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朝陽と骸骨  作者: 山藍摺
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柊と閻魔大王―後編



 柊は、かつては侍だった。まだ貴族が時の権力を掌握し、侍という存在が世に登場し始めた頃の話だ。

 柊はある貴族に付き従い、宮中に出入りを許された侍の下っ端の下っ端だった。

 下っ端だったけれど、付き従う貴族が左遷にあい、郎等は処刑の憂き目にあった。左遷された貴族が、彼らを集めて無謀にも謀叛をおこすと見なされたからだった。

 そうして、賀屋柊は鬼籍に名を連ねることになった。三途の河を渡り、四十九日をかけて閻魔大王に目通りをしたとき、


「働いてみないか」


 と、閻魔大王直々にスカウトされたのだ。

 理由は、「気紛れな円卓・骨組という、閻魔大王の持ち物が賀屋柊を地獄の官僚として働かせよ」と示したから、だった。当時の柊からしたらちんぷんかんぷんであったが、断る理由もないので、そのまま官僚となった。

 時には朱色童子にこき使われ、時にはセラと組んだり、時には単独で動いたりはしたけれど、だいたいは生前の刀の腕前を見込まれ、妖怪やら何やらの退治が主な仕事をこなしていき、いつしか“稀代の祓い手”などと呼ばれるようになった。

 そして、柊は朝陽に出会った。次代の母の護衛だった。朝陽を狙うものに柊と悟られないために、骸骨の幻を被って。

 久々に長く過ごすことになった地上で、柊は「生と死」を強く意識することになった。

 生きている朝陽は、死者である柊には眩しかった。次第に朝陽に惹かれていく柊は、全うすることは叶わない己の現状と、全うすることは叶わないけれども、断つこともできない気持ちにを抱えていた。

 そして、自惚れかもしれないけれど、地獄で再会したとき、どうやら朝陽も己を好いてくれている……という状況にもなった。

 もし、もし自惚れでなかったとしても。朝陽と結ばれてはいけないのだ、と皮肉にも柊は再認識させられることになった。

 柊は死者だ。朝陽は次代の母だ。朱色童子のいうように、想ってはいけない相手だ。脱衣婆は別れ際あのようにいったし、アムリタまで用意していたようだけれど。

 例え、アムリタで子ができるとしても……柊には、地上で生きる生者である朝陽の側にいることは叶わない。

 ――だから柊は、閻魔大王が円卓・骨組で、朝陽の夫となる次代の父の名前として己の名があがるなんて、信じられなかった。


「どうしてですか。自分は、生きていません。生者である次代の母の夫、次代の父に適していません」


 柊だって、朝陽の隣にいたい。でもいられない。なのに、隣にいろという。


「そういうと思っていた」


 閻魔大王は、わかっているとばかりに頷いた。


「おまえのいうことも一理ある。いいたいことも理解できるつもりだ。けれども、おまえなのだ、おまえが選ばれた。だから、おまえに新たな任務をやろう」


 閻魔大王は、穏やかに告げた。


「おまえは、再び生者として此岸へ帰り、命尽きるまで朝陽の側にいなさい」


 ――それは、柊が求めていたけれど、諦めていた答えだった。

 だからといって、目の前に垂らされた餌にすぐ食いつくわけがなく、柊はただただ戸惑い、たたらを踏んで、次の一歩がなかなか踏み出せずにいた。


「にゃにを、迷っているの」


 閻魔大王の懐で寛いでいたセラが、柊の顔を見上げた。


「まさかいまさら規則がにゃんていうんじゃにゃいでしょうね、あれは朱色童子の出任せにゃのよ」

「……違います」


 あれを聞かされた当時の柊は騙されたが、別に護衛が護衛対象に恋してはならないなんて決まりはない。それはあとから柊もわかった、ただの朱色童子の「おもしろいこと」に利用されただけなのだと。


「にゃら、にゃんにゃのよ」


 セラのまん丸な瞳に見つめられ、柊は言葉につまる。


「……」


 言葉が返せない柊に、セラはマシンガンのごとく意見を連ねていく。


「いまさら死者と生者だからとかいわにゃいでよ。アムリタだってあるんだし、あるじだっていってるじゃにゃいの。まさか、朝陽の気持ちがとか、ふさわしくないとかいうんじゃにゃいでしょうね」


 まさしくそれだった。

 朝陽は、本当に自分を好いてなんていてくれるのか。死者と生者だからという点もまだ吹っ切れていないし、そもそも自分でいいのか、何で自分なのかわからない。


「……次代の父母というものは、次代が決める。それが骨組に反映されるといわれている。実際、今でそれは覆されていない。おまえでないと駄目だと、おまえの未来の子が決めたんだ。おまえと朝陽でないと嫌だと。そこに、死者だとか生者だからとかは関係ない」


 ――次代が、選んだ。だから、おまえだと。


「それにね、朝陽にゃらそんな些細にゃことって気にしにゃいわ。朝陽は、柊のことが……これは本人から聞きにゃさい、当人じゃにゃいあたしがいってはいけにゃいことにゃんだから」


 びし、と尻尾をひとふりしてセラは寝台の方を見た。


「ね、朝陽」


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