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朝陽と骸骨  作者: 山藍摺
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彼は彼ゆえに

一応、彼の行動理由です。酷いです。彼はあんな存在です。


 彼は、気付いたときには既に「彼」だった。

 彼が「彼」だと気付くより以前の「彼」を、彼は知らなかったし、知ろうとも思わなかった。

 だって、別にそんなこと面白そうではなかったから。今の彼は自身が「彼」なのだと気付いているのだから、それでいいじゃないかと思った。自身のルーツなんて、どうでもよかった。

 それよりも、彼は「彼」ゆえに面白いものを探し、あちらこちらをさまよった。

 そして彼はいつしか地獄に辿り着いた。

 そこには、たくさんの面白いものがあった。

 常に途切れずやってくるたくさんの魂、その来歴が面白かった。ちょっかいを出したら、面白い具合にぐちゃぐちゃになったし、面白い具合に彼のオモチャになった。

 故に彼はいつしか恐れられ、いつしか鬼をまとめるようになっていた。

 彼は「彼」だから、獄卒鬼をまとめることに責任なんて最初から感じず、獄卒鬼を任されたこともイコール、遊ぶためのオモチャもしくは面白くちょっかいを出すための駒を手に入れた、ぐらいのことにしか思っていなかった。

 彼は「彼」だから、常に思考は「面白い」か「面白くない」かの二択しか存在しなかった。

 閻魔の飼い猫を横槍を入れて騙して拐かしたのも、侍の魂を輪廻から勝手に引っこ抜いて駒にしたのも、次代の母の邪魔をするために、鬼の大群を差し向けて命を狙ってみたのも。

 彼は面白いから、やっただけにすぎなかった。

 彼は「彼」だから、「罪悪感」という単語も、「良心」という単語も、「ごめんなさい」という単語も、「悪いことをした罪の意識」という気持ちも持ってなかった。

 彼は、この先もずっと「面白い」か「面白くない」の二択で永い永い時間を生きていくのだろう。

 彼には、例え何をされても、それが「彼」にとって「面白い」ならば良しとするだろう。

 だから、だろう。

 彼がちょっかいを出した存在たちが、結果どうなっていても――……彼には、関係ないのだろう。

 だから、だろう。

 彼には罪悪感なんてないから、罪に苛まれる良心なんて存在しないから、ぐちゃぐちゃにしたオモチャに会いに行く「無神経」なのだろう。


「あははは! ずいぶん面白そうなことになってるね? ねえ、混ぜてよ!」


 彼は、「彼」――「トリックスター」だから、善でも悪でもないから、善にも悪にもなる。面白ければまともにだって「擬態」するし、「無邪気」を「装って」みせる。

 彼は、アマチカ山にて勢揃いする面々に、満足そうに嗤った。

 例え、敵意も向けられても。それは彼が「彼」たるゆえに、彼には――朱色童子には無意味だった。


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