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ガタガタガタガタ!!ガタッガタガタガタッ!!


「うっ舌かんだ!!」


「だっじょっぶですかレオンさっ!!」


馬が走り始めてすぐ、ああ、アートは多分馬車動かしたことないんだなと私は悟りました。


ルドガーさんの時の馬車の揺れが30%とすると、ラーラが15%くらい。アートの運転する今の揺れは、60%くらいですかね。当然馬には乗ったことあるんでしょうけど、そうですよね、公爵様は馬車なんて運転するはずもないんですよね。乗る側ですもんね。


馬車の上では、私の(かばん)もぴょんぴょん楽しそうに跳ねてます。ここまで揺れると逆に楽しいまでありますね。


「!」


森に入ったようで、馬車の揺れが一層激しくなりました。揺れ90%です。馬車の運行は本当に荒いんですけど、スピードは確かにすごいかも。地面が馬車の下に吸い込まれるように、ウワーッと流れていきます。レオンさんの顔色もどんどん青くなっていきます。口元抑えてますけど、吐くならこう、地面に吐いてくださいね。


この馬車の後ろについて走っているルドガーさんの動かす馬車を見ると、ルドガーさんはなんだか心配そうにこちらを見ていました。運転、荒いですもんね。同じスピードで走ってても、ルドガーさんはなんだか表情に余裕がありますし。アート、さっきから前を向いたまま一切喋りませんもん。今絶対、怖い顔してますもん。


そうして、はじめに動きがあったのは森に入ってから5分ほど走った頃でした。


それまでは嫌な雰囲気ではあったものの、とりあえずは何事も無かったのです。道も、ギリギリ馬車が通れるくらいは整備されてましたし、地面はガタガタですけど、なんとか馬車がひっくり返ることもなく。


ところが、


ピィーーーー……と。


突然、笛の音が聞こえてきたのです。それはもう、遠くの方からです。ちょっとです。でも、こんなガタガタうるさい馬車に乗ってても聞こえたんですから、ある程度の音量の笛のようでした。


次に、左右の森の木々の間から、ザザッと大人数の足音のようなものが聞こえてきました。……聞こえてはきましたが、徒歩と馬車では速度が違いますから、私は大人数が追っかけてきてもまあ大丈夫だろうとタカをくくっていたのです。


「ロイス!レオン!剣を持て!!」


「えっ?!はい!!」


アートの叫び声に、私は慌てて短剣を持ち直し、後ろを向きました。後ろからついてきている馬車を見ると、なんと、ルドガーさんの頭から血が流れていたのです。ルドガーさんはそれでも動じず馬車を走らせていましたが、驚いて凝視していると、ルドガーさんのほうにどんどん石が飛んできているのが見えました。


つまりは投石です。周りを見ると、遠くの見通しのいい、丘のような少し高いところから何人かが石を投げてきていたのでした。しかも、結構大きめの石です。怪我させる気満々じゃないですか。


しかも、石を投げてる人たちだけでも軽く10人近くいるし!身を乗り出すと前方からも、木の棒や武器らしきものを持った男たちが何人か走ってきます。


ああ、これ、馬を先に走れなくされるのでは?殺されるのでは?と心配していた時、突然後ろのルドガーさんの馬車が止まって横に傾き、木に激突してから横転しました。すごい音がして、私も驚いて一瞬ぎゅっと目を閉じてしまいます。


次の瞬間、ルドガーさんも運転席から投げ出されて地面に落ちてしまいました。大怪我したんじゃないかと心配したんですが、上手く着地できたようですね。さすが元軍人。でも、馬車の後ろに乗っていたラーラたちが心配です。


「アート!!ルドガーさんたちが!!」


「分かってる!一度止まるぞ!!」


私たちだけで逃げるわけには行きませんし、いくら山賊とはいえ馬で蹴り殺して進むわけにも行きませんしね。馬車が止まって、私は慌てて馬車から降り、ルドガーさんたちの馬車を立て直そうと走り寄ります。ラーラとセドリックさんは馬車から降りて、既に馬車を必死で持ち上げていました。


