったんですが。でもまあ、元軍内での上司ですし、アートのほうが強いんですもんね。言うことは聞きますよね。


「じゃ、こっちの馬車は誰が動かすんですか?」


「私だ」


「アートが馬動かしてたら、荷馬車の後ろから押し入られたりしませんかね?」


かといって私にもレオンさんにも馬車なんて引けませんし。レオンさんとラーラを取り替えれば全て解決なのでは?アート、私と一緒にいたいだけなのでは?


「君は後ろから誰かが乗り込もうとしてきたら、剣で手とかを刺して追い払ってくれ。狭い道だが、こちらの馬車を先頭にして、全速力で駆け抜けるつもりだ。」


「わ〜力尽ちからずく」


「スリル満点だぞ」


「求めてません……」


もっと理知的な作戦かと思ったんですか、勢いで行くぞ!って感じなんですね。その配置、私アートに守られてる要素ないと思うんですが。でもまあ、馬を動かせる人が居なくなったらもうおしまいな気もするので、強いアートが先頭で馬引いてるほうが確かにいいのかも。


「分かりました。レオンさん、頑張りましょうね」


「別にいいが、なんで俺もこっちの馬車なんだ?」


「戦力的な問題なんじゃないですか?私とレオンさんが完全戦力外だから1番強いアートに守ってもらい、セドリックさんとラーラは殺す気みたいな武器を装備してますから、2番目に強いルドガーさん一人でなんとか」


「俺は考えることもなく戦力外なのか……」


当たり前じゃないですか。


「こんな白いフニフニスベスベ肌しちゃって、剣なんか握ったことあります?」


「ない。バケツに入った水を運ぶのがやっとの腕力だな」


威張らないでください。ここの国の王族は多分最低限の剣術とか武術関係全部習うと思うんですが、レオンさんの国は太ってる人がモテるくらいですから、運動とかあんまりしてなさそうですよね。金持ちはたくさん食べれるから肥えている、とかの流れで金持ちは戦ったり動いたりしなくていい、みたいな。


「箸より重いもの持ったことないお姫様みたいだな」


「ハシ?」


「匙とか、フォークみたいな道具だ」


「……なるほど!なんか意味分かった気がします!」


お姫様は重いものなんて持たないって意味ですね。きっとそうです。


「ロイス、だんだん理解力が高まってきているな」


「アートが意味わかんないことばっか言うからですよ」


「その通りだな」


「その通りです」


ともかくそんなこんなで、私たちは馬車同士を移動してから再び森に向かって進みはじめることになりました。今にしてみると、メンバーについてアートに何も言わなかったのはセドリックさんなりの恋の後押しだったのかもしれませんね。まあ、ここはアートにいいところ見せていただきましょう。軍人だったことは知ってますけど、平和な日常生活で戦ってる姿なんて見かけませんからね。もちろん、何も起こらないに越したことはないんですけど。


「レオンさんはもう少し奥に。私、後ろに座りますから。」


異国の王族は守らなければ、下手すると国際問題に発展しかねません。私の呪いのせいでこんな旅に巻き込んで本当に申し訳ないです。


「女にそんな真似させられるか!俺が後ろに座る」


「いいですから!」


「ぎゃあっ!なんだその腕力は!!」


「女に負ける腕力なんですから大人しくしててくださいよ」


男らしい正義感があってなんだかグッと来てしまいましたが、弱いもんは弱いので隠れててください……って、言い過ぎましたか。人と親しくした経験が少ないから、時々距離感がわかんなくなっちゃうんですよね。王子様に対して言いすぎました。


「急に冷たくなってないかロイス?!セドリックに心が移ったから怒ってるのか?!お前が友達だって言ったんじゃないか!親友なんだろ俺たちは!?!!」


「それは気にしてないです!!でも言いすぎました、ごめんなさい。あなたが弱いくせに出しゃばろうとするからですよ」


「お前は俺に対してはっきり言いすぎなんじゃないか!?全然ごめんと思ってないだろ?!」


「わかる。そういう弱いキャラクターが出張って敵に誘拐されたりするんだよな。みんなのことはアタシが守る!みたいな……でもロイスは誘拐されても安心していいからな。ぜひ助けてアート!とか叫んでくれ」


「アートも何言ってるか分かんないですから!」


「あっ、そろそろ馬車動かすがいいか?」


「あっ大丈夫です」


アートが荷馬車の運転席から言ったので、私が返事をします。ルドガーさんから合図があったみたいですね。私は短剣を握りしめ、片膝立てて荷馬車の後ろを向きました。隣の馬車からはきゃっきゃとなにやら楽しげな声が聞こえてきますが、ちらっと見るとあちらも運転席にはルドガーさん。


セドリックさんとラーラ、師弟とは言っていても本当に仲が良いんですね。


それに比べてルドガーさん、死んだ目をしてらっしゃいます。この森を抜けたら大急ぎで移動して呪いを解き、一刻も早くご家族との日常生活に戻れるよう私も頑張りますから、今は許してほしいところです。


そんなわけで森に向け、二台の馬車が走り出したのでした。


まだ森に入らないんかい!次回、ようやく何か起こります。

今回も読んでいただきありがとうございました!

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