「アーチボルト様!!敵が多いです!!走ってきてます!!」


「分かっている!敵が強いとか弱いとかは置いておいて、とにかく馬が潰されると困る。ある程度減らすぞ!」


減らすって敵をですか?もう戦闘ですか?怖いんですけど……。しかし確かに前から敵が走って来てますし、横からもザワザワと足音の群れが。イヤーな感じです。


「ロイスちゃん!アンタだけでも馬車に戻りなさい!」


「いえ、手伝います!」


「無理よ、アタシみたいなのでも動かないんだから!」


自分が筋肉ムキムキの大男、いや大女だという自覚はあるんですね。でも、アタシ〝みたいなのでも〟とかいうのは良くないです。セドリックさんだって女の子なんですから。


「3人でやれば絶対に動きます!大丈夫ですから、もう一度!」


「う……分かったわよ!急ぐわよ!せーの!ぎゃあっ!!動いた!!」


「ロイス、スゲー!!」


感心してる場合ですか。


私が一緒に持ち上げると、倒れた馬車はなんとか元の体勢を取り戻しました。あーあ、乗ってた荷物、ぐちゃぐちゃでしょうね……よく見ると馬車の車輪に何か棒みたいなものが突っかかっていました。先を走っていた私たちの馬車は引っかからなかったのですが、何やら罠でも仕掛けてあったのでしょう。アートは運転が乱暴すぎて逆に罠にかからなかったのかも?


「ロイス!!こっちに戻れ!私の後ろだ!」


「は、はい!セディさんたちも武器を!」


「え、ええ!」


私は馬車に戻って呆然としているレオンさんの腕を掴むと、慌ててアートの元に走ります。既に5人ほどの男がアートの前に来ていました。ルドガーさんのところにもです。男たちはみんな口元に黒い布を巻いていて、身なりも汚いですし〝俺たちいかにも山賊だぜ〟ってな格好をしていました。


「なんだ貴様らは?山賊か?」


アートが尋ねると、山賊たちは目配せをしあってから、1番偉そうにしている大男が答えました。


「俺たちはこの街で職も与えられず爪弾つまはじきにされた。そこで、ここで徒党を組んで生活してるってわけさ。大人しく荷物と馬車全部置いてけば、無傷で逃がしてやるよ」


なんという暴挙。他の街に行く、とかいう選択肢は無かったんでしょうか?というか、もうルドガーさんが怪我してるので全然無傷じゃないんですけど。


それに、荷物はおろか荷馬車までですか?歩いて森を抜けろと?しかも、ヒューイくんとルートくんを置いてですか?ラーラだって宿があっても馬車に泊まるくらい自分の馬が好きみたいですし、愛着あるから冗談じゃないですよね。


それにルドガーさんのヒューイくんなんて、国の大会で……何位だっけ?なんか2位とか3位とか、スゴい馬だった気がしますし。そう、確か2位でしたね。王子様の馬が1位だったっけ。


「荷物も馬も渡さない。ここを通さない気ならお前たちを皆殺しにする」


この人怖っ!!でも、そうでもしなきゃこっちが殺されかねませんもんね。やっちゃれアート!と、私は心の中でヤジを飛ばして応援します。


「ハッ!見たとこ金持ちの坊っちゃんみてえだけどよ、そんな人数でなんになる?この人数に勝てると思ってんのか?」


なんというチンピラの言いそうなセリフ。でもこういうセリフを言う人って、大抵ボコボコにされるんですよね。イメージですけど。どうするんですか?金持ちの坊っちゃん。


「ラーラ!!ラーラを離しなさい!!」


「嫌だ!はなしてってば!このクソハゲ!!」


「暴れるんじゃねえクソ女!!」


私がその声に驚いて後ろを振り向くと、ルドガーさんたちは取り囲まれてしまって、ラーラが男の一人に捕まって首元に刃物を突き付けられているところでした。うーん、まさか真っ先に人質になるのが、あの、やる気満々だったラーラになるとは。


何人か既にルドガーさんにやられた男たちが倒れていたんですが、四方八方を囲まれては、一人で二人を守ることはできなかったようです。ルドガーさんが悪いんじゃないんですよね、戦場では誰かを守りながら、なんてことないでしょうし。この人数が相手では仕方のないことです。


それにしても、よくよく考えればラーラが持ってるノコギリって戦う道具じゃありませんもんね。どちらかと言えば殺した後に解体する道具ですから。いや、それもそれで怖いですけど。武器のチョイスとしては20点です。


「ロイス、危ない!!」


「?!レオンさん!!」


そうして私がハラハラしながらルドガーさんたちのことを見ていた時、レオンさんが叫んでから私の横に飛び出しました。突然のことに驚いていると、レオンさんがその場にドサッと倒れます。


目の前には、太い木の棒を持った男。ついでに倒れたレオンさんを、他の男が二人がかりで引きずって行きました。ああ、殴られそうになっていた私を助けてくれたんですね。今、下手にレオンさんを助けようとしても事態が悪化しそうだったので、私は突っ立って相手を睨むくらいしか出来ませんでした。


「レオンさん!」


「ロイス、いい。下がれ」


私を後ろに下がらせたアートが、レオンさんを殴った男の首の前を、剣先でシャッと浅く切りました。地面に男の血が飛び散って、地面に染みつきました。その場が少し沈黙します。嫌な緊張感がずっと続いていて、息が詰まりそうでした。


「人質を殺したら、お前たちを皆殺しにする」


ルドガーさんだってすでに返り血でベタベタなのに、この山賊たちは仲間がこんなことされても、なんで平気そうなんでしょう。ビビってはいるみたいなんですけど。こんなに人数が多いと、みんなが家族なわけではないんでしょうが……


「ハッ!なんだ、偉そうに。お前なんかに負けるほど弱くねえよ、貴族の坊やがよ」


アートは坊やって年齢でもないと思うんですが、結構歳いってるんですかね?山賊の人たちは。


イラついたのか次の瞬間、アートが横に生えてた、でかい木を右足で蹴り倒しました。結構でかい木なのに根元から折れて、ズシーンと音をたてて倒れたのです。


この人、この前自分は国で一番力持ちとか言ってましたけど、なんか信憑性が出てきましたね。乾いてスカスカの木とかじゃないですよ。折れた面は生木の繊維が、なんていうんですか?こう、メリメリになってますし……アート、緑を大切にしませんか?


強いことを見せつけるには十分だったと思いますけど、それ、軍人とか関係なくないですか?やっぱりアート、人間じゃないんじゃないのかしら。


「お前らなど今すぐ殺せるんだからな」


でしょうね……でも人質が居ますから……


「……そ、そんな脅しに乗るか。こっちには人質がいるんだぞ。下手なことをしたらあの女と男は殺す」


いや、目に見えて怖がってるじゃないですか。やーい、ビビってるビビってる。


「おおお俺たちにはもう失うもんなんてねえ。ひ、人質の命が惜しけりゃ大人しくしろ!」


でも、まあそうなんですよね、レオンさんも持っていかれましたし。すみません、私を庇ったせいで……弱いとか言って、申し訳なかったです。勇敢な人です、レオンさんは。怪我が酷くないといいのですが。


「みんな、そんな脅しに乗るなー!!あたしは殺されても死なないからなー!!」


「ラーラ黙ってなさい!危ないでしょ!!」


「暴れるな、この女!!」


ラーラが暴れてるみたいですが、殺されそうで怖いので大人しくしててください。きっと、アートが何とかしてくれますから。アートもルドガーさんも、見るにちっとも動揺してませんし。もちろん私はめちゃくちゃ動揺してますよ。


「まず、全員両手をあげてついてきてもらおうか。男二人は武器も捨ててもらおう」


おお、なんということでしょう。てっきりアートとルドガーさんが敵をバッタバッタとなぎ倒して、あっさりと無事に森を通過できるものだと……


「……仕方ない。ロイス、あとで」


「は、はい。お気をつけて」


いえいえ、お気になさらず。これは仕方ないですよ。馬だってまさか食べられるわけはないですし、いつか取り戻せますよ。画材だってこの人たちが持ってても仕方ないですし。きっとなんとかなります、だからそんな申し訳なさそうな顔はやめてくださいよ、アート。


「こいつらを皆殺しにしてから迎えに行くから、安心して待っていろ」


「怖っ!!」


私たちはそうして、山賊たちに言われるまま、森の奥へと歩いて行くことになったのでした。







うっかり屋さんのラーラ

